離職防止のためのキャリア教育~若手がぶつかる「壁」に対応する
近年、企業組織におけるキャリア教育に注目が集まっています。
今回は、キャリア教育が注目される背景とその重要性についてまとめました。
- 目次
キャリア教育が注目される背景
キャリア教育が注目されている背景として、以下の3点が挙げられます。
1. 少子高齢化による労働力不足
2013年に全ての業種で従業員過不足DIがマイナスとなって以来、2019年~2020年頃のコロナ禍を除いて、日本では人手不足の状況が続いています。
2. 日本型雇用慣行の変化
日本の組織における大卒の生え抜き人材(新卒入社した企業に勤め続ける人)の割合はおよそ5割ですが、長期的に低下傾向にあります。
また、特に1,000人以上の企業で転職者数が増えており、終身雇用が弱まっていることがわかります。
3. 若年層の仕事に対する考え方の変化
新卒就職において求人数が求職者数を大きく上回る状況が続いていることに加え、転職の情報が入手しやすくなったことで、離職に対する抵抗感が薄れてきました。
「第二新卒」という言葉が象徴するように、特に若年層の転職は当たり前になってきています。
こうした背景から、自身のキャリアについて主体的に考え、必要なスキルを獲得していくことが不可欠な時代となっています。その結果としてキャリア教育を実施する組織が増えていると言えるでしょう。
キャリア教育は離職につながる?
「キャリア教育を行うことで、若手が離職してしまうのではないか」という不安を抱える組織は多いです。しかし、より長く働けるような環境をつくるには、キャリア教育はむしろ不可欠と言えます。
より長く、やりがいをもって働いてもらうためには、まず従業員が、自身のスキルや経験の現在地を整理・自己理解する必要があります。そのうえで、自組織が各従業員に期待する役割を明確にしていきます。このプロセスを経ることで、漠然とした「なんとなく」の不安が解決されるとともに、組織内に十分に成長の余地があり、いきいきと働ける環境があることに気付いてもらうことができます。
また、「自分は組織から必要されている」と実感をもてる内容にすることもポイントです。
かつて終身雇用が当たり前だった時代から、実力重視の体制づくりをする組織も増えてきました。組織と従業員の想いをすり合わせ、より効果的な成長を促すためにも、キャリア教育は重要な機会となります。
アンケートから分かった「各年代の壁」
2022年3月、インソース社内で次のようなアンケートを実施しました。
【アンケート概要】
● 回答者:インソース従業員221名
● 実施時期:2022年3月
● 内容:自身の経験からどのようなものが壁となったか
(※「壁」とは仕事の中での悩みや漠然とした不安のこと)
● 主な質問項目(抜粋)
①仕事に関することで「27歳の壁」「30歳の壁」「40歳の壁」「50歳の壁」としてイメージするもの(※自分より下の年齢の壁について回答)
②自身はそれをどう乗り越えたか
③今の年齢になって、27歳、30歳、40歳、50歳の自分に伝えたいこと
※いずれも自由記述での回答
◎27歳の壁
仕事のマンネリやモチベーションの低下、興味のある仕事と担当業務のギャップなどが特徴的でした。一方で新しいことにチャレンジしたいという気持ちも強くなるようです。また、慣れゆえの自信が危険とのコメントが目立ちました。
◎30歳の壁
ライフイベントによってキャリアや転職の条件にも制約が出ることが多いようです。また求められる役割としてマネジメントへの言及が増えたほか、昇進やスキルなどで周りとの差が気になるという意見もありました。
◎40歳の壁
先を見据えた将来への不安が目立ちます。また、体力が落ちて思い通りに働けないという意見も少なくありません。
◎50歳の壁
体力が突出して多く挙げられています。キャリア面では再就職や定年など、キャリアの終わりを考えるものが多いほか、環境の変化・部署異動への対応や、システム・パソコンスキルへの苦手意識を持っている人もいるようです。
若手の壁に対する有効なキャリアのアプローチ
ここからは特に離職が多い若手に焦点を当て、25歳、27歳、30歳それぞれに有効なアプローチを3つずつご紹介します。
◎25歳に対するアプローチ
入社3年目、仕事の慣れや失敗などからモチベーション低下を起こしやすく、最も離職が多いとされる時期です。
「考え方を切り替える」
考え方を切り替えることは、壁にぶつかった際のヒントとなります。
ABC理論によると、A(Active Event=状況・出来事)、B(Belief=考え方)、C(Consequence=感情・行動)のうち、B(考え方)が重要だといわれています。
例えば、何か失敗したとき、「この仕事に向いていない」と思うか、「何がいけなかったのだろう」と考えるかで、以降の仕事へのモチベーションが異なるでしょう。
また、自身の思考のクセを自覚して、そこに陥っていないか注意することも大切です。
考え方の種類 | 特徴 | 例 |
---|---|---|
全か無か | なんでも白黒付けようとする。「灰色」は一切認めない。 | ・「100%でなければならない」 ・「1つでも間違いがあったらおしまいだ」 |
心のフィルター | 一つの良くないことが気にかかり、くよくよ考えて現実が見えなくなる。 | ・ある人の厳しい指摘が頭から離れなくなり、心が切り替えられなくなる |
すべき思考 | 勝手に「~すべき」「~すべきでない」と考える。合致しないと自己嫌悪に陥る。 | ・「上司の期待には120%応えなければならない」 |
プロとは何かを突き詰め、自分で目標を設定する
3年目には業務に慣れ、自分の仕事はできるようになったと自負する方が多いかもしれません。その際に改めてプロフェッショナルについて考えると、自分に足りない部分が見えてきたり、仕事への姿勢を見直すきっかけになったりするでしょう。
この「プロ」の定義は、会社から与えるのではなく、本人が考えることがポイントです。それによって当事者意識を持つことができ、自分の業務に落とし込んだ具体的な目標設定ができます。
成果を出すための「仕事の進め方」を確認する
仕事の仕方は、年次や役職によって異なります。新人の頃に学ぶことが多いPDCAサイクルについて、改めて確認するのも有効です。25歳では単にPDCAを回すことがゴールではなく、全体像を捉えた最適な計画や業務改善の視点も求められます。
また、PDCAは目標達成のツールとしても活用できます。前項のプロに近づくための目標達成に向けて、PDCAを活用するのも良いでしょう。
◎27歳に対するアプローチ
入社5年目は、チームリーダーなど組織の中核人材となって、教わる立場から教える立場になる頃です。
仕事への慣れがモチベーション低下の大きな要因の1つとなるほか、自分の視野の狭さになかなか気づけない葛藤の時期でもあるかもしれません。
自分の仕事を様々な視点から見つめ直す
自分の仕事を様々な視点から見つめ直すことも、有効な方法です。視野が狭いことは、成長機会を逃すことにもつながります。
まずは、上司や先輩と同じように仕事を進められているか、同様の判断基準を持てているか、改めて考えてみると良いでしょう。
次に、自身が仕事に慣れスキルアップをするだけではなく、チームや組織において成果を出しているか、他に自身が組織のためにできることはないかを考えます。
そしてさらに広く、所属する組織の枠を超え、社会全体の視点から考えると、自分がすでにできていると思っていた部分にも、まだ新しい発見が出てくるかもしれません。
役割を変更する
例えば教えられる立場から教える立場へ、など役割を変更し、役割・立場に応じた仕事の進め方を身につけてもらうと良いでしょう。
同じ仕事を続けることで、飽きてしまって離職というケースは少なくありません。おすすめの対策をご紹介します。
①チームで管理をしている数字の更新してもらう
これによってチームで成果を出すことに意識を向けさせることができます。
②上司から部下に業務を一部引き継ぎ、判断する機会を増やす
仕事の範囲を広げることは視野を広げることにもつながるでしょう。
③後輩を指導してもらう
後輩たちの見本になることで、本人もチームの役に立っていると感じられ、モチベーション向上が期待できます。また、プロジェクトのリーダーなどに任じるのも有効です。部署横断のプロジェクトなら、新しい業務に取り組んだり、ふだん関わらない人と仕事をしたりするため、新しいスキルの獲得やポジションの構築も可能です。
周囲と比べて焦る必要がないことを伝える
今見えている範囲は狭く、まだ様々なキャリアを歩む可能性があること、変化の捉え方は自分次第ということを伝えるのもよい方法です。
キャリアの80%は予期しない偶然の出来事によって形成されると言われています(ブランド・ハプンスタンス・セオリー)。つまり、固定されたキャリアに固執せず、偶然の出来事を活用することが重要だということです。
◎30歳に対するアプローチ
入社8年目は、管理職への昇進やライフイベントによって、今後の将来を考える機会が多く、働き方に悩むことの多い年齢です。
複数パターンの将来を具体的にイメージする
立場や働き方の変化に対する不安を払拭するためには、思い描く将来を言語化しアウトプットする必要があります。ポイントは、複数のパターンを考えておくことです。
また、希望する働き方が今の会社で実現できるかというのも重要なポイントです。特に人事や上司の方には、職場環境の改善や、充実した制度の整備が求められています。
環境の変化に対応できる仕事術を知る
環境・生活が変化しても問題なく仕事を回すための仕事術を身につけておくことも大切です。
例えば、業務の見える化、つまりマニュアルの標準化や進捗管理票の運用などは重要なポイントです。
また、QCDR、すなわち質(Quality)、コスト(Cost)、納期(Delivery)、リスク(Risk)の4つの観点を意識した優先順位付けも有用です。さらに、メールやコミュニケーションでのロスを少なくすることも軽視できません。
そして、個人ができる仕事の仕方だけでなく、いわゆる業務の属人化を減らすための仕組み作りも求められます。
リーダーが身につけるべき心構えとスキルを獲得する
リーダー・管理職に身につけてほしいスキルの例として、以下の9つが挙げられます。管理職でなくても、ぜひ身につけておきたいスキルです。
①当事者意識 | すべての課題や問題から逃げずに対応しようという自覚 |
---|---|
②判断力 | 多様な問題を検討し、ブレずに主体的に最善の判断をし、決断する |
③課題認識力 | 組織の課題を自ら認識し、達成すべき目標を立てる |
④計画立案力 | 目標化成のための手段を選択し、計画を立てる |
⑤目標管理力 | 単なる進捗の管理ではなく、環境の変化に合わせて計画や手段を修正しながら結果的に達成へ導く |
⑥リスク認識力 | 冷静に何がリスクかを認識し、回避行動をとる |
⑦顧客満足力 | 顧客など組織外の利害関係者の期待に応える |
⑧調整・交渉 | 組織内外の利害関係者に対する交渉・調整 |
⑨デザイン力 | メンバーとコミュニケーションを取りながら動き、部下の能力を結集する。部下の得手不得手を把握して、成長してもらうためにはどんな業務をさせたら良いかデザインする |
組織によって求められるスキルは様々です。まずは自組織に必要なものを見つけることから始めてみてください。
キャリア教育を実施する際のポイント
最後に、キャリア教育を実施する際に気を付けたいポイントをお伝えします。
まず、研修の講師・ファシリテーターは、可能であれば対象者よりも年上の方を選定してください。同じような経験をしてきた人生の先輩からのアドバイスには説得力があります。
次に、同じ組織の年上の先輩たちからのメッセージを紹介しましょう。時間があれば、組織内でアンケートを行ってメッセージ募集するのもおすすめです。
まとめ
今回は主に若手がぶつかる「壁」とキャリア教育を実施する上でのポイントについてご紹介しました。
若手が直面する壁に立ち向かうためには、自己認識と目標設定が欠かせません。また、環境の変化に対応するために、将来に向けての複数のシナリオを具体的にイメージし、キャリアの成長に繋げるための心構えとスキルを獲得することが大切です。
複数のアプローチを組み合わせて、より充実したキャリア教育を目指してください。