大学におけるビジネス教育に関しては、私の所属しております神戸大学でも、MBAのコースをやっておりまして、私自身も人材マネジメントのコースを教えています。かつては、「できるだけ白紙で、大学では何も教えないでわが社へ送り込んでください」「大学ではいろいろな事を教えないでください。余計なことを教えられても、全然役に立ちませんから」などのご意見が企業側にありました。
しかし最近は、職場を離れた教育訓練、体系的教育が特に重要視される傾向にあります。かつての上司が隣に立って見よう見まねで教えていたOJT、これは今でも重要なんですが、それに加えて、Off-JTと呼ばれるMBAなどのビジネス教育などにも注目が集まっています。OJTとOff-JTの二つの違いですが、どちらかというと、OJTの方が暗黙知的なところを教えるもの、Off-JTが体系的な、客観的な教育という点で特徴が異なると思います。
ここで少しMBAの話に触れると、私の教えている大学でも経営学部という学部があって、経営学を教えていいます。しかし、学部レベルで経営学を教えるというのは、非常に難しいです。学部では難しいんですが、大学院レベルでは、MBAの教育という形で、実際に仕事を持っておられる方が働きながらたくさん通っていらっしゃいます。そんな中、MBAを始めとするビジネス教育に関する研究で、わかってきたことがあります。
それは、日本のMBAは、アメリカのビジネススクールとはかなり異なっていて、必ずしも、すぐに実務上に使えるような知識を教えるものではありません。アメリカは、「プラグマティズム」(実証主義)の国ですから実際に役に立つことや、短期的に役に立つことを非常に重視します。日本のMBAはもうちょっと学問的なところから入っていくのが主流です。
日本における経営学というのは、社会科学の領域になりますが、アメリカ人の経営学の教授なんかに社会科学の話をすると、ちょっと変な顔をしますね。それは、あくまでビジネスはビジネスじゃないかということなんですね。だからアメリカでは、経営学を社会科学の教育的領域という風には捉えていないんです。
根本的に日本とどこが違うかというと、アメリカというのは短期志向なんですね。短期で結果を追い求めるという短期志向。もちろんそうじゃないというところもあると思いますが、簡単に分けるとそうなります。対して日本の大学での経営学教育は、長期に雇用されるということを前提するので、結果に行く前のプロセスの部分も重視するという形になっています。
また、アメリカのMBAの学生さんと、日本の学生さんとでは、通う目的も大きく違います。アメリカではMBAは社会的に通用した資格ですから、MBAをとったら高い給与が約束されています。
MBAを取得して違う職に就く。MBAの取得は転職のための手段として考える傾向がアメリカでは非常に強いんですが、日本の場合は、企業派遣をされている方の話を伺いますと、ほかの会社、たとえば同業他社、もし業種が違ったとしても、ほかの会社とのコネクション、あるいはコミュニケーションができるようになるんじゃないか、という期待を持っているようなんですね。そういう目的から学生さんを派遣しているところが、日本の企業では非常に多いですね。MBAの期間は一年半かせいぜい二年なんですが、MBAのコースを卒業しても何らかの形でコンタクトを、コネクションを持ちながらずっと情報交換していくというケースが非常に多くて、それがビジネス上も役に立っている、ということです。
だから、日本におけるMBAというのは、今のところ、情報交換、あるいは他社の情報を仕入れる目的で来ている学生さんが多いんですね。