突然の社長命令、あなたはその真意をくみ取れるか(前編)
弊社のもとに、ある上場企業の営業部長としてバリバリ活躍している方から、「突然うちの社長から業務改善を推進するための新設部署の部長を任されたが、なぜ自分が任命されたのか、社長の真意が分からない」という相談が寄せられました。どちらかと言うと、部長はこの異動を後ろ向きに受け止めているようです。
ご相談者さまの組織に限らず、「社長が何を考えているのか分らない」、「経営層の考え方が分れば、もっと良い仕事ができるのに」という管理職の方のお悩みは日頃からよくお聞きします。
そこで今回は、大手メガバンクの人事部長や経営企画部長を歴任、現在は管理職や経営幹部養成のための講座を担当している弊社のエグゼクティブ・アドバイザーが、管理職の皆さんに、社長をはじめとする経営層の考え方を理解し、意思疎通がもっと上手くいくよう、経営層の2つの"思考のモノサシ"を解き明かします。経営層とのコミュニケーション不全に悩む管理職の方の参考となれば幸いです。
- 目次
経営層の"思考のモノサシ"①「中長期的な視点」
なぜ経営層と管理職の間でコミュニケーション不全が起きてしまうのか、その答えは案外単純です。経営層と管理職はそれぞれ別の役割を担っており、思考の"物差し"や"対象"を異にしているからです。
管理職は日頃、「現戦略のもとで、自部署に課された"今期の目標"を達成する」という視座に立って思考し、行動しています。与えられた経営資源を活用してPDCAを回しながら、目標の達成に全力を挙げることが、管理職が果たすべきミッションです。
一方、経営層は「"会社全体の目的"を中長期的に達成する」という視座に立って思考し、行動しています。会社全体の目的とは、一言で言えば"組織の持続的成長"です。この目的を達成するにはプラスの利益を計上することが必須であり、そのために現戦略の妥当性を常に検証しています。このまま現戦略を実行しても収益が上がらないと判断すれば、必要に応じて現戦略の深化を図ったり、修正(縮小や撤退を含む)したりする場合もあります。そして新たな戦略を導入し、戦略ポートフォリオの最適化を図りつつ、会社全体としての利益を維持・拡大しているのです。
先ほどの相談者が命じられた、業務改善を推進する新設部署への異動は、中長期的視点から導かれた「"会社全体の目的"を達成する」ための最善策なのでしょう。しかし、あくまで「現戦略のもとで"今期の目標"を達成する」という管理職の視座からは外れているので、戸惑うのも無理はありません。
経営層の"思考のモノサシ"②「外部情報の活用」
さらに経営層と管理職では、職務を全うするうえで着目する情報が異なります。管理職は主に内部情報(配分された経営資源についての情報)を活用しているのに対して、経営層は主に外部情報を活用して職務を全うしています。特に、収益性の面における現戦略の妥当性を検証するうえで、外部情報の活用はなくてはなりません。経営層は、現戦略の収益性を2つの外部情報に照らして測定・評価しています。
①経済や市場の動向
これには、市場の規模やその消長、消費者の所得水準やその増減、景気の循環、競合情報などが含まれます。
②戦略自体のライフステージ
それぞれの戦略は宿命的にライフサイクル(「誕生→成長→停滞→衰退」)を有しています。戦略のライフステージが成長期にある場合とは、売上高/利益の増加が見込まれる場合です。逆に、衰退期にある場合とは、売上高/利益の減少が見込まれる場合です。
現戦略がどのライフステージに当たるのか、この評価次第で、今後もたらされる収益は大きく変わります。現戦略に係る売上高・利益についての時系列推移はもちろんのこと、顧客ニーズの変化、技術革新の動向、競合他社を含めた新商品・サービスのリリース状況などが、現戦略のライフステージを測定・評価する上での重要な情報になります。
経営層の"思考のモノサシ"を学び、コミュニケーション不全を解消する
管理職の皆さんは、経営層が自分の発言趣旨をもっと分かりやすく説明してくれたらいいのに、と思っているかもしれません。しかし、ここはひとつ発想を転換し、管理職の皆さんが経営層の"思考のモノサシ"を自ら学び、習得してみてはいかがでしょう。経営者の視点や活用する情報源について学ぶことで、経営層とのスムーズなコミュニケーションが可能となります。現在の仕事に経営者視点を取り入れることで、仕事の質を上げられるようにもなります。
将来の経営層入りを目指す皆さんにとっても、きっと役に立つことでしょう。
後編では、意に添わぬ異動辞令に悩む新任部長への具体的なアドバイスをご紹介します。