年間65,783 名(※)の新任管理職研修を実施してきたインソースでは、新たに係長になる人向けにどのような研修内容を企画すればよいか、企業の人事ご担当者さまからのお悩みをよくお聞きしています。
そこで今回は、これまでの知見を通じて弊社がまとめた、あらゆる企業で係長に求められている視座やスキルについてお伝えします。新任の係長、あるいは係長候補の中堅クラスの方のこれからの活動の指針として、あるいは人事ご担当者さまの階層別教育における問題解決の小さなヒントとして、ご活用いただければ幸いです。ぜひご一読ください。
2023年10月~2024年9月に実施した講師派遣型研修及び公開講座型研修数
係長とは ~「管理職」としてのスタートライン
係長は、多くの組織において「初級管理職」、すなわち一プレイヤーだった社員が初めて管理職に昇格したときに就く役職です。しかし、管理職手当がつき、実質的な職務権限のある「管理監督者」になるのは課長職以上、という組織も多いため、係長になっても立ち位置的はあまり変わらないのでは、と考える人もいるかもしれません。
しかし、職務権限的に管理職ではないとしても、ひとつの係の「長」として、数名のメンバーを束ねる立場という意味では、係長はすでに「管理職」です。新たに管理職としての役割を果たしていくためには、一プレイヤーからマネージャーとしてのマインドセットを行い、行動変容を起こさなければなりません。
また、一般社員よりも組織の経営理念により深くコミットし、その経営理念を実行に移して、組織の収益確保と社会的責任を果たすことが求められます。係長の役割をしっかりと果たし、組織の期待に応えることで、次のステージ(課長へのステップアップ)が見えてきます。
係長の役割とは
係長の役割としては、現場リーダーとして部下一人ひとりを育成しつつ、自らもプレイヤーとして高い成果をあげることが求められます。
具体的には以下の3つに集約されますが、これらはすべての管理職に共通して言えることでもあります。まずは管理職としての役割をしっかりと認識したうえで、係長としてやるべきことを考えていきます。
(1)業務遂行・管理における役割
部下の成果をチェックするだけでなく、仕事の進め方(プロセス)が適正かどうかを常に見直すことが求められます。
(2)教育・指導者としての役割
仕事を通じて、まだ十分にできない仕事を一人前にできるように育てることが人材育成の基本です。そのためにも、個々の部下の能力や適性を適切に評価・判断し、教育すべきことを明確にし、個々の部下が育ちやすい、学べる組織環境をつくることが求められます。
(3)プレイヤーとしての役割
プレイヤーとして周囲に認められるためには、「圧倒的なパフォーマンス」を発揮する必要があります。
例えば、プロジェクトにおいては誰よりも難しい業務を引き受け、成果を上げます。結果を出すことで、部下のモチベーションを引き上げ、自分のみならずチームやグループ全体の成果が向上するという好循環が生まれます。
このように、部下のために道を切り拓くことも管理職の役割です。
係長の仕事とは
組織を維持・拡大させるために、新任管理職である係長にまず求められるレベルは、「チームで前年比3割以上の成果を出す」ことです。部下の能力を引き出しチームとして成果をあげるためには、具体的に以下のような仕事をこなす必要があります。
(1)目標達成計画を作成する
管理職の仕事は、「目標を達成させるためのスケジュール管理である」という意識を持ちましょう。目標達成において最も重要なスケジュール管理を部下任せにしていては、業務を完遂することはできません。目標達成計画を作成するにあたっては、「逆算思考」が重要です。
①業務や仕事に影響を与えるものを予測し、洗い出す
業務に限らず、対応時間がとられるものすべてを洗い出すと同時に、部下の特性を踏まえ一人ひとりの行動を予測します。例えば、指示を出してからいつ頃着手するのか、1回言えば行動できる部下もいれば、30回言い続けてはじめて動き出す部下もいます。部下に合わせて何回催促をする必要があるか計算しておくとよいでしょう。
②洗い出したものの所要時間と期限を確認し、並べる
部下が与えられた業務を完遂するのにどのくらいの時間が必要かあらかじめ算出し、期限に合わせて並べます。そこからさらに逆算し、着手日のデッドラインを決めます。また、期限がないものは、自身で期限を設定します。
なお、作成した目標計画を部下に共有し指示を出したら、その進捗確認までが基本的に係長の仕事であると考えましょう。予定より早く終わっていれば、新たなミッションを与えることができます。逆に予定より遅れていれば、先に完了しているメンバーをそこに投入することもできます。
(2)業務のムダをなくす
業務推進において、すべての管理職には、「業務のムダをゼロにするよう最大限に尽力する」ことが求められます。現場リーダーでもある係長としては、チーム全体の業務を見直し、業務のムダを徹底的になくすことが重要な仕事です。
①業務の流れを定期的に見直す
業務のムダを見つけるために、まずは業務の"流れ"を把握する必要があります。業務をプロセスに分解し、流れ図にして「見える化」しておくと、定期的な見直しに役立ちます。
例えば、下図のように、契約業務はいくつかの作業プロセスを経て新規契約締結となることが分かります。どの業務が誰によって行われ、どのように流れているのかを整理することで、部署間で往復する数が多すぎる、関わる担当者の数が多すぎるなど、ムダな業務が発見できます。
②担当者を定期的に見直す
属人化している業務があれば、担当者の見直しを検討します。非効率な業務の発見・改善につながり、誰でもできる業務を増やすことで人的資源の有効活用と組織の活性化につながります。
③やらないことを決める
提出書類の作成や、朝礼・会議など昔からの慣習としてやっているような業務は、一度その必要性を疑ってみましょう。もしかすると「ムダの固まり」かもしれません。
ポイント:生産性向上を阻む5つのムダ
①過剰品質のムダ
②待ち時間のムダ
③コミュニケーションのムダ
④分業のムダ
⑤工程のムダ
(3)直接的な関わりを通じて、部下の意欲向上と自立・戦力化を促進する
人を育てるのは、管理職の大切な仕事のひとつです。直接的な関わりによって部下を一人前にすることができるのは、現場リーダー的な立場の係長ならではです。部下指導を通じてリーダーシップを高め、部下からの信頼を獲得することができます。
部下の意欲向上と自立・戦力化を促進するポイントとしては、以下の6点があげられます。
①部下に指示をする際には、仕事の「意味」と「期待水準」を伝える
部下は仕事の意味を理解することで、不安なく、前向きに行動できます。また、意味を知ることで、間違った行動をとったり、周囲に迷惑をかけたりすることがなくなります。
同時に、「30分で、7割くらいまでやってほしい」、「お客さまに渡すので、小さな汚れもないことを確認してほしい」といった想定作業時間、達成度、品質の期待水準を伝えます。
②指示の内容が理解できたか確認する
指示されたことがよく分からなくても、「分からない」とは言えない人もいます。部下の理解度を推測するには、指示した内容を部下に言わせてみることが有効です。
また、年齢も経験も異なる上司と部下の間では、「話がうまく伝わらない(通じない)」「話がかみ合わない」と感じる場面があるかもしれません。指示を与える際には、あらかじめお互いの価値観や考え方といった「常識」をすり合わせておく必要があります。
③効果的にほめる
「部下のデキが悪くて、ほめるところがない」とか、「私はあまり人をほめたりはしないタイプ」などと言っているようでは、上司として認識不足です。ほめること(認めること)で、部下の仕事に対する意欲は驚くほど向上するものです。
日頃から部下の仕事を観察し、良い行動をした時にタイムリーにほめる、悪い結果に終わってもその行動(プロセス)をほめることを心掛けると、部下は「自分のことを見てくれている」と感じ、モチベーションも上がります。
④目的を押さえて指導(注意)する
必然性がなければ何も指導(注意)することはありません。指導(注意)するためにはその目的を押さえておく必要があります。そうすれば、指導(注意)する側にも説得力と自信が生まれます。
指導(注意)する目的
- 不備・不十分な点を気づかせ、直させる
- 仕事をスムーズに進めさせる
- 仕事を通じ、お互いの信頼関係を増す
- 部下の成長を図るとともに、自身の仕事スキルを高める
指導(注意)する際には、自分の気持ちや考えを部下に率直に伝えたうえで、部下の言い分にも耳を傾けることに注意します。また、指導した部分が改善したら「ほめる」というフィードバックを忘れずに実行しましょう。こうすることで、大きな成長が望めます。
⑤1日に最低1回はすべての部下に声をかける
声かけは、部下に対し「あなたのことをいつも気にしています」という関心を伝えるための、上司としての重要な仕事です。
- 「今の仕事で何か困っていることはないかな?」
- 「この商品の仕組みについては理解しているかな?」
- 「この仕事は間に合いそうかな?」
など、1日に最低1回はすべての部下に声をかけるよう心がけましょう。
また、話しかけるときには必ず名前を呼ぶことがポイントです。名前を呼ばれるたびに部下は、自分の存在を認められているのだなと安心感を得ます。
⑥話しやすい環境をつくる
部下の話を聞く際には、しっかり反応することが重要です。部下の目を見てあいづちを打つ、部下の言ったことを反復する、といったコミュニケーションスキルを発揮することで、部下は「話を聞いてくれた」、「理解された」と感じます。
(4)担当する業務に関わるリスクを認識し、対策を練る
管理職がすべきリスク管理とは
①リスクの予測と評価
顕在化が想定されるリスクの洗い出しとそれらへの対応の優先順位をつける
②リスク顕在化時の対応
リスク顕在化時の初動を決定するとともに、実際に動けるようにする
③リスクが顕在化しない仕組みづくり
ルール策定と徹底できる組織をつくる
係長のリスク管理としては、自身の業務上のリスクだけでなく、部下の業務上のリスクも洗い出したうえでチーム全体の対応を検討しておく必要があります。また、リスク対応マニュアルを作成しメンバーに共有する、定期的なリスク対応訓練を実施するなどして当事者意識を持たせ、万が一の場合に即時対応できるようにしておきます。
即効性がある職場でのリスク対応策としては、月1回、1時間の職場内リスク対策会議の開催が極めて有効です。また、会議の継続でリスクの大幅削減が可能です。
係長に求められるスキルとは
まずは管理職として求められる基本マネジメントスキルを習得することが重要です。具体的には以下3点のスキル強化を率先して行うとよいでしょう。
(1)部下指導・育成スキル
コーチング、リーダーシップ、OJT、部下モチベーション向上、コミュニケーションなど
(2)業務管理スキル
業務改善、目標管理、ヒューマンエラー防止、整理力向上、タイムマネジメント、など
(3)リスク管理スキル
コンプライアンス、ハラスメント防止、クレーム対応、法務、メンタルヘルスなど
初級管理職である係長としては、自分のチームの部下指導・育成、業務管理、リスク管理を行い、前年比3割以上の成果を出すことが求められます。
さらに上を目指すうえでは、自部署の改善・新しいビジネスチャンスなど「変革の芽」を見つけ、提言し、行動を起こすためのスキルを獲得しておくとよいでしょう。
具体的には、PDCA、創造力、組織変革力、判断力の強化などがあげられます。
係長と中堅社員の違いとは
中堅社員に求められる役割は、「担当業務のプロフェッショナルとして成果をあげること」です。チームの中核として上司の補佐、後輩指導を行い、リーダーシップを発揮しなくてはならない立場ではありますが、成果として求められるのは自分が担当する業務に関することに限られます。
しかし、係長は「チーム」のリーダーとして、人時生産性を理解し、高めることを意識しながら、チーム全体の成果を向上させる働きをしなくてはなりません。"一兵卒"のプレイヤーからマネージャーへの意識・行動転換が求められるようになることが、中堅社員との大きな違いです。
係長と課長の違いとは
係長はチームに与えられた目標達成に向けて、メンバーを動かしながら自らもプレイングマネージャーとして成果を出すことが求められる立場です。管理職として目標達成に向かってチームを牽引しつつ、自身も突出した成果を上げて組織に貢献する姿を見せることで、部下に良い影響を与えていく、つまりリーダーシップを発揮することが係長の働きであると言えます。
一方課長には、リーダーシップを前面に発揮するよりも、中級管理職としてよりマネジメントに軸を置いた働きが求められます。組織のビジョン・経営方針を自部署の目標に落とし込んだうえで、その目標達成に向けて最適な役割分担を行い、部下の能力を最大限に引き出す「プロデューサー的」な働きをすることが、係長と課長の違いです。
最後に ~「血の通ったマネジメント」を実現するために
係長クラスは、現場リーダーとしてお客さまの声を直接聞いたり、部下指導に直接関わったりすることができる役職です。課長クラスになると、自分がリーダーとして前に出るよりも、マネージャーとして一段上の立場から現場を動かすことが求められるようになります。
係長のうちに、現場の声によく耳を傾け、自分の糧とすることで、将来的に上級管理職の立場となって現場から離れたとしても、部下や顧客とのつながりを大切にする「血の通ったマネジメント」が実現できるのではないでしょうか。