企業活動に限らず、社会生活ではあらゆる局面でリーダーシップが求められます。地域生活、ボランティア活動等なども含めて、共通の目的のもとで集う組織では、全体を牽引する役割を果たす機能が当然必要となります。こうした機能を果たす人が一般的には「リーダー」と呼ばれるのだと思います。
さて、ビジネスの世界はしばしば「戦場」に例えられます。そのためか、高度成長期の日本のビジネスシーンでは、戦国時代の織田信長、豊臣秀吉、徳川家康などの武将や、帝国陸海軍の将官による戦闘現場での部下統率を引き合いに出し、それぞれをタイプ分類して論じる傾向が、出版物などでも多く見受けられました。
こうした、リーダー像をタイプ分類する傾向は今も続いています。大河ドラマやテレビドラマでは、主人公がさまざまな難局を突破していく過程で発揮するリーダーシップが描かれます。2013年に放映された『半沢直樹』などは、その典型かもしれません。視聴者はドラマの主人公の言質言動に溜飲を下げ、「自分の組織にもこうしたリーダーがいたらなぁ~」と、主人公の活躍に自らの心情を仮託する現象が見受けられました。「上司にしたい」と思う俳優やタレントのランキング発表なども、理想とするリーダータイプへの仮託なのかもしれません。
ビジネス書においても、「リーダーシップ」はタイプ分類される傾向があります。"鬼軍曹"タイプ、が持てはやされたかと思えば、"サーバント"(奉仕者)タイプ、"メンター"(支援者)タイプが話題となったり、タイプ分類の振れ幅が非常に大きく論じられます。このように、リーダーないしリーダーシップのタイプを分類したくなるのは、混沌とした社会状況と、グローバル化によりビジネス環境が変化する過程で、大方向を示してくれる水先案内人を無意識に求めてしまう「空気」なのかもしれません。
そこで、「空気」に左右されず、企業が成長過程で必要とするリーダーとは何か、リーダーとして発揮すべき役割は何かを、「特定のタイプや人物」に仮託することなく考える必要があると思います。これは同時に企業組織が成長していくうえで、組織を構成する一人ひとりの成長課題にも直結してくると思います。
「リーダーシップを発揮する」という意味を、単純に、的確な指示や命令を出して部下を思いのまま動かすこと、あるいは先頭に立って周りを引っ張ることであると理解している人が多く存在しています。しかし、リーダーが果たすべき役割・機能としては、これらは一つの側面に過ぎないといわなければなりません。とりわけ企業組織において、リーダーには状況の変化に対応していく多岐の役割・機能が求められます。単純に部下指導、率先垂範、前線での指揮や士気を鼓舞する豪胆さがあればリーダーシップを発揮できるとは限りません。あえて誤解を恐れずにいえば、こうしたリーダーシップは"成長が保障されていた時""GOALが決まっている時"には通用しますが、状況への対応次第で結果が大きく異なるような時代には短絡過ぎると思います。
私はリーダーシップとは、さまざまな状況の変化に対して周囲を巻き込みながら変化対応する「力」であると思います。一言でいうならば、リーダーシップとは、「他者へ自らの影響力を行使できる力」であると考えます。つまり、個人のパワーに帰属するものではないということです。リーダーシップがあるかないかを決定するのは、周囲がそのリーダー役割者から影響力を受けているか否かの認識に大きく左右されるということです。
一人のリーダー役割者が常に先頭に立って旗を振り、部下に指示や命令を出し、部下がこのリーダーに従って行動しているとします。しかし、部下の側が「リーダーの命令だから仕方がない」との思いで従っているようでは、このリーダーは部下に影響力を行使していることにはなりません。これではリーダーシップを発揮しているのではなく、職務上の権限でだけ、部下を従わせているに過ぎないということです。そうすると部下の行動は必ず「面従腹背」になります。
「リーダーシップ」で最も大切な視点は、周囲の認識や感情に対して敏感であろうとする行動をとっていくことだと思います。周囲から信頼を得ることを自己の目的とせず、自分自身のいまの状況・状態をメタ認知(客観的な自分理解)する能力を不断に磨く姿勢を堅持する真摯な行動が、周囲に影響力を行使する「リーダーシップの発揮」に繋がるということです。
◆本間 次郎◆
株式会社ノイエ・ファーネ 代表取締役
1954年生まれ。大学在学中より出版・編集業務に携わり、主に労働経済関係をフィールドとし取材・執筆、編集業務に携わる。1992年から中小企業経営 者向け経営専門誌の編集および、教育・研修ツール(冊子媒体、ビデオテープ)等の作成、人材の教育・育成に関する各種オープンセミナー・インハウスセミ ナー企画の立案・実施、人材開発事業・人事コンサルティング業務に従事。
2010年11月に『人と企業組織が互いに「広い視野」「柔軟な思考」「健全な判断」に基づいて行動し、最適な働きの場を創り出していく協働に貢献する』を使命とする株式会社ノイエ・ファーネを設立。