管理職

「仕事を任せる」と「仕事を丸投げする」の違い

管理職は組織の中で権限を行使し、部下を管理し仕事の進め方が適正かどうかを常に見直します。一方で、部下を一人前にし、自身の業務を引き継がせ、さらには未来を担う後継者として育てなくてはいけません。その過程で必要となるのが、部下への権限委譲です。


権限委譲とは、本来上司に属する業務上の権限を部下に委譲することです。委譲された部下はその範囲において自立的に決定、実行する権限を行使し、目標達成に責任をもつことになります。一つ上位の立場(係長なら課長、課長なら部長)で仕事をするということです。一段高い目線、広い視野で仕事を行うことが部下本人の成長を促すのです。「仕事を任せる」というのは、多くの場合この権限委譲のことを言います。


一方、「仕事を任せる」と言いながら、「仕事を丸投げする」という例があります。権限委譲と丸投げの違いは紙一重です。この違いを理解するために、丸投げになるポイント3点をお伝えします。似て非なる丸投げがどんなに有害なものかお分かりいただけると思います。

目次

丸投げポイント1-「上司が判断基準を明示していない」

上司が部下に仕事を丸投げすると、仕事を進める上で判断の拠り所となる原理原則をしっかり明示していないことになります。その結果、例えば最終判断を上司に仰がなければならない場合(マネージャー判断)など、部下には分からないという事態が生じがちです。

判断基準が明示されていなければ、部下は任されたことをスムーズに進めようがありません。これでは部下のモチベーションに多大な悪影響を及ぼします。「やってみよう」という気は萎えてしまいます。「やっといて」と部下に丸投げするだけでは、上司たる者の責任放棄です。

達成すべき目標と、委譲する権限の範囲をあらかじめ上司と部下の間で明確にしておき、部下には何を目指して、どこまで自分で判断、行動していいかを理解させておくことが必要です。

丸投げポイント2-「業務内容や部下の判断を理解していない」

権限委譲された部下は、一段高いハードルを課されています。部下にとっては不安に包まれた格闘の始まりでもあります。程度の差こそあれ、部下からしてみれば、最初のうちはマネージャーに「気にかけて欲しい。フォローして欲しい」と思っているものです。そんな不安な状況下で、気にもかけられず、フォローもなしでは、丸投げされたと思うでしょう。

また、任された仕事を進めていく間にも、権限委譲の範囲を超えて暴走してしまう恐れがありますから、その都度上司に判断を求め確認する必要に迫られています。仕事を進めるには、経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報)への手当が欠かせません。部下自らがそれらにアプローチできない場合もあり、例えばキーパーソンを紹介するなど上司がやってあげなければならないこともあります。

権限委譲を機能させるためには、上司の積極的な関与が不可欠です。権限委譲は部下に丸投げにすることでも、ほったらかしにすることでもありません。最終責任は上司にありますから、問題が起こった時はもちろんのこと、そうではない時でも定期的に報告を部下に行わせなければなりません。報告、連絡、相談(ホウレンソウ)を徹底させることはもちろんですが、上司が自分から部下に声をかけてあげることで、部下は安心して事を進めることができ、余計なトラブルを避けることができるのです。

問題が起こった時、「部下に任せきりだったので状況を把握できていませんでした」という無様な結果だけは絶対に避けなければなりません。

丸投げポイント3-「上司が責任を引き受けようとしない」

権限委譲を行ったとはいえ、仕事の最終責任者はやはり上司なのです。実際に何かトラブルが起きた際には、いち早く上司が乗り出して対応を取り、事態を収拾して部下の心を落ち着かせることが大切です。そして、「どこに問題があったのか」、「いかに再発防止策を進めるか」を部下と一緒に考えるのがいいのです。これによって、部下のパフォーマンスは著しく向上するでしょう。

逆に、トラブルについて詰問をするだけでは部下は必ず離反します。丸投げをするとほぼ間違いなくそれは部下の不満の元凶となり、不満を黙って抱えることをしないで必ず部下同士でそれを共有します。最悪の場合、その丸投げ姿勢に「無責任マネージャー」「逃げ腰マネージャー」のレッテルを貼られ、上司の統率力は急激に低下してしまいます。

権限委譲がうまくいくために-「未熟な部下を育てるには、我慢が必要です」

権限委譲を行う時、どんなに知識や経験が豊富な自分がやった方が早くて確実でも、「権限委譲は部下に成長の機会を提供するものである」ということを忘れてはいけません。サポートをしっかりと行いながら部下に任せます。

「任せたいのだが、部下が未熟で、怖くて任せられない」ということもあるでしょうが、範囲やサポートの程度を調整して、部下の能力に合った任せ方を見つけましょう。あるいはチームに対して権限委譲をして、チームで対応させるという方法もあります。とにかく、部下が未熟だからこそ、育ててあげるのです。

上司による積極的な関与が不可欠だ言いましたが、過剰な関与はもちろんいけません。「ひとこと言いたくなる」、「自分でやってしまいたくなる」という気持ちをぐっと抑えることが大切です。このことを見事に言い表した米国人の言葉があります。

The captain bites his tongue until it bleeds.
( 船長は血が出るまで舌をかむ )

「不慣れな部下はなかなか思うように舵が切れないので、艦長はつい口を出して教えたくなる。しかしここで教えたのでは部下のためにならない。操舵法を身につけるには、失敗をしながら学んでゆくしかない。そう思って艦長は言いたくなるのを我慢している」

いい船長は、いつも我慢して部下の成長を見守っている、という様子を言ったものです。権限委譲の要諦は「我慢」にあるようです。

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