企業が創業期や成長軌道にある時には、従業員の会社組織に対する愚痴や不満を繰り返す人は少ないものです。潜在的には存在したとしても企業の方向性とベクトルが一人ひとりの働くうでの「手ごたえ」や「やりがい」とが、曲がりなりにも合致していると成長段階では顕在化するまでには至りません。
ところが、企業が成熟期に至ると往々にして不満や不平の声が目立ち始めてくるものです。それは成熟期の企業では組織構成や組織人員も拡大し分業化が進み、周りからは「何をやっているかわからない者」が拡大するからです。どのような企業でも成長期では、慢性的に人手が足りず誰もが一人数役をこなさなければならない状況が存在します。ところが、組織の成長にともない『小人閑居して不善をなす』者が発生し始めるということです。また、組織内に『出る杭は打たれる』という意識も蔓延し始め、「何事も周囲から突出せずに人並みにしていれば無難に過ごせる」という風潮が生まれ始めるものです。
こうした風潮がいつしか「組織ぶら下がり現象」として組織行動に表れる危険があります。これは企業組織が成長していく過程で必ず発生してくる組織に依存する"成長の病"であると捉えておくことも必要であると思います。
「組織ぶら下がり現象」としてあらわれてくる"成長の病"の症状は、単純化するならば次のような事柄が散見され始めたならば進行しているので要注意です。
・上下や部門ごとの組織体制が固まってしまい横断的交流が少なくなる。
・新しい試みや行動をする人が歓迎されない。
・従来からの慣習やスタイルが絶対視されて、一人ひとりの社員の間に「前例踏襲主義」がはびこりはじめる。
・誰もが周囲と同じペースで、同じような行動を取り始め、部門や個人の間に「横並主義」が生まれて活性化が失われていく。
・自分で物事を解決するのではなく、常に他者に頼り、叶わなければ他人の責任に転嫁する。
「組織ぶら下がり」としてあらわれる「組織依存」意識は、結果的に周囲のことばかりを気にした仕事ぶりとなり、「責任転嫁」にも繋がっていきます。組織への「依存意識」と「責任転嫁」は表裏の関係にあり、組織への「依存意識」が強い者は、その反動として組織へ「責任転嫁」を始めるものです。
組織依存の意識あらわれ方は様々ですが、「自分は上司の指示に従うだけでいい」「責任ある仕事はしたくない」「自分だけが一生懸命になるのはバカバカしい」「自分から行動しなくともそのうち何とかなる」「自分の仕事でも常に先送りしていれば、そのうち誰も何も言わなくなる」というものでしょう。要するに「自己の成長に対する責任は、常に自分自身が負うものである」という意識の欠如が顕著になるということです。
責任とは自分の行為・行動を自分で自由に選択して、その結果として起ったこと全てに法的および道徳的な対応を行うことです。こうした自明のことが、安定した企業組織において自分自身が組織に埋没した働き方に終始していると、「責任」概念が薄れてくるものです。
そこで、育成の視点では、自らの「働き方」の結果につい"最大の責任を持つのは本人であり、会社組織ではない"ということの強調がより重要になってきます。与えられた条件と環境の下で自らが最善の行動を行っている者は、組織に対して建設的な問題提起を行うことができるものです。
仕事上での失敗も同様です。失敗が生じた原因の所在と自らの「責任」について"逃げない"という規範作りが必要になってきます。誰しも失敗を好む者はいませんが、失敗のリスクを恐れるあまり、自分からは「何もしない」という姿勢が組織に蔓延し始めたならば、組織は死に体となります。常に組織においてはこうした構成員を発生させてしまう危険を孕んでいるのも事実です。それは、組織がある一定規模に成長した場合には、それぞれの役割機能の分化が始まるからです。
組織が役割によって分化するのは当然ですが、根源的なところで「共通の目的」に対する「協働」(貢献意欲)の醸成と組織における個人の役割と責任の明確化を怠ると、自らの頭で考え自らの意思を持って仕事に取り組まず、ただ会社や上司の指示を唯々諾々といわれた通りに実行してしまう社員を増殖させてしまうことになります。こうした社員の常套句は「私はいわれた事を実行しただけです」の繰り返しです。
◆本間 次郎◆
株式会社ノイエ・ファーネ 代表取締役
1954年生まれ。大学在学中より出版・編集業務に携わり、主に労働経済関係をフィールドとし取材・執筆、編集業務に携わる。1992年から中小企業経営 者向け経営専門誌の編集および、教育・研修ツール(冊子媒体、ビデオテープ)等の作成、人材の教育・育成に関する各種オープンセミナー・インハウスセミ ナー企画の立案・実施、人材開発事業・人事コンサルティング業務に従事。
2010年11月に『人と企業組織が互いに「広い視野」「柔軟な思考」「健全な判断」に基づいて行動し、最適な働きの場を創り出していく協働に貢献する』を使命とする株式会社ノイエ・ファーネを設立。