2012年に「高年齢者雇用安定法」が改正され、2013年4月1日から施行されています。改正前は各企業に「①定年をなくす②定年を65歳まで引き上げる③定年後再雇用制度(継続雇用制度)を導入する」のうちいずれかの実施が義務付けられていました。
そのため、多くの企業は最も人件費負担を少なくできる③の定年後の再雇用制度を導入する企業が最も多かったのが現実です。しかも改正前は定年に達した従業員に対して「能力・勤務態度等の労使協定で定めた条件を充足する者」という"線引き"が可能でした。つまり、「再雇用」にあたって、評価要件など基準に設けることが可能でした。
ところが、改正により「本人が再雇用を希望すれば、企業は再雇用条件を提示する」ことが必須となったのです。2013年4月1日からは希望する従業員全員について65歳までの継続雇用が企業に義務づけられることになりました。つまり評価などによって再雇用を拒むことができなくなりました。
もちろん、この義務づけには経過措置があり、2013年から12年間かけて1歳ずつ段階的に引き上げられることになっています。
この法改正を企業とりわけ成長企業は「定年後の従業員をどのように活用すべきか」と課題を真摯に捉える必要性があります。確かに今回の法改正が「年金受給年齢の引き上げ、可能な限り企業での就労期間を延長させる方策」の一環である点は否めません。しかし、既に日本では65歳以上人口が21%を超える超高齢社会に突入し、全就労労働人口の中に60歳以上の人びとが占める割合が高まっているのも現実です。
日本社会全体の高齢化のスピードが増し超高齢社会となるなかで、企業にとって「定年退職という節目を迎えた再雇用社員にモチベーションを維持しながら活躍してもらう」という積極的な視点が急務と思います。
ただし、あくまでも再雇用にあたってのキーワードは本人の「モチベーション」の有無であると思います。何故なら「モチベーションの低い再雇用者」を放置するならば、現役世代のモチベーションが減退し、組織全体に「ぶら下がり意識」が蔓延してしまうからです。
再雇用者の活用で第一に留意しなければならないのは、退職時期に至る前から明確に再雇用の段階で自らの役割認知をしっかりと持ってもらうことが必要となります。決して自動的に「働き続けることができる...」という意識ではなく、再雇用後の自らの働き方、果たすべき役割と目標設定をしっかりとイメージしてもらわなければ、本人のモチベーションも下がることは必定です。
また、再雇用後の職務内容を本人と企業の側でしっかりと相互確認をすることも重要です。
そのためには企業の側がまず、再雇用者に対して「何を求めるのか」「何を期待するのか」「何を目的とし、どのような目標設定をしてもらいたいか」という点を明示化できなければなりません。企業の側が何となく「今まで通りの仕事をしてもらう」という姿勢で、再雇用者に対して以前と同様の役割や職務を与えるならば、本人のモチベーションも下がるのみならず、後進のモチベーションも下がります。そして何よりも後進が育ちません。
仮に再雇用社員に対して従前と同様の業務の遂行をしてもらうにしても、その業務の遂行の目的は、培ってきた業務上での技術やノウハウの次世代への移植のためであるという点を常に自覚してもらう必要があります。また、企業の側が再雇用者に対して具体的な後進指導の対象を明記し、どのような職務経験を伝授していくのかという点などについてしっかりと確認しておく必要もあります。企業の側は再雇用者の活用を後進への広義の「メンター役」と位置づけることも必要です。
つまり、再雇用者の活用を単に「法律がそうなったから」という消極的に位置づけ、「居てもらうからには今まで通りに働いてもらう」式に単純な労働力として捉えてはならないということです。あくまでも企業の今後の成長のために如何に活躍してもらうかという計画性が不可欠であるということです。さもなければ、組織内に不要な「世代間バトル」を生み出してしまう危険性もあることを忘れてはなりません。
◆本間 次郎◆
株式会社ノイエ・ファーネ 代表取締役
1954年生まれ。大学在学中より出版・編集業務に携わり、主に労働経済関係をフィールドとし取材・執筆、編集業務に携わる。1992年から中小企業経営 者向け経営専門誌の編集および、教育・研修ツール(冊子媒体、ビデオテープ)等の作成、人材の教育・育成に関する各種オープンセミナー・インハウスセミ ナー企画の立案・実施、人材開発事業・人事コンサルティング業務に従事。
2010年11月に『人と企業組織が互いに「広い視野」「柔軟な思考」「健全な判断」に基づいて行動し、最適な働きの場を創り出していく協働に貢献する』を使命とする株式会社ノイエ・ファーネを設立。