2019年02月号
検査データの改ざん問題や融資における不正審査問題、相次ぐハラスメントの告発など、企業における不正問題があとを絶ちません。 新聞やニュースで取り上げられるこうしたコンプライアンス違反は、組織的な問題として指弾されることが多く、直接関与した人や管轄責任者だけを処分すれば解決するものでは当然ありません。また、当事者となった企業はもちろんですが、これらを他山の石として自社でも同じ不正が起きないよう、企業幹部や管轄部門には抜本的な対策が求められることでしょう。
米国の研究者であるドナルド・R・クレッシーは、不正は「プレッシャー」「機会」「正当化」の3つの要因が揃った時に発生するという、いわゆる「不正のトライアングル」という考え方を提唱しています。不正を引き起こす動機となる「プレッシャー」が強まる中、不正を誘発するような「機会」が存在し、不正をはたらく言い訳になるような「正当性」を背景にしてそれらは行われるというものです。
プレッシャーが不正の動機になるとはいえ、単純にプレッシャーを"悪"と位置付けるわけにはいきません。民間企業であれば、利益目標の達成に向けて行動することがそもそもの活動意義であり、逆にそのプレッシャーが緩い企業には、統制が効かないがゆえのコンプライアンス違反の恐れもあります。目標必達のプレッシャーをどのようにコントロールするかがマネジメントにおける重要なテーマであり、「過度な競争」や「強い叱責」に頼ってそれを実現させようとするのではなく、自ら具体的かつ有効な実現方法を部下に示し、こまめにチェックすることで、「追い詰めずに精勤させる」ような"良質なマイクロマネジメント"が求められるわけです。
一方、管理側の視点では、不正行為を行いづらいようなしくみを取り入れたり、相互チェックが働くような牽制環境を構築するなど、「しくみや制度」を通じた不正防止策を図ることも重要です。こうした「しくみや制度」の設計や導入には、相応のコストが伴うため、経営層の理解と決断がかかせません。人事総務部門のスタッフとしては、他社で発覚した不正問題をきっかけにして、自社での対策強化を進言するといった、機を捉えた動きも大事でしょう。
プレッシャーに負けそうになり、不正をはたらき得る機会があったとしても、最後には「良心の呵責」が不正にブレーキをかけます。しかし、その不正行為を自分の中で正当化してしまうと、不正に対するブレーキが利かなくなってしまいます。「自分は不当に扱われているからこのくらいやって当然だ」「過去からずっとやってきていることだからいいはず」「周りの人もやっているし」「会社も見て見ぬふりをしているじゃないか」等々、自分を正当化するための"悪魔の声"は常に従業員の頭の中に渦巻いているのです。
自分の頭で考えて「良くない」と思うことであれば、本来、抑止が働くはずなのに、思考を停止してしまい不正に手を染めてしまう。そこに対して重要な役割を果たすのが「経営理念」です。もし、その従業員に「自分(自社)は何のために働いているのか」という理念に照らして今の行動を振り返る習慣があったならば、「この行為は行うべきでない」と自省することもできるでしょうし、「このやり方は間違っている」と問題提起することも考えられます。
また、全てをルールでガチガチに統制しすぎるのもよくありません。ルールで禁止されていないことはやってもよい、という都合の良い解釈をさせることになったり、ルールにだけ従っていればよい、という行動様式が習慣化してしまい、自分の頭で考えて行動することを止めてしまう恐れもあります。それに対し、「大事なこと」を示したうえで、やり方は「自分で考えなさい」という、ガイドライン型の統制を軸に据えることで、従業員の思考停止を防止する効果が期待できます。
コンプライアンス問題に対処するために、コンプライアンスに関する知識を補うことはもちろん大事ですが、組織風土を変えていくことが恒久的な対策としては欠かせないといえるでしょう。
本研修は、コンプライアンスの本質を学ぶと共に、コンプライアンス違反を防止するための体制づくりについて考えていただきます。
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