管理職

人材戦略の進め方~逆算思考を活用する

目次

人材戦略は逆算的・従属的に検討する

人事部の方から「人材戦略をどのように進めれば良いでしょうか」と質問を受けることがあります。

「効果的な人材戦略を展開したい」

人事部の方であれば誰でもこう考えます。しかし、人材戦略のみに焦点を当て、これを独立したテーマとして論じることが果たして有効と言えるでしょうか。

「組織は戦略に従う」という言葉があります。この言葉は、「戦略」が先にあって、この後、従属的に「組織」の中身が決まって来ることを説いています。つまり、「組織」だけを取り上げて、これを独立したテーマとして論じても意味がないのです。

これと同様に「人材戦略は事業戦略に従う」「人材戦略は経営環境の変化に従う」が正しいのです。人材戦略とは決して独立したテーマではありません。どのような事業を展開したいのか、どのように経営環境が変化しているのか、これらを起点として逆算的・従属的に導かれるのが人材戦略です。

会社では「企画部と人事部は表裏一体である」と言われます。企画部が事業戦略(経営環境の変化への対応を含む)を具体化し、これに応えて人事部が適材を育成・確保する。企画部と人事部が一体となって「人材戦略は事業戦略(経営環境の変化)に従う」を実践することが会社の発展には必要不可欠です。

事業戦略の内容と人材戦略

事業戦略の内容によって人材戦略がどのように決まるのかを見てみましょう。

事業戦略を議論する上で「両利きの経営」を用いることが一般的です。ビジネスモデルには必ずライフサイクルがあります。「誕生→成長→停滞→衰退」というライフサイクルです。「両利きの経営」とは、このライフサイクルを踏まえた戦略論です。

たとえば、現ビジネスモデルが成長過程にあるときには、このモデルに経営資源を重点投入し、収益力を一気に高めます。これを「深化戦略」と言います。しかし、このモデルもいつかは衰退します。このリスクに備えて、新たなビジネスモデルを開発し、現モデルに替わる新たな収益源を育成しなければなりません。これを「開発戦略」と言います。

会社は 「深化」と「開発」の2つの戦略をバランス良く展開することによって持続的成長を確保します。

それでは、それぞれの戦略のもとで、どのような人材戦略が必要になるのでしょうか。

「深化戦略」を進めるときの人材戦略は比較的容易です。必要な人材スペックが経験的に明らかだからです。所定の人材スペックに適う人材を今後どれ程育成・確保するのかを計画し、実施・展開すれば良いのです。

他方、「開発戦略」を進めるときの人材戦略は複雑化します。新ビジネスモデルを成功させるための人材スペックについての確たる情報が手許に無いからです。このため、開発戦略においては、先ず、新モデルのKFS※を明らかにします。そして、このKFSに基づいて、人材面では、どのようなスペックを満たす人材を確保・育成しなければならないのかを導きます。
※KFSとは、「Key Factor for Success」を省略した言葉です。日本語では、「重要成功要因」という意味で主に事業を成功に導くための要因のことを指します。

この先、人材戦略は以下の3つに分かれます。

①現ビジネスモデルに携わる既存人材の再活用(再教育と配置換え)
②人材スペックを満たす人材の外部採用
③新ビジネスモデルを展開している会社の買収

上記3つのうち、現ビジネスモデルから人材を捻出することが困難な場合、②や③を選択します。また、新ビジネスモデルの人材スペックが特殊で、既存人材の転用が困難な場合にも②や③を選択します。他方で、現ビジネスモデルの縮小や効率化を進めることが不可避な場合には、現ビジネスモデルに業務改革(8割の人材で既存事業を回す)を実施した上で、人員削減の他、①を採用することも選択肢になります。

経営環境の変化と人材戦略

ビジネスモデルのライフサイクルに拘わらず、経営環境の変化が人材戦略に新たな課題をもたらすことがあります。例えば、ESGの要請です。

E(環境)は、各企業に脱炭素や脱プラスチックを要請します。S(社会)は、女性活用や地域社会への貢献を要請します。G(企業統治)は、社外取締役の活用や役員のダイバーシティ確保を要請します。

これらの課題に人材戦略の観点からどのように対処すれば良いのでしょうか。答えは、これもまた逆算思考を活用する、です。各課題について達成すべき姿や計数を先ず明確にし、そのために必要とする人材像を描き、これに基づいて人材戦略を展開すれば良いのです。例えば、先進的な「環境」経営を展開したいと方針を定めれば、逆算的・従属的に、環境経営に精通し、この分野でリーダーシップをしっかりと発揮できる人材を最低1名早急に確保する、社外役員の中にも環境問題が分かる人材を最低1名確保する、と言った具体策が導かれます。

人材戦略とは、戦略課題を解決し戦略目標を達成するための手段です。この視点に立って、「人材戦略は事業戦略に従う」「人材戦略は経営環境の変化に従う」を成り立たせることが重要です。

ご参考:インソースの関連研修

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