毎年、評価面談シーズンの前には、あらゆる組織のお客さまから様々なお悩みを頂戴します。
「複数の部下に対し公平かつ適正な評価を行えているのか」など
「人事評価が部下の成長につながっているのか」
評価者の悩みは尽きないものです。また、最近はリモートワークを行う部下の評価といった新たな課題も見えてきています。
そこで今回は、期初から期末に至る評価のプロセスに沿って、評価者が悩みがちなケースと、その解決に向けたポイントをご紹介します。 初めて評価者の立場となる方はもちろん、何度も評価を行ってきたという方も、これまでのやり方を振り返り、今後の参考としていただければ幸いです。
まずは、大前提となる「人事評価の4つのプロセス」を確認しておきたいと思います。
1.【期初】⽬標設定
組織⽬標と連動した、評価者・被評価者の双⽅の納得いく⽬標を⽴てる
2.【期中】マネジメント
⽬標の達成に向け⽇常的に部下を⽀援する
3.【期末】評価
評価の基本を理解し、評価者・被評価者の双⽅が納得のいく評価を⾏う
4.【期末】評価⾯談
被評価者の⼈材育成につなげるフィードバックを⾏う
それでは、これらの4つのプロセスにおいて起こりがちなお悩みについて、具体例に基づいて⾒ていきましょう。
1.【期初】目標設定のケース:あいまいな目標を立ててしまう部下
部下Aは、普段からモチベーションが高く、営業活動に意欲を持って取り組んでいる。
ただ、いざ⽬標を⽴てさせようとすると、「とにかく頑張る」という気持ちが先⾛りし、あいまいな⽬標となりがち。どうしたらよいのだろうか。
>>>部下には何が⽋けているのかを「上司の視点」でアドバイスする︕
⽬標設定に関しては、以下のようなポイントがあります。
・定量的、具体的な⽬標設定ができているか(何を・どこまで・いつまでに)
・⽬標のレベルは妥当か
・組織⽬標と連鎖しているか
とはいえ、部下⼀⼈でこれらをすべてクリアした「適切な⽬標」を⽴てることは難しいものです。
そこで上司は、部下が⽴てた⽬標に対して、⽋けている視点を補い、適切かつ合理的な内容となるよう、⽀援することが求められます。
⽬安としては、これまでの実績の3割増しくらいになるよう、前回までの部下の実績を⾒て、上司がガイドラインを⽰すとよいでしょう。
また、リモートワークを⾏う部下についてはプロセス評価が難しいことが考えられるため、 成果で評価できるよう、仕事のゴールや成果の「⾒える化」をより意識した⽬標を設定するようにしましょう。
良いアドバイスの例
部下A「今期の⽬標は、訪問数を増やして頑張ります︕」
上司 「期待しているよ。ところで具体的に週何件増やすつもりなの︖」
部下A「そうですね......、2倍に増やします︕」
上司 「これまでは週に15件だったけど、30件も回れるの︖」
部下A「......多分いけます」
上司 「提案書を作る時間や、他の業務との兼ね合いは考えているかい︖」
部下A「そこまで考えてなかったです。やっぱり難しいかもしれません」
上司 「そうだね。それならうちの部署の今期の売上⽬標は前期⽐10%増だから、まずはそこに向けて⾒込み客を増やす⽬標を考えてみようか」
2.【期中】進捗フォローのケース:このままでは⽬標未達成になりそうな部下
部下Bは、業務の簡略化・効率化のため、3カ⽉後までに業務マニュアルを作成するという⽬標を⽴てている。
⽬標期間の半分にあたる1カ⽉半が過ぎ、進捗を確認したところ、
部下の作ったマニュアルはメモ書きのようなもので整理されておらず、
誰でもマニュアルを⾒て業務が⾏えるというレベルのものではなかった。
このままでは⽬標未達成と評価せざるを得ないが、どう対応すればよいか。
>>>「あなたの成⻑を⼿助けしたい」という真摯な気持ちを伝える︕
期初に設定した⽬標について、進捗状況が思わしくない場合には、具体策もなく「とにかく、やろう」と⾔うのではなく、なぜできていないのか、その原因を考えることが重要です。
部下への質問を通じて「あなたの成⻑を⼿助けしたい」という評価者側の真摯な気持ちを伝えることで、部下の気づきを促すことができます。
また、期初に設定した⽬標を達成することで、組織にどんな利益があるか、
また⾃分⾃⾝にどんなメリットがあるかを考えさせ、⽬標達成への動機づけを⾏うことも重要です。
⽬標達成までのステップを再確認したうえで、部下への期待を伝え、モチベーション向上につなげましょう。
良いアドバイスの例
上司 「まだ期間はあるし、このマニュアルを⾒直す予定はあるのかな」
部下B「いいえ。私としては⼗分使いやすいマニュアルになっていると思っています」
上司 「そうかな︖ 他の⼈もこのマニュアルを⾒ることを考えたら、もっと内容を整理してみた⽅がいいんじゃないかな」
部下B「そうかもしれませんが、もうこれ以上は難しいです」
上司 「どうして難しいと思うの︖」
部下B「⽇常業務もあって忙しいんです」
上司 「Bさんなら、⽇常業務はもう少し効率的にできると思う。効率アップの⽅法を⼀緒に考えたいから、今のやり⽅を教えてくれる︖」
3.【評価】陥りやすい評価のケース:異動してきた部下への評価
部下Cは、前の部署の営業課では若⼿のホープとして、積極的にバリバリ仕事をこなし、
みんなの模範的存在であった。思いやりもあり、後輩からも信頼されていた。
しかし、半年前に総務課に異動してきてからは、具体的な成果はまだ⾒られない。
外部まで影響を与えるほどの⼤きな問題ではないが、時々うっかりミスも犯している。
どのように評価したらよいか。
>>>評価者が陥りやすいエラーの傾向を事前に押さえておく︕
評価制度の運⽤においては、評価者の⽴場上特有の誤りが発⽣しやすくなります。
多くの評価者が陥りがちなエラーの傾向について、いくつか例を挙げてみます。
(1)「ハロー効果」
<評価エラーの例>
Cさんは前部署では活躍していたし、今回も具体的には⾔えないがよく頑張っている。
⼀部の良い点(または悪い点)に対する印象によって、他の評価項⽬まで同じように左右されてしまう傾向を「ハロー効果」といいます。
前部署での⾼評価・低評価に惑わされないよう、先⼊観や思い込みを排除したうえで、今年度の事実に基づいた評価を⾏いましょう。
(2)「論理的誤差」
<評価エラーの例>
Cさんは思いやりがあるから、他のメンバーと協⼒し合って良い関係を築いているはずだ。
「思いやりがあるから、協調性もあるだろう」というように、評価に影響を与えるべきでない要素を評価項⽬と論理的関係があると考えて評価してしまう傾向を「論理的誤差」といいます。
関連があると安易に結びつけず正しく認識し、その項⽬に対する事実のみで判断しましょう。
(3)「対⽐誤差」
<評価エラーの例>
Cさんのミスが多いのは事前の計画とチェックが⽢いからだ。当時の私と⽐べると、まだまだ不⼗分である。
評価者⾃⾝が強みを感じる項⽬は⾟めの評価、逆に弱みを感じる項⽬は⽢めの評価となってしまうことを「対⽐誤差」といいます。
⾃分の基準ではなく、評価基準に基づき客観的事実で判断するようにしましょう。
評価者の得意分野については特に冷静な判断が必要です。
この他にも、評価が標準レベルに偏ってしまう「中⼼化傾向」や、 期末評価近くの⾏動やその印象に影響される「期末効果」など、 評価者が陥りやすいエラーの傾向を事前に押さえておくとよいでしょう。
しかし、評価者の陥りやすいエラーについて留意しても、いつも被評価者が納得するとは限りません。
被評価者の納得を⾼めるためには、評価項⽬についての共通認識をあらかじめ持っておくことや、
普段から部下を気にかけ、信頼関係を築いておくことが重要です。
リモートワークを⾏う部下に対しては特に、「⾒てもいないくせに︕」と思われないよう、
⽇頃のコミュニケーションを頻繁に取ることを⼼がけましょう。
4.【期末】フィードバック⾯談のケース:下位評価をつけた部下
部下Dは、遅刻や⽋勤が⽬⽴つなど、普段の勤務態度に問題がある。
また、⽇常業務をこなすのに他のメンバーより時間がかかり、かつミスも多いので、今回の評価はマイナスだった。
⼀⽅、優れた改善提案ができるなど評価すべき点もある。評価結果を伝えるにはどうしたらよいか。
>>>事実と⾃分の意⾒(感情・期待)を、区別して伝える
悪い評価を伝えなくてはならない場合でも、客観的な「事実」に基づく評価であれば、相⼿の同意を得られる可能性が⾼くなります。
しかし、⾃分の「意⾒」と混同して伝えてしまったり、相⼿の「⼈間性」を批判するような伝え⽅をしてしまうと拒否反応を⽰され、理解してもらえなくなります。
また、「ここがダメだった、あれも悪かった」などと、悪かった部分の指摘ばかりをすると、部下は「失点を少なくすること」を意識し過ぎ、積極性を失います。
前向きな⾔葉で締めくくることで、部下のモチベーションを落とさず、来期の頑張りにつなげることができます。
忘れてはならないのは、評価すべき点があれば、マイナス評価とは切り離してしっかりと褒めることです。
「評価できる点」と「改善を要する点」の両⽅を、必ず相⼿にフィードバックしてください。
この明確なフィードバックが、評価の透明性および納得性につながります。
■よくない伝え⽅の例
「遅刻や⽋勤が多くだらしないな。だから業務をこなすのにも時間がかかっているんだよ」
「改善提案をしてくれるのはいいけど、通常業務を疎かにしたら意味ないよ」
よい伝え⽅の例
【改善を要する点の伝え⽅】
「今回、マイナス評価とした理由は2つあります。1つめは、勤務態度です。週2回のペースで遅刻・⽋勤するなど⾒直してほしい点があります。
2つめは、⽇常業務です。ひとつの業務に⼿戻りが2、3回あり、平均的な作業時間の2倍かかっている点です。
うちの会社では、⽇常業務をミスなく効率的に⾏うことは、⾼度な仕事をするのと同じくらい貢献度の⾼い⾏動と評価されるので、来期は効率を上げられるよう⼀緒に考えていきましょう」
【評価できる点の伝え⽅】
「Dさんの改善提案ができる点をとても評価しています。今期は改善案を8件も提案し、そのうち3件は実⾏に移しています。そのような積極性や実⾏⼒は、リーダー⼈材には必須です。 だから、Dさんにはその能⼒を活かして、将来会社を⽀える⼈材になってほしいと期待しています」
いかがでしたでしょうか。
評価者の主観を排除するための考え⽅や、マイナス評価を前向きに受け⽌めてもらうための伝え⽅など、参考にしていただければ幸いです。
部下と直接顔を合わせないリモートワークが今後も増えていくことが予想され、評価の際にはこれまで以上に「成果」を重視せざるを得ません。
働き⽅の実態に合わせて、より納得性の⾼い評価基準を設定することが、これからの⼈事評価における喫緊の課題だと⾔えます。
しかし、⼈事評価のプロセスそのものは、リモートワーク下においても変わらないはずです。
⽇頃の働きぶりが⾒えにくいからこそ、期中における上司から部下へのコミュニケーションを増やす⼯夫や、期末の評価⾯談でより丁寧な説明を⾏う努⼒が、これまで以上に求められます。
設定⽬標に到達できない部下の⾏動を修正し、今後の成⻑につなげることに、⼈事評価を⾏う意義があります。
⼈事評価制度の⽬的が「⼈材育成」にあることを忘れずに、対⾯でもリモートでも、部下の成⻑を願う「愛ある評価」を⽬指しましょう︕
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