人的資本経営 研究教育センター

人的資本経営 研究教育センター

【開催報告】神戸大学大学院 経営学研究科 人的資本経営研究教育センター 開設記念シンポジウム「人的資本経営を問い直す」

目次

研究科長挨拶

神戸大学大学院経営学研究科長 國部 克彦氏より開会の挨拶をいただきました。

センター長挨拶

神戸大学大学院経営学研究科 教授、人的資本経営研究教育センター長 上林 憲雄氏よりセンター設立の経緯についてご説明いただき、日本企業の人的資本経営の実現による日本経済の活性化、ダイバーシティの促進や働きがいの向上といった社会課題の解決に貢献等、センターのミッションや今後の展望についてお話しいただきました。

基調講演:「企業の経営基盤強化について ~中長期視点でのGDP+無形資産~」

旭化成株式会社 取締役会長 小堀 秀毅氏

日本においても世界においても、あらゆる面で大きな転換期/変革期を迎えており、その一方で、カーボンニュートラルな社会、循環型経済社会、安心安全で健康快適な社会のような将来に向けた目指すべき持続可能な社会の共有化が進んでいる中、創業100年を超えてなお成長し続ける旭化成グループのこれまでと将来に向けた取り組みについて基調講演をいただきました。
旭化成グループでは、100年企業の共通点である長期的視点での経営、創業の精神の継承、あくなき改革の3つであるとお話しいただき、旭化成グループにおいては企業風土を守り続け、共通の価値観、目指すべきビジョンを大切にしてきたこと、また組織改革や事業ポートフォリオの変革を絶えず行うこと等でこれまでの「GDP+無形資産」としてGreen、Digital、People(人財)の3つのトランスフォーメーションに取り組むことで経営基盤の強化し、また持続的に企業価値を向上させていくため経営戦略と人財戦略を連動させるとともにそれを実現可能にする組織体制を敷きくことで、人的資本を活用した組織競争力の強化を可能にしていくこと等についてお話しいただきました。

講演:「人的資本経営の今日的意義と課題」

株式会社インソース 取締役・執行役員CFO
神戸大学大学院経営学研究科 客員教授 藤本 茂夫

人的資本に関することは古くから論じられてきたにもかかわらず、なぜ昨今注目を浴びるようになってきたのか、また日本企業において人的資本経営を推進していくにあたっての課題について講演を行いました。
人的資本経営の今日的な意義として(1)価値創出主体であるヒトへの低水準投資、(2)低労働生産性による負のスパイラル、(3)OJT偏重人的資本投資の行き詰まり、(4)デジタル人材投資と転職リスクの4つが考えられ、さらに今後の課題として(1)「個に近づく」(属性から個性へ)、(2)企業主導の、両利きの人的資本投資、(3)エンゲージメント向上によるデジタル人材リテンション、(4)人事部門のファイナンシャルリテラシー向上の4点があげられるとの報告を行いました。

講演:「女性活躍を阻害する制度的要因とその解消に向けた人的資本情報開示の在り方」

神戸大学経済経営研究所 教授 西谷 公孝氏

日本の職場ではまだまだ女性が活躍できておらず、男性、終身雇用前提の日本的雇用制度いまなお続いていること阻害要因となっていることについてご報告いただきました。
日本的雇用制度は日本型コーポレートガバナンスシステム(メインバンク、株式持ち合い、安定株主等)と相互に補完しあうもので、これまでこの相互補完が長期的視点での経営や人材育成を可能にしてきましたが、バブル崩壊以降この特徴が薄れてきて株主・投資家の発言力が強まっており、企業の経営目標や人材育成も短期化していくと考察されました。
このような環境変化の中で女性従業員を企業価値向上のための人的資本として位置付けた情報を積極的に開示していくことが求められるようになり、開示の在り方としては女性従業員の活躍がどのように企業価値向上に寄与するのかを分かりやすく開示することや、具体的な取り組み状況を数値でわかりやすく開示すること等が重要となることをお話しいただきました。

講演:「組織のレジリエンスを高める人的資本経営―ダイバーシティ推進の観点から―」

神戸大学大学院経営学研究科 准教授 庭本 佳子氏

講演の冒頭、コロナ禍という不測の事態に見舞われた際、迅速に対応できた企業(組織レジリエンスの高い企業)と対応できなかった企業があり、その差は危機的な状況に対応するための組織プロセスが普段から機能していたかどうかにあったということをご報告いただきました。
この組織レジリエンスを高めるためには多様な価値観やスキルを持つ人材の価値を最大限引き出すような制度設計・運用を行うこと、つまり人的資本経営が必要であり、その中で普段からダイバーシティを推進することで組織レジリエンスを高めておくことができ、危険の予知や不測の事態への備え、あるいは不測の事態に陥った際には効果的な解決策、打開策をより早く打つことに役立つと考えられるとお話しいただきました。
現在人的資本経営に取り組まれている多くの企業においてダイバーシティに関することが人的資本情報として開示されてはいるものの、その中身ついては女性管理職比率等通り一遍な項目が開示されているにとどまり、まだ組織レジリエンスを高める人的資本経営につながっているとは言い難い状況であり、現状を踏まえると、各企業の人的資本経営の評価においては情報開示しているかどうかよりも実質的に多様な人材を活用した人的資本経営を目指しているかどうかを見ていくことが重要になるとお話いただきました。

パネルディスカッション

モデレーター 上林 憲雄氏
パネリスト 鈴木 竜太氏/西谷 公孝氏/庭本 佳子氏/藤本茂夫

ディスカッションの冒頭では司会進行役を務めた鈴木教授から、これまで日本企業は「人を大切にする経営」に長けていると言われてきたにもかかわらず、人的資本経営に関する取り組みにおいては後れを取っていると言われており、このふたつはどう違うのかという疑問が投げかけられました。
パネリストの3者とも「日本的雇用慣行」が背景にあるという考えは共通しており、終身雇用や男性従業員前提の精度、長期的な能力開発が前提にあり、高度経済成長期には時代背景も相まってこれが合理的なもので組織力という武器になっていたが、今日環境が変化してもなお制度や慣行が変わっていないため、人的資本経営においては後れを取っているのではないかという議論が交わされました。
その他人的資本を活用するフェーズについての考えや日本的経営に対する評価、最後に日本企業が人的資本経営に取り組むにあたり現状何が足りていないのか等のテーマで議論が続き、最後に人的資本経営において人事部門が果たす役割についてディスカッションが行われました。各パネリストからは経営戦略と人事戦略の連動、経営トップの明確な方針、価値創造を意識した指標開示、能力等を指標化した数値に有機的な意味を付け足していくこと、人的資本を有効に活用するため能力を持った人材がどこにいるのかわかるよう整備することなどがあげられました。

閉会の挨拶

神戸大学副学長、神戸大学大学院経営学研究科 教授、NPO法人 現代経営学研究所理事長 南 知惠子氏に閉会のご挨拶をいただきました。