悪い情報があがってこないのはリーダーの責任~「風通しの良い組織」作りに向けて
- 目次
良い情報は言わなくても上がって来る、
悪い情報は言っても上がって来ない
「当工場の製造工程にたびたび不具合が起きているにもかかわらず報告がなく、傷口を大きくしてしまった」
「お客様との間に起きたトラブル情報が上がって来ない。先日、お客様とお会いして初めてご迷惑をお掛けしていることを知り、何とも気まずい思いをした」
良い情報は言わなくても上がって来る。他方で、悪い情報は言っても上がって来ない。これは、リーダーが抱える代表的な悩みの1つです。組織において、そもそも悪い情報を認識する力は、総じて低くなる傾向があります。
「悪いことは起きるはずがない。起きて欲しくない」という勝手な思い込みがこの傾向を助長します。「これが今までやってきた方法だ。これで間違いない」と信じて疑わないことが問題の発見を遅らせます。「チームが目標の達成に向けて一丸となって頑張っている。これに水を差す情報を報告することは出来ない」というためらいが報告に遅れを生じさせます。
こうして、リスク管理(悪いことが起きる可能性の予防措置)や危機管理(悪いことが実際に起きたときの具体的対応)が甘くなります。リスク管理も危機管理も、悪い情報を具体的に掌握出来なければ、一歩も前に進まないからです。このような中で、不祥事が起きると、本社から決まり文句のように「風通しの良い組織をつくれ」と厳命が降りて来ます。
リーダーは、これを受けて、悪い情報がためらいなく報告される組織を作らなければならないと決意し、様々な対策を講じます。例えば部下に対して、「悪い情報を上に報告すれば免責。報告をためらうな」と発信し、「日報に必ずトラブル情報を記載すること」と指示します。部下との定期的な面談も実施し、折々で飲みニケーションも開催します。朝礼では部下が抱えている問題点の報告を促します。不祥事事例の勉強会も定例的に実施します。
しかし、業績が伸び悩むにつれて、上記が負担となり、チーム運営の重心が業績推進に移って行きます。この結果、「風通しの良い組織」作りが疎かになり、トラブルや不祥事が繰り返されるのです。どこに問題があるのでしょうか。
上記リーダーは「風通しの良い組織」の意味を取り違えています。「風通しの良い組織」とは、悪い情報が上がるための特別な措置を講じている組織ではありません。「風通しの良い組織」とは、良い情報はもちろんのこと、悪い情報も含めて両者が当然のように報告され、これらをチーム全員で共有し、互いに知恵を出し合って問題解決を進め、高いパフォーマンスを上げている組織です。
つまり、業績推進に、悪い情報への対応が含まれることは当然と考えています。業績推進に、攻めの管理と守りの管理の両者が要請されることは当然と認識しています。更に一歩進めて、守りのリスク管理や危機管理がしっかりと出来ていればこそ、自信をもって攻めの業績推進ができると理解しています。上記リーダーが実態的に「リスク管理や危機管理は二の次」と考えていることとは対照的です。
真の「風通しの良い組織」をどのように作れば良いのか
それでは、真の「風通しの良い組織」をどのように作れば良いのでしょうか。風通しの良い組織の具体的イメージとは、「チーム全員が自由に意見を言える」、「誰でも自分の意見をきちんと聞いてもらえる」、「分らないことはいつでも気楽に聞ける」、「チーム全体が信頼関係と支援・協力関係で結ばれている」、「上下関係を含めて人間関係はすこぶる良い」、「良い情報に対してはその活用価値を全員で高め、悪い情報に対しては全員で解決し、今後の予防策に活かしている」。一言で言えば、「全員が活躍し、全員が達成感・充実感・成長感を味わっている」組織です。
この組織作りのために、リーダーは、チームの中の"若い人"、"出来ない人"、"経験不足の人"に着目することが大切です。彼らが活躍できるようになれば、チーム全体が自ずと活性化し、風通しの良さと目標達成が両立するからです。
ここに落とし穴があります。多くのリーダーが内心「出来る人を中心に業績目標を達成する」と考えていることです。これでは落伍者を作ることになり、風通しの良い組織は出来ません。業績目標の達成にも苦労します。チームの中の"若い人"、"出来ない人"、"経験不足の人"が活躍し貢献できるようになれば、チーム全体として情報の共有が進み、"出来る人"も新たな刺激を受けて更にチームへの貢献度を増します。チームの風通しの良さと目標達成の両立とは、チームの中の"若い人"、"出来ない人"、"経験不足の人"に着目し、彼らを育てることです。
彼らの育成にあたって、チームに"求められる人材像"を具体的に定義することが大切です。例えば、その1つに「お客様のニーズを掴むのが巧み」と定義されていれば、この習得方法を"出来る人"の力も借りながら彼らに伝授します。このように合目的的な人材教育を施すことが効果的です。
ここでも落とし穴があります。90%以上のリーダーがチームに"求められる人材像"を具体的に定義していないことです。これでは効果的な教育が確保されません。リーダーは、悪い情報が上がらないと嘆くのではなく、「風通しが良く、併せて目標達成に強い組織」作りに大いに意を払うべきです。上記を参考にしていただければ幸いです。