年間11,454 名(※)の上級管理職研修を実施してきたインソースでは、新たに部長になる人向けにどのような研修内容を企画すればよいか、企業の人事ご担当者さまからのお悩みをよくお聞きしています。
そこで今回は、これまでの知見を通じて弊社がまとめた、あらゆる企業で部長に求められている視座やスキルについてお伝えします。新任の部長、あるいは部長候補の課長の方のこれからの活動の指針として、あるいは人事ご担当者さまの階層別教育における問題解決の小さなヒントとして、ご活用いただければ幸いです。ぜひご一読ください。
2023年10月~2024年9月に実施した講師派遣型研修及び公開講座型研修数
部長とは ~現場からは見えない部長の実力
課長時代は現場のトップとして采配を振るっていた人も、部長になると部下に任せる場面が多くなります。そうなると、部長としては何をすべきか、初めのうちは戸惑うかもしれません。しかし、現場に100%コミットするかたちではなくても、組織全体のことを考えて常に全力で仕事をしているのが、あるべき部長の姿です。
(1)経営層の一翼として、社長の経営判断をサポート
部長は、多くの組織において「上級管理職」と位置付けられています。経営層の一翼を担う立場であり、社長の経営判断をサポートする存在として、課長時代より一層大きな力を持つこととなります。
具体的には、いくつかの課を統括する部門のトップとして、ヒト・カネ・モノといった経営資源を上手く使い、確実に収益を上げて組織の成長に直接貢献することが求められます。さらに、人事や経理といった専門性の高い部門のトップである部長には、経営層からその分野のプロとしての意見を求められます。新任の部長は特に、高い専門性と広い見識に裏付けられた的確な意見を述べ、社長からの信頼を勝ち取ることで、初めて既存の経営層からも認められる存在となります。
(2)「経営者レベルのマネジメント力」が必要
組織が成長を続けるためには、既存の事業以外に新しいことにチャレンジしていかなくてはなりません。会社の経営理念や方向性を踏まえたうえで、自部門の方針や目標を定め、それらを実行できるよう組織を導くのが部長のミッションです。そのためには、社長と同じレベルで自社の事業の本質を理解し、具体的な戦略として示す力が必要です。さらに、成長一辺倒ではなく、リスク管理の観点で企業の社会的責任を理解し、バランスの取れた判断ができることも必須能力です。
つまり、職位上の権限が拡大するというだけでなく、部長には実際に会社経営ができるくらいのスキルやマインドが求められます。企業規模によっては、中小企業一社分の規模に匹敵するほどの人員を支配下におく部長もいます。この点においても、部長には質実ともに「経営者レベルのマネジメント力」が求められることを証明しています。部長時代の経験を通じて、将来の経営層入りに備え、企業経営の実質的な方法論を身につけることが可能です。
部長の役割とは
部長としての役割を一言で言うと、「経営陣の経営判断をサポートする役割を担い、現場に方針を示す」ということになります。これまでの現場の仕事は部下の課長たちに任せ、自らは現場を俯瞰的に見ながら、組織の成長に直接的に寄与することを考え、実践していくことが、部長としての大きな役割です。具体的には、以下の2つを実現させることが求められます
(1)「新しいこと」への挑戦
組織が成長を続けるためには、今までのやり方を踏襲するだけでなく、「新しいこと」への挑戦も必要です。「新しいこと」とは、いわゆる新市場の開拓や新商品開発だけではありません。ダイバーシティ人材の活躍推進といった経営施策の立案、本社機能を地方へ移すといった既存の業務の大胆な改善など、組織におけるあらゆる「変革」のことを指します。現場のトップという立場を離れた部長だからこそ、組織横断的な変革に取り組むことができます。
(2)部門長として、自部門に紐づく全ての課の成果を出す
部門のトップとして、自部門の成果を上げることも忘れてはなりません。課長時代は自分の課の成果にのみこだわっていても組織運営に大きな影響はありませんでしたが、部長は自部門に紐づく全ての課の成果を出していかないと、組織全体の足を引っ張ることになってしまいます。そのためには、経営上のあらゆる数字やリスクをシビアに見つめながら、収益確保につながる「最善の判断」と「最良の行動」を判断し、それらを「自部門の方針」として明確に打ち出すことで、現場に影響を与えていかなくてはなりません。
部門の成長戦略とリスク管理を両立させながら、組織をデザインし、業績拡大を実現することが、部長の最大の「使命」とも言えます。
部長の仕事とは
部長の仕事として求められるのは、「経営環境に関わらず前年比3割以上の成果を出す」ことです。プロの経営者が常に安心できる数字が「前年比3割増」であり、そのマインドを部長自らが持つことで、「経営陣の経営判断をサポートする」という役割を果たすことができます。
具体的には、以下の4つが主な「部長の仕事」です。
- ■リスク管理
- 全社的な影響を及ぼすリスク を認識し、対策を練る
- ■業績拡大・業務改善
- 経営環境に関わらず前年比3割増以上の成果を出す
- ■新しい事・変革
- 年に一つは、全社にとって価値ある新しい事を生み出す
- ■組織デザイン
- 勝ち続けるための、計算された組織編成・人材育成を行う
これらの4つの観点に基づき、部長が日々行う業務は次の5つとなります。
(1)組織的リスク管理体制を作る ~リスク管理
SNSの発達やグローバル化など、現代のビジネス環境において企業が抱えるリスクの範囲は拡大の一途をたどっています。ひとたび不祥事を起こし、企業としての社会的責任を果たせなくなると、あらゆる利害関係者(消費者・取引先・社会・地域・株主・従業員など)から非難され、企業価値が著しく低下します。
そこで部長には、現場担当者では見えないリスクや、放置されたままのリスクを、経営者の視点で大所高所から見て発見することが求められます。また、経営陣のサポート役として、経営陣が見落としているリスクを発見し、冷静に対処することも必要です。組織的なリスク管理体制を部長が作り上げ、日常の業務遂行における予防策を実践していかなくてはなりません。
組織的なリスク管理を行うポイント
①業務の可視化
業務フローを作成することで、トラブルや課題が発生した際に、誰でも問題のありかが分かるようになります。また、業務フローを作る過程において、日常業務の問題点が明確になります。
②仕事のルール化
仕事のやり方を明文化することで、組織の文化に慣れていない若年層や中途社員などの人材が周囲から孤立するリスクを低減するだけでなく、早期戦力化にも役立ちます。
③ルールの周知
遵守すべき規準となる方針を策定したら、あらゆる機会を捉えて周知します。その際、正社員だけでなく、アルバイト社員、派遣社員、請負業者、取引先も含めて徹底的に周知することが重要です。
④罰則の明確化
違反に対する処分についても明文化し、周知するとともに、ルール違反を知った者には通報義務があることも認識させましょう。
⑤教育の仕組み作り
一度トラブルが発生すると対応コストは極めて高いものとなります。生産性の観点からも教育は有効です。
⑥定期的な点検 ~部長自ら率先垂範で点検する
個人情報、営業機密の管理、アクセス状況、金庫・ロッカーの施錠管理チェック、現金・伝票などの金銭回りは必ず部長自らチェックします。くれぐれも部下に任せっきりにしてはいけません。
⑦不正・リスクを報告しやすい組織風土作り
職務の遂行に係る法令違反、「ちょっとヤバイ」などの情報が、部下から直接耳に入るような体制を整備しておきます。
これらのポイントを踏まえ、しっかりとしたリスク管理体制を作り上げたとしても、深刻なトラブル、不祥事、コンプライアンス違反は起こるべくして起こるものです。部長はあらかじめ、内部的な処分の手続きとは別に、組織としての対外的な対応手順を知っておく必要があります。そこで、一度は自社の法務部門や顧問弁護士に挨拶し、話を聞いておくとよいでしょう。また、自社だけでなく他社のトラブル事例を研究したり、これまでの処分事案を監督官庁のHPなどで調べておいたりするのも部長の仕事です。
(2)8割で現業を回し、2割で新しい事をやる ~業績拡大・業務改善
経営層は部長に対し、経営環境によらず前年比3割増の業績を実現することを求めています。自組織の将来を常に案ずる経営者が「やっと安心」できる数字は「前年比130%」であるからです。しかし、「前年比130%」を実現するための資源は限られています。自部門に予算や人を新たに確保するのは容易なことではありません。「まずは限られた資源で成果を出すこと」が大前提です。
業績拡大を実現するには、「業務改善フェーズ」と「イノベーションフェーズ」の2ステップで業績拡大に取り組むのが有効です。
ステップ1:業務改善フェーズ
既存業務を現状より少ない資源(人、時間、資金など)でこなし、業績拡大のための資源を捻出します。具体的には既存業務を8割の資源(人や時間)でこなすことを目指します。
まずは自部門の中の問題点を明らかにします。人により生産性が違う作業、あるいは部下が長い時間かけている業務を洗い出し、その中から組織全体の動きを変えるような改善を、部長主導で、短期間で実施するのがポイントです。
実際に人や時間といった資源を減らすことができたかを判断するには、人時生産性(時間当たりの生産性評価)を指標とするのがよいでしょう。
■人時生産性 = 部署における1日の粗利益額 / 従業員の1日の総労働時間
例えば、ある企業で1日平均の売上高が100万円、粗利益率が50%、このとき一日あたりで従業員の総労働時間が125時間であれば、人時生産性は4000円となります。
4000円=100万円(1日あたりの売上)×50%(粗利益率)/125時間
従業員一人あたりの1時間の平均売上高が向上していれば、業務改善は成功していると言えます。
ステップ2:イノベーションフェーズ
改善で得た2割の資源を、部長の判断で積極的に新しい分野やマーケットに投入します。部内にイノベーションを起こして新しい成果を出すことで、前年比3割増の業績拡大を目指します。
部内で新しいことを始める際には、まずは部長が考え抜いた大胆な方針を示す必要があります。そのうえで、部長の強いリーダーシップの下、部内で集めたアイデアの中から、部長の責任において選択します。そして、やるとなったら、片手間ではなく、部長も率先垂範して徹底的に実施しましょう。
投資(設備投資、マーケティング投資など)を行う際に、その判断軸となる指標が「投下資本利益率(ROI)」です。資本がどれだけ効率的に利益に貢献しているかを見ることができます。
■投下資本利益率(ROI) = 営業利益(=粗利-人件費などの販管費)/投下資本×100
このように、ROIを算出することによって、投資に見合った利益を出すにはどれだけの売上が必要か明確になります。ROI向上が見込める費用対効果の高い分野を選び、目標売上額を算出することで、前年比3割増の業績拡大の実現に見通しを立てるのが部長の仕事です。
(3)価値のある「新しいこと」を年に1度は具現化する ~新しい事・変革
組織が成長を続けるためには、今までのやり方を踏襲するだけでなく、「新しいこと」への挑戦も必要です。経営者目線で考えた場合、「すべて昨日と同じでは、会社はなくなってしまう」という危機感を常に持たなくてはなりません。伝統を重んじる企業であっても、常に「新しい何か」を探し続けるのが経営者マインドであり、部長にもそれが求められます。
ペースとしては、四半期に1回は社内外にアピールできる新しいことをやり、年に1つは成果を上げる、というのが理想です。四半期(3カ月、90日間)は大変短く感じますが、部下4名に年に1つずつ新しいことをやらせれば、四半期に1つは新しい施策ができます。そして、その中の1つを軌道に乗せれば達成可能です。
「新しいこと」のために部長がやるべきこと
①方向性を示す
現状分析、経験を踏まえ、大きな視点から部下に方向性を示すことで、成功確度が上がります。
②部下の小さな発想を生かす
小さなアイデアが短期間で巨大ビジネスに成長する現代、部長には部下の小さなアイデアを汲み取り、期待し、大きなビジネスにしてやろうという意識と熱意が必要です。
③重要な細部にこだわる
新規ビジネスの成否を分けるポイントは、商品として、サービスとして、ビジネスプロセスにおいて、「利用者(市場)目線で良いものができているかどうか」です。部長がそのためのこだわりを持ち続けることが重要です。
④新しいことをやる担当者(弱いもの)を守る
新しいことに挑戦する場合、すぐに大きな成果が出ないと、担当者が周囲から軽んじられることも多いものです。まずは部長が担当者を本気で支援し、それを周囲に伝えていかないと、新しいことは進んでいきません。
⑤一定期間任せる
新しいものはすぐにできる訳はありません。部下を信じて任せましょう。
⑥技術、芸術、人間の欲求などを勉強する
豊かな発想を持つためには、好きなことや興味のあることはもちろん、嫌いなこと、興味のないことも意識して勉強すべきです。
⑦数字を押さえる
部下や提携先の言うことを鵜呑みにするのではなく、自らも将来性を予測できるよう、コスト、市場規模といった数字を押さえることは必須です。しかし、数字が分からない場合も多く、その時は経験に裏付けられた「直感」が頼りとなります。
「新しいこと」のために部長がしてはいけないこと
①新しいことのリスクを部下に全部かぶせる
成果は自分の支援のおかげ、失敗は部下のせい、としていては、誰も新分野に挑戦しなくなります。
②全部、部下任せにする、部下のいいなりになる
新しいことは「分かりにくい」ものであり、つい「分かる部下」に任せっぱなしにしがちです。しかし、これでは部長の経験や知恵を活かして成功確率を高めるチャンスを放棄しているのと同じです。当事者意識を捨てず、新しいことを理解するよう努めましょう。また、部下に任せていても予算管理は部長が行うのが肝要です。
③重要でない細部、ささいな点にいちいち口を出しすぎる
部長が本筋とは異なる内容で口を出し過ぎると、そのための説明や、部長を納得させるための対策が、新しいことを担当する部下の業務の中核になってしまいます。そうなると、顧客や市場に向けた熱意はなくなり、「価値の低いもの」しかできません。
(4)勝ち続ける組織作りと部下育成 ~組織デザイン
組織が成長を続けるために、強い組織をデザインすることも部長の仕事です。自部署の課題を踏まえたうえで、コストダウンの実現やベストパフォーマンスにつながる効果的な組織を作り上げることは、部長にとって極めて重要な仕事です。
組織編成において最も優先するのは、業績向上や業務の円滑化(トラブルが起きないようにすること)ですが、新規事業の加速化、人材育成なども加味して、バランスさせることが一般的です。「編成の主目的」を認識したうえで、くれぐれも、「数合わせ」や「メンツ合わせ」に終始させないことがポイントです。また、定期的に編成を変えるなど、風通しのより組織づくりを心掛けることも忘れてはいけません。
業績が上がる組織づくりのポイントとは
①仕事や権限が分散していること
属人的な業務運用を避けることで、ボトルネックが発生する原因を防ぎます。
②チェック体制が確立していること(牽制関係の構築)
業務フローの中にチェック機能を組み込む、定期的に目を変えてチェックできるようにするなど、ミスと不正を予防する相互チェック体制をつくります。
③業務プロセスと部下のスキル・能力を踏まえて編成されていること
自部門の業務をプロセス分解したうえで、誰に何ができて、誰に何ができないのかを把握し、各メンバーができないところを補い合う布陣にすると、時間当たり生産性の向上が期待できます。
④部下の性格・相性を踏まえて編成されていること
部下のタイプ(業務に対する意欲、行動性・熟慮性、統率力、実行力、対人能力など)で相互補完する様に組み合わせるのが、仕事を上手く進めるコツです。
⑤年齢、経験なども考慮すること
現代は特に実力社会ではありますが、年齢や経験も考慮することで組織の葛藤が減らせれば、生産性が上がります。
⑥情報共有がうまくできること
個々の能力が高いメンバーだけを集めても、メンバー間の情報共有がさかんでなければ高い業績は望めません。イノベーションを実現するためには、「競い合う」というよりも、「情報共有がさかんになる組み合わせ」も意識してチームを作るとよいでしょう。
⑦教育の仕組みも組み込むこと
教育の活性化においては、スキル・能力と相性、教育に対する意欲などを、総合的に考えて組み合わせることが求められます。
(5)人が育つ制度・仕組みを整える ~組織デザイン
課長には、自部門において必要な「即戦力人材」の育成が求められていました。しかし部長は、担当部門の成果だけでなく、組織全体に視野を広げ、5年後10年後を見据えた人材の育成を考えなくてはなりません。
そのためには、部下育成のノウハウを現場管理職に教えていくと同時に、自らのイズムを部下の課長たちに伝え、次世代幹部候補を育てていくことも必要です。権限委譲できる課長を育成することが、部長が次のステップに進むための条件です。
権限委譲する時のポイント
①権限移譲の大前提は同じ判断、同じ行動ができること
部下がミスなくできるようになるまで、判断力を鍛えてから権限移譲するのが基本です。同じ状況において、同じ行動が上位者と違わずできるようになってはじめて「権限委譲してよい」と判断できます。
②権限移譲した後もさらに鍛える
任せた以上、いちいち口を挟むのは良くないと考えて、大切なフィードバックを控えてしまうのは問題です。様々な判断をさせたうえで、間違いは指摘、指導し、正しい判断をする訓練を継続的に積ませることが重要です。
③部下の頭の中に判断基準をすりこむ
判断の拠り所(原理原則)が曖昧なまま、形だけ仕事ができるようになっていても、権限を行使しながらの仕事を行うことはできません。易きに流れ、事故、トラブルの原因となります。
④チャレンジさせることが重要 ~部下の成長を見逃さない
実力が備わっているにも関わらず、権限委譲に対し「自信がない」と尻込みする部下もいます。そんな場合、見守りながらも「やってみろ」とチャレンジさせることが重要です。
⑤権限移譲した部下がミスをした場合、即座に介入して助ける
トラブル発生時は、積極的に上司が関与して解決を図ります。ミスが拡大することを最小限に食い止め、部下が罰せられないように守ることで、「上司に恥はかかせられない」という意識が部下に芽生え、より的確な判断を下すよう努力するようになります。
部長に求められるスキルとは
課長時代から少しずつ蓄えてきた「変革リーダー」や「イノベーター」としてのスキルを、部長になったら一気に拡大させる段階となります。
また、組織を取り巻く環境はかつてないほど激変しています。そのような環境下で、経営の代行者である上級管理職に求められる職務(役割とスキル)は、右肩上がりの成長時代とは全く違うものになっています。「部長ならここまで」といった前例踏襲にとらわれず、以前なら経営者レベルに求められていたようなスキルも身につけていく必要があります。
基本的なマネジメントスキル
PDCA、創造力、組織変革力、判断力の強化など
新たに求められるスキル
経営分析力、コーポレートガバナンスを実践する力、経営戦略立案力など
AI技術導入などの技術革新、国際情勢の大きなうねり、大企業の急激な業績悪化事例などからもわかるように、現代は激動の時代といえます。このような社会動向の中、経営層に求められる会社の舵取りは、大変難しいものとなっています。
そこで、部長時代から経営者としての判断軸を身につけておくことで、将来に渡って「自組織のビジョンを実現するために、自身は何をするべきか」を考えられるようになります。
課長と部長の違いとは
課長の立場はあくまで「現場のトップ」であることです。組織の方針に従い、自分の持ち場をどう動かすかを考えるのが課長の仕事であり、自部門(課)の目標達成を実現するところまでが課長に求められる役割です。時に部下と上司との板挟みとなり、まさに「中間管理職」のイメージが強い立場ですが、「現場と経営陣との橋渡し」として機能することが期待されます。
部長は現場の中心から、より"経営陣寄り"の立場となり、トップの経営判断をサポートする仕事にシフトするのが、課長との大きな違いです。いかなる経営環境においても組織が成長を続けるために、各部門の成長戦略とリスク管理を両立させながら組織をデザインし、業績拡大を実現することが部長の主な役割と言えます。また、時代のニーズを踏まえ新しい仕事を生み出し、組織の成長に直接貢献することが期待されます。
最後に ~部長とは「孤高の存在」
部長になると、オフィスの一番奥の、部下たちの席とは離れた「部長席」に座るという組織も多いと思います。これまでより立派な椅子に座り、部下たちの仕事ぶりを眺めることで、「ついに部長になったか」と悦に入る人もいるかもしれません。しかし、同時に味わうのが、「上級管理職の孤独」です。それは単に部下たちとの距離が遠くなったからではないことを、部長になった方はよく分かっているはずです。
部下と一緒になって成果を出していた課長時代は、部下たちを直接動かすマネジメントの醍醐味を実感できました。もちろん、課長以下を統率し、部としての成果を上げることは、部長となってからも当然求められる仕事ですが、直接的に口も手も出すようなやり方にこだわっていては、部門全体をまとめ上げることはできません。経営層の一翼を担うという部長の重責を果たすためには、一歩引いた立場で見守るマネジメントスタイルに移行することが必要です。
そして、部長がフロアの中で「孤高の存在」にならなければならない理由がもう一つあります。なぜなら部長は、組織の全体最適を考えた場合、組織の存続、成長のために、部下にとってシビアな決断をすることも求められるからです。
例えば、全社のメリットを最大化するために、自部門にとって不利なことでも受け入れなければならない場合、納得いかない部下を説得するのは部長の役目です。また、新分野に進出する費用を確保するために、社員の給与を下げることを決断せざるを得ない時もあります。その際は、将来、必ず給料を上げられるよう、強力なリーダーシップを発揮して新規事業を成功させるよう、会社を導いていかなければなりません。
いわば、部長には「この人なら信じてついて行く」と思わせる人間力の高さが必要です。私利私欲に目がくらんだり、コンプライアンス違反を犯したりするような部長は問題外であり、率先垂範で組織に貢献する姿勢を示し続けてこそ、どんなシビアな状況下でも部下はついて来るでしょう。
さらに人間力を高めるためには、膨大な知識を身につけ自己研鑽を重ねることも大切です。時間を惜しんで、業務関連分野、法律知識、社会情勢を学ぶ必要があります。リベラルアーツ(自然科学、歴史、小説、芸術など)を学ぶこともよいでしょう。特に昔のことは、難しい判断をするうえで必ず役に立ちます。
つまり、人の上に立つために必要なスキルや素養を身につけられた部長たちこそ、「真のエグゼクティブ」になるための切符を手に入れられたと言えるのではないでしょうか。