頼れる人
新入社員としてこの会社に入社してから、早くも1年が経とうとしていた。最初の頃は戸惑いも多かったが、少しずつ仕事の流れや業務内容に慣れ、自分の役割も確立されつつあった。
そんな中、ある日、上司から突然呼び出された。
「昨日のプレゼン、お疲れ様。君の提案、すごく良かったよ。ただ一つ、ずっと気になってることがあって」上司の言葉に、私は緊張した。何を指摘されるのかと内心びくびく怯えていると、上司は微笑みながら続けた。
「全然責めてるとかじゃないんだけど、君、質問が少ないから大丈夫かなって。不安とか疑問は抱えてない?ほとんどそういう相談がないから心配になっちゃって」
私は戸惑いながらも、そう言われて初めて気づいた。確かに、自分は他の新入社員よりも質問が少ないと思う。しかし、それは一度言われたことはしっかりとメモを取ったり、自分で考えて解決できていたりするからだと思っていた。
その後、先輩たちとの会話の中で、私の思い込みが明らかになった。先輩たちは笑いながら、自分たちも新入社員の頃は同じように不安や疑問を抱えていたと語った。
「私も昔は上司に質問しに行くのが怖かったんだよね。しょうもないこと聞いたら怒られるんじゃないかと思ってさ」
先輩はどこか懐かしい目をしながら、言葉を続けた。
「でもね、そのとき上司に言われんだ。「人に『頼れる人』が、いずれ他の誰かにとっての『頼れる人』に成長していくんだよ」ってね」
それまでの私は、「一人で仕事ができるようになること」が一人前の社会人になるための壁だと思っていた。だからこそ、独り立ちするためにも、安易に周りに頼ることは避けるべきだとさえ思っていた。
しかし、実際には「自分で解決できるようになることが一人前」という思い込みのほうが私にとってはるかに大きな壁だった。そして、その無意識のバイアスが私を迷わせ、不安や疑問を一人で解決しようとした結果、逆に周りに心配をかけることになってしまっていたのだ。
解決策は意外にもシンプルだった。定期的に相談し、先輩や同僚と一緒に仕事の方向性を考えることで、私は少しずつ変わっていった。アドバイスを貰い、新しい視点を得ることで、自分の考えが柔軟になり、より効果的に業務を遂行することができるようになった。
そして、私は改めて人に頼ることの重要性を学んだ。それは自己成長だけでなく、周りの人々との信頼関係を築く上でも欠かせないものであることを理解した。先輩の上司から先輩に受け継がれた言葉のバトンは、先輩から私に受け継がれたのだ。私はまだ、人に「頼れる人」だ。次は、私が他の誰かにとっての「頼れる人」になる番だ。
氏名 奈音 様