社会人として身につけたい常識力について~アンケート調査の結果より
近年、転職などの増加により、新人だけではなく中堅や管理職に至るまでOJTなどでは教えない部分の知識、経験不足が課題であると伺う機会が増えました。
そのような背景のもと、明文化しづらい「常識力」というテーマでアンケート調査を実施し、これだけは社会人として身につけてほしいという「常識」をお尋ねしました。
2024年10月に企業・組織の人事・教育担当者向け実施したアンケート調査の結果から一部抜粋してご紹介いたします。
※2024年10月3日~10月18日にWEBアンケートにて実施、回答企業数67社
※アンケート回答より一部抜粋・加工して使用しています
- 目次
部下指導やコミュニケーションが上位に
「常識力」をテーマに学習させたい内容として、「部下・後輩指導」「コミュニケーション」が多い結果となりました。また、「労務管理」や「社内事務」など法律やルールに関する知識付与についても課題を感じている組織が多いようです。
【設問】
貴社・貴組織で「常識力」をテーマに研修を実施するとして、取り扱いたいテーマをお選びください。例を参考に、貴社・貴組織でも似たような事例がないか、今後課題になりそうな点がないかをお考えください。(複数回答可)
- ①給与について
(例:給与明細の見方や社会保険についての知識がない) - ②勤怠(労務)について
(例:管理職が部下の勤怠管理をするための労働基準法などの基本知識を持っていない) - ③稟議や社内での申請について
(例:「稟議」が果たす役割や、何のために書くのかが分かっていないため、不備が多い) - ④業界知識について
(例:中途社員で別業界から入社した人が、こちらの業界のやり方を受け入れようとしない) - ⑤マナーについて
(例:社員や取引先には愛想がいいのに、清掃員や宅配業者の人にはあいさつすらしない) - ⑥契約・法律について
(例:契約関連は全て法務任せで、取引におけるリスク管理を自分でする意識が無い) - ⑦金融知識について
(例:保険や投資などに関する基本的なリテラシーすらない) - ⑧部下・後輩指導について
(例:問題がある行為を見聞きしても、他部署の人だからと言って注意しようとしない) - ⑨コミュニケーションについて
(例:昔の感覚が抜けない上司が、部下を呼び捨てやあだ名で呼び続けている)
管理職の備えるべき「常識」とは
管理職に対しては、「労務管理」に関する記載が多く見られました。また、「部下指導」や「管理職としての考え方」についても「常識力」として必要とされていることが見受けられます。
- ・労務管理の知識
- ・管理職の第一のお客様が部下であること
- ・管理職として困っている人がいないか目配せする、悩んでいそうな人がいたら声がけする、などピープルマネジメントが重要であるということ
- ・昔の感覚での部下育成は失敗する。今は社員個々の特性にあった育成・指導方法を身につける必要がある
- ・ハラスメントと言われることを恐れて、部下への注意が減っている。注意される側も、ハラスメントと言いやすい環境になっており、注意する側とされる側両方の教育が必要
- ・自分は会社側の人間だという大前提の意識を持つ。管理職は、自分の裁量で自組織の仕事のやり方を変えられる権限と責務があることを認識してほしい
①新たに担う労務管理業務
管理職として労働者を使用する立場になり、初めて関わる業務となる方も多いのが「労務管理」業務です。知っておくべき知識として、労働基準法、労働安全衛生法(メンタルヘルス)などが挙げられます。新任の管理職研修として盛り込むことが多いテーマですが、eラーニングなどを使った定期的な教育も効果的です。
・労務管理研修~管理職として「使用者」の立場で成果とルールの両立を目指す
・短時間で学ぶ労務管理
②時代に合わせた部下指導
かつての、「背中を見て育て」という言葉で形容される、上司・先輩の仕事のやり方を見て学ぶような指導や、部下の意見を聞かず自分の考えを押しつけるような指導は、近年の社会の変化や「個」を重視する傾向に合わなくなりました。「丁寧に」「多様な部下一人ひとりに合わせて」指導することが求められます。
その一方で、部下に無関心(無関与)でいることは、管理職としての役割を果たしていません。部下を成長させるために、適切なタイミングで介入し、指導を行うことが必要です。また、部下が間違った行動をした時には、きちんと叱ることも大切です。部下の成長を願い、嫌われることを恐れずに指導していきます。
両者のバランスをとりながら、指導を通じて部下を育成するという目的は変わらずに持ちつつ、指導方法を時代に合わせてアップデートさせていきます。
・部下指導アップデート研修~若手部下との距離感をつかむ
・Z世代の育て方研修~新しい価値観に向き合う人材育成のあり方
中堅社員の備えるべき「常識」とは
中堅社員が備えるべき「常識」として、「後輩指導」に関する記載が多く見られました。また、さまざまな形での「自己研鑽」についても、書かれていました。
- ・管理職にならない人でも後輩への配慮をする
- ・上司と部下の橋渡し、将来の目標を見据える
- ・自ら仕事を作り出す役割があること
- ・自社内にとどまらず、他社の社員との交流をして視野を広げる
- ・自分の担当の知識やスキルだけでなく、他部署で必要なスキルや他業界の知識などスキルアップする
- ・世の中の仕組みや歴史、芸術の分野など一般教養に関する知識
- ・能力向上や自己研鑽に取り組むにはどのような心掛けが必要か?など成長につながる考え方
- ・ベテラン社員が良くも悪くも自分に都合の良い解釈をしてしまう、責任のある立場にはなりたくないが不満は言う
- ・今更聞けないが、実はできていない事務処理や不足している社内業務知識
①リーダーシップを発揮した後輩指導
中堅社員は、今後の管理職昇格有無に関わらず、後輩の指導やサポートをすることは、言われなくてもやってほしい常識の一つとして挙げられています。後輩の手本となるよう率先垂範して行動することが期待されています。
・後輩サポート力研修~「頼れる先輩」に求められる3つのスキル
②社内外を通じた自己研鑽
自分の業務をより高度なものに昇華させるためのスキルアップも必要です。受け身の姿勢から脱却し、自ら仕事の幅を広げるために行動を起こすことが求められています。自業務から少し離れた視点での経験やスキルアップ、業務に直接的には関係しない教養(リベラルアーツ)など、多面的な自己研鑽がその後の成長につながります。
・【偉人に学ぶ】志を立て、運命を開拓する~渋沢栄一の生き様から考える仕事の向き合い方
若手社員の備えるべき「常識」とは
若手社員に対しては、「主体性」や「社会人としての自覚」に関しての意見が多い傾向がありました。自ら積極的に行動し、自身の立場に応じた責務を果たすことが求められていることがうかがえます。
主体性はただ仕事を任せておくだけでは育ちません。新人研修などで知識や考え方を伝えるだけではなく、継続的に意識させることで定着につながります。特に、3年目までの教育の中で伝え続けることで、その後の成長速度が加速します。入社から3年間まとめて教育プログラムを考える組織も増えています。
- ・社会人として結果を出すことをもっと意識してほしい
- ・自ら担当する業務に自主性・自律性・目的意識を持って臨む姿勢を持ってほしい。指示やマニュアルをただ形式的に処理している人が増えている
- ・学習機会や研修機会、業務指示は「与えられるもの」という意識が強く、自らの意図で取りにいくことや考えることができていない
- ・新人が、「電話を新人ばかりに取らせるのはおかしい」などと主張する場面が見られる。社会人になったら自分の思うようにならないこともあると、認識を持ってもらいたい
- ・業務上知りえた情報(個人情報含む)の、言って良いこと・悪いことの区別がついていない
- ・指示待ち人間ではなく、自主的に考え行動する習慣を身につけさせたい
・社会人2年目のビジネス基礎研修~ひとりだちの意識を持ち後輩の見本になる
・社会人3年目のビジネス基礎研修~中核者として組織貢献の幅を広げる
中途社員の教育課題
中途社員の教育課題は、バックグラウンドの違いによる個々のスキルのばらつき、即戦力ゆえに教育時間の確保が難しい点が多く挙げられていました。
また、言語化しづらい社内の暗黙知を定着させるまでに時間がかかります。中途社員が即戦力として活躍するためには、「自社らしさ」をいかに早く定着させるか、その体制づくりにかかっていると言っても過言ではありません。
- ・企業理念の浸透、社内人脈形成の必要性を伝えること
- ・入社早々業務に忙殺される。キャリアアップや自己研鑽のためにどう行動するか?を考える時間がない
- ・そもそも中途社員向けの教育がない。年齢、業界経験、人によって千差万別なのでどうしていいかわからない
- ・即戦力採用なので、ほとんど「自社らしさ」に関する教育が出来ていない。オンボーディング体制が充分でない
- ・社会人としての常識部分は触れていないため、知識や経験に若干のバラつきがある
- ・社内用語、略語、社内暗黙ルール(報告の仕方、メール連絡)など、教える機会が新入社員に比べて少ない
・中途社員の受け入れ・オンボーディング研修~面談で離職防止のために部下と話す5つのこと
・【社内手続き・圧倒的時間短縮シリーズ】入社手続きナビ
まとめ
今回は「常識力」というテーマでみなさまからのお声をいただきました。
正確な知識付与できるものとして労務知識や社内ルール(フロー)などは、学習機会を持ち内容を理解さえすれば身につけられるものです。
一方で、人によって捉え方が異なるようなコミュニケーション分野、言語化しづらいマインド醸成、モラルなどは、本人に考えさせるような研修やワークショップなどを通じて、伝えていくことができます。
自社の「常識力」を洗い出してみて、知識面は短期的な教育機会に組み込み、マインド面は長期的なプログラムで浸透していけるよう、計画的な取り組みがおすすめです。