新たな戦略的視点~"分散型社会・経済"の効用
新たな戦略視点として「"分散型社会・経済"の効用」を取り入れてはどうでしょうか。これによって、今、経営課題として急浮上している"ESG"や"SDGs"への取組みが自ずと促進されます。この点を以下に分かり易く説明しましょう。
- 目次
"集中"の効果
大会社は、ほんの少し前まで、「本社を持つなら東京。千代田区、中央区、港区が良い」と考えていました。この考え方の積み重ねによって大都市中心部への経済集中が進み、これとは裏腹に、地方は過疎化や貧困化の問題に直面し、この悪影響に悩まされて来ました。
一般に、経済を発展させるためには、その前提として道路、鉄道網、港、通信網などのインフラ整備が必要になります。これに選ばれた地域は経済が集積・発展し、これが好循環をもたらします。逆にこの選から漏れた地域は経済が衰退し、これが悪循環となります。
ここで経済"集中"の効果について生の声を確認しましょう。
「ここ都心3区には優良な会社が多数集積している。商売を面で効率よく展開できる地域はここをおいて他にない」、「ここは最先端情報の宝庫だ。ここに居るからこそ得られる情報が沢山ある」、「優秀な人材を採用できるのは、ここに本社があるからだ」、「資金力ある銀行が近い。所管の官公庁も近い。当社所属の業界団体本部も近い。頼りになる弁護士や専門家の活用も容易だ」。もっとも「家賃が高いことは頭痛のタネだ」
社員は社員で「私は千代田区へ通勤している。鼻が高い。同窓生からも羨ましいと言われる」、「ここには自身の成長のための刺激や機会が沢山ある。実に恵まれている」、「情報交換会や食事会などのセットも容易だ」、「コンサートや美術展など文化的な催しへのアクセスも良い」。しかし、「通勤が大変な上、生活コストが高過ぎる。子供の教育熱も高く、教育費負担も大変だ」
"分散"という別世界
以上の"集中"に対して、実は、"分散"という別世界が存在します。
「私は、15年余の東京本社勤務を経て、2年前に地方勤務を命ぜられました。確かに、本社情報や東京情報に疎くなりました。しかし、今は、こんなに素晴らしい生活空間が自分の目の前に拡がっている、と大いに満足しています。通勤ラッシュはない。生活コストは安い。食は美味い。人情は厚い。自然が豊かで、子供も自然を大いに楽しんでいる。私も趣味をたっぷり満喫し、時にボランティアにも勤しんでいます。ここでは、今まで味わったことのない"ワークライフバランス"がいとも簡単に手に入ります」
"集中"から"分散"への大転換
会社にとって、"集中"と"分散"は一見、二律背反、二者択一で、経済的には"集中"の方が優位に思えます。ところが、これを一変させる出来事が起きました。コロナ禍です。コロナ禍と折からのDX化も手伝って、ICTの活用が一気に進み、"ワーク"の在り方、"ライフ"の在り方に、"集中"から"分散"への大転換を引き起こしたのです。
"ワーク"面で言えば、テレワーク、社内WEB会議、お客様とのWEB面談、人材育成のWEBセミナーは最早当たり前のこと。通勤、顧客訪問、出張はもちろん激減しています。各種の手続きや契約もWEBベースに置き換わりつつあります。社内外の情報の取得も場所と時間を問いません。必要に応じて、外国居住者や外国の専門家によるアドバイスもWEB会議の開催で容易に得ることができます。
正に、コロナ禍とDX化の産物です。会社は、最早、本社を都心に構える必要はありません。"分散"を選択することによって、今までの"集中"メリットを享受しつつ、"分散"のメリットも享受できます。
一方、"ライフ"面ではどうでしょう。社員は、地方に居住し"ワークライフバランス"を楽しみつつ、これまで通り会社に貢献することができます。仕事によっては、勤務時間帯を自らの都合に合わせて設計・選択することもできます。社員も"ワーク"を維持しつつ、"集中"では得られなかった"分散"のメリットを享受できます。
"分散"を進めた結果
実は、「"分散型社会・経済"の効用」は上記に留まりません。
都心立地から脱した会社から貴重な報告があります。「"分散"を進めた結果、"ESG"や"SDGs"への取組みが自然と促進された」という報告です。
「本社を都心部から外延部に移転させただけで、地方税の支払いや社員の活動を通して、そのエリアの所得向上に貢献できる」、「職住近接を求めるそのエリアの女性・退職者・若者などの採用にも貢献できる」、「都心に集中する人流の分散にも貢献できる」「社員が地方に引越しすれば、日常の消費を通して、そのエリアの所得向上に貢献できる」、「社員が、環境負荷の削減・防止や環境保護に熱心なエリアに、あるいは子育てに熱心なエリアに住居を移すことによって、こうした自治体の取組みを支持し、併せて地域活性化を支援することができる」、「地方居住の社員が"ワークライフバランス"のもと、その地域の課題解決にボランティアとして貢献することもできる」
以上の通り、「"分散型社会・経済"の効用」は、会社のコスト削減や働き方改革による社員の満足度向上を促進させるだけのものではありません。全社一丸となって"ESG・SDGs"に取り組むという人類共通の課題解決に向けた取組みまで促進させます。この点を踏まえて、"集中型社会・経済"から"分散型社会・経済"への大転換を貴社の戦略課題として取り上げては如何でしょうか。