突然の社長命令、あなたはその真意をくみ取れるか(後編)
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前回は、社長をはじめとする経営層とのコミュニケーション不全に悩む管理職の方に、社長をはじめとする経営層の考え方を理解し、意思疎通がもっと上手くいくよう、弊社のエグゼクティブ・アドバイザーが経営層の"思考のモノサシ"を解き明かしました。
今回は、弊社のもとに寄せられた、「社長からの突然の異動辞令の真意が分からない」と悩む管理職の方と、弊社エグゼクティブ・アドバイザーとの実際のやり取りをご紹介します。ややもすると後ろ向きになってしまいそうな辞令に込められた社長の真意を探り、新任部長に課せられた"真のミッション"とは何か、社長の頭の中にある2つのキーワードから解き明かします。ぜひ最後までご覧ください!
「これって左遷!?」業務改善部長を命じられたある管理職のお悩み
≪ご相談内容≫
「私はこれまで、関東エリアの営業部長として数字をしっかり出し、会社に貢献してきました。ところが先日、社長から突然『全社的に業務改善を推進する部署を新設し、君をその部長に任命する』という辞令を受け、正直ショックでした。私は『最善を尽くします』とお答えしたものの、『業務改善は本当に当社の重要課題なのか』『各部署の課長レベルで取組めばよい課題ではないか』『余剰人員の受け皿を作るために業務改善部が新設されたのではないか』など、様々な疑問が湧いてきています。
詰まるところ、社長から戴いた辞令の趣旨が分かりません。このままでは職務を全うすることができず、困っています......」
キーワード①「利益は実に尊い」
エグゼクティブアドバイザー(以下EA):
新設部署の部長にご就任された由、おめでとうございます。この部署は、全社的な業務改善を担当する部署ですね。今回の辞令について社長の真意を確認したいとのことですが、そもそも部長はこの異動を後ろ向きに受け止めていらっしゃるようですね。
部長:その通りです。
EA:なぜ社長からこのような人事が導き出されたのか、「社長の頭の中心にあるもの」を念頭に置いて考えてみましょう。
社長の頭の中心にあるもの、それは、言うまでも無く、「会社の目的の達成」です。この認識のない社長が仮にいるとすれば、端から社長失格と言わざるを得ません。
部長:社長にとって"会社の目的"とは具体的に何でしょう?
EA:いろいろな言い回しがあろうかと思いますが、一言で言えば、"持続的成長"です。そのためにはプラスの利益を計上することが絶対条件です。赤字会社では"生存"できないのは自明ですが、赤字打開策やコスト削減策などに追われて成長への前向きな取り組みが制約されないよう、プラスの利益をしっかりと計上することが"持続的成長"のためには欠かせません。
利益をしっかりと計上している会社には、優秀な人材、潤沢な資金、有益な情報など、良質な経営資源が集まります。だからこそ、全体としての利益を維持・拡大させることが社長のミッションであり、そのことで社長の頭の中は一杯です。
部長:確かにうちの社長はいつも利益のことを口にしています。でも、会社の目的とはお客様に良い商品を提供することなのではありませんか?
EA:その通りです。しかし、お客様に良い商品を提供しても、結果として会社が赤字であれば、会社は存続も成長も出来ません。だからこそ、会社にとって「利益は実に尊い」、これはあらゆる経営者の共通認識です。
キーワード②「5年後の利益」
EA:では、なぜ貴社の社長が業務改善を推進する部署を新設したのか、「利益は実に尊い」という前提から考えてみましょう。社長が現在の経営戦略を見直すうえでのドライバーとなるのは、「5年後の利益」です。社長は、①経済や市場の動向と②現戦略のライフステージを分析・評価して、会社の5年後の利益を予測します。この利益が増加・あるいは減少しているのかを見定めたうえで、戦略対応を具体的に設定し、これに取組みます。戦略課題に適切に対応するためには、1~2年では物足りません。5年後の利益を予測することで十分な"時間"を確保し、適切に戦略対応したいと考えています。
貴社の場合、既に社長が5年後の利益について、このままでは大幅減少、ないし赤字に陥るかも知れないと判断しているのではないでしょうか?
部長:確かに、当社には少子高齢化の負の影響があり、売上高は右肩下がりで推移しています。新商品のヒットも無く、5年後、当社の業績はかなり厳しいと言わざるを得ません。仮に、人口が減少しているエリアではどのような戦略を取るべきでしょうか。
EA:人口が減少しているエリアでは、これに呼応して売上高/利益の減少が見込まれます。このような中で、尊い"利益"の減少を食い止めるためには、固定費に着目して、この削減に努めます。たとえば、人員削減、省力化投資、アウトソース化などの取組みが必要です。人口減少が長期化する場合には、人口増加エリアへの進出や新たな戦略モデルの開発も不可欠になります。
業務改善部長に課せられた"真のミッション"とは?
部長:なるほど。厳しい業績が予想される中、固定費を全社的に削減することによって利益水準を維持することと、収益性ある新たな戦略モデルを早期に開発することを、いま社長は考えているんですね。
EA:その通りです。そこで、業務改善を推進する部署の部長には、固定費を削減しつつ、新戦略モデルを開発するための人材を捻出するという重要なミッションが課せられているのではないでしょうか。このために部長はこれから具体的にどう動きますか。
部長:会社がどれ程のコスト削減を必要としているのか、また、新たな戦略モデルの開発のために、どれ程の人材をいつまでに捻出すべきなのか、を先ず明らかにします。これらの目標を経営層と共有した上で、業務改善を全社レベルで強力に推し進めます。
EA:素晴らしい。これで社長の期待に応えられますね。今後の戦略展開が部長の手腕にかかっています。ご健闘をお祈りします。