困難クレーム・ハードクレームと向き合う

困難クレーム・ハードクレームと向き合う

1.うまい伝え方で解決策を提示する

(1)解決策を提示する意義とは

クレーム対応で大事なことは、相手の心情を思いやり、ひたすら相手の話をきくことです。 クレーム対応の基本手順を改めて示します。

 基本手順1:当事者である意識を強く持つ
 基本手順2:お客さまの心情を理解し、そのことを行動で示す
 基本手順3:解決すべき問題・ご要望の確認を行う
 基本手順4:解決策を提示する

手順1~3においては、ひたすら忍耐が求められます。手順4では、こちらの言い分を伝える初めての場面になります。 このときに求められるのが「覚悟と勇気」です。

(2)クレーム対応で気をつけること

クレーム対応の際、最もしてはならないことは、その場しのぎの安易な解決策を提示してしまうことです。適当に対応していることがお客さまに伝わってしまうと、お客さまの怒りは更に増してしまいます。 注意すべきことは以下のとおりです。

①解決策の提示はお客さまの気持ちが晴れてから行う

②組織の論理を持ち込まない
  ×「法律には触れていませんが...」
  ×「前例がありませんし」
  ×「どうかご内聞にしていただけないでしょうか」

(3)解決策は6W3Hの枠組みで考える

解決策は「なぜ、何を、どうする、誰が、いつまでに、どこで」という6W3Hの枠組みで考えることでモレなく、簡単に整理できます。原因を調査して回答する、商品を交換する、対応者のミスを上司が謝罪するなどがよくある例です。お客さまには次のようにお伝えすると良いでしょう。

 〇「お問い合わせいただいた○○の件でございますが、すぐに調査いたします」
 〇「私□□が責任をもって、その調査結果を△日までにお電話にてご連絡さしあげます」
 〇「誠に申し訳ございません。責任者の□□が、後日謝罪にお伺いします」

2.何がハードクレーム対応を困難にするのか

(1)ハードクレーム対応を困難にする3つの事由

次の3つのことが原因で、ハードクレーム対応は難しいと感じる方が多いです。

①ストレスフルな状況での対応を強いられるため
怒鳴る・脅すといった行為で精神的な圧力を受ける、長時間にわたって不満を述べられる、非常識な言動を繰り返されるなどは、典型的な難しいクレームの例として挙げられます。

②判断が必要となるため
例えば、通常の対応を提示してもお客さまに納得していただけない場合、マニュアルに書かれていない状況に置かれた場合は、自分自身で解決案を見つけてお客さまに提示し、納得していただかなければなりません。このようにその場で判断を下し、組織としての対応方針を決定しなければならない類のクレームもまた、難しいものです。

③交渉による解決が求められるため
通常のクレームであれば、多くの場合は適切な対応を行うことで収束させられますが、困難なクレームの場合、相手側の要望を100%受け入れるわけにはいかないということも少なくありません。長期的な影響も踏まえつつ、最善の収束に向けた交渉をして、落としどころを探る必要があります。

上記の事由を排除する、あるいは小さくするために、ストレスフルな状況にうまく適応し、自ら解決策を見出す判断力を身につけ、最善の収束へと導くための交渉スキルを獲得することが求められるのです。

(2)困難なクレーム・ハードクレームの対応手順

クレーム対応の基本手順は、通常のクレームと変わりません。 ただし、対応が難しいクレームの場合、問題の代替案や解決策を提示するタイミングで、「判断」のプロセスが入ります。 さらに、提示した代替案や解決策を相手に受け入れてもらえるよう、説得する「交渉」のプロセスも加わることになります。
よって、困難なクレーム対応の基本手順は次のようになります。

 基本手順1:ストレスフルな状況の中で当事者である意識を強く持つ
 基本手順2:ストレスフルな状況の中でお客さまの心情を理解し、それを行動で示す
 基本手順3:ストレスフルな状況の中で解決すべきお客さまの問題や要望を確認する
 基本手順4:確認した情報をもとにどのように対応すべきか判断を下す
 基本手順5:下した判断にもとづいて問題の代替案・解決策を提示する
 基本手順6:提示した代替案・解決策を受け入れてもらうための交渉をする

3.難しいクレーム対応に求められる「判断力」

(1)必要なのは判断軸

通常、クレーム対応には判断を求められます。

クレーム事例①:「購入商品を自宅で着たところ袖口にシミがあったので返品したい」
 判断1⇒通常商品ならばご要望通り返品の手続きを承る
 判断2⇒セール・アウトレット品は返品不可の前提で販売しているので丁重にお断り

上記の例の場合のように、明確な対応方法が決定されている中で判断する時は、さほど難しくありません。 しかし、次の例の場合は応対者の判断はかなり難しくなります。

クレーム事例②:「明日の娘の発表会用に注文したドレスが、メーカー側の手違いで間に
        合わないですって? 一体どうしてくれるの!」

 判断⇒取り急ぎ既存のドレスの中から一着選定いただき明日の発表会に使用いただく。
    でき上がりが遅れているドレスを購入なさるかのご判断はお客さまに委ねる

この例の応対者は、まずは明日の発表会用のドレスをご用意することが第一優先と判断しました。そこで自店ででき得る方法として、既製品のドレスの中からお選びいただくという方法を提示しました。さらに今回の納期遅れはこちら側のミスであり、注文いただいているドレスの返品を要望されても仕方がないと判断し、どうされるかはお客さまに委ねることにしました。

このような判断は、いずれもイレギュラーな条件下での選択であり、全てのパターンを想定してルール化・マニュアル化するのは現実的ではありません。 判断の基準とする判断軸を各人が身につけ、それに基づいてケースバイケースで対応を考えます。

(2)そもそも判断軸とはどんなものか

判断軸とは、複数の対応策・選択肢の良し悪しを評価・判断するためのものさしのことを言います。判断軸は1つとは限らず、複数の判断軸から多面的に判断を行うこともあります。 しかしその複数の判断軸は、背反の関係となることもままあります。そんな難しいケースでは、「どの判断軸を優先するかを判断するための判断軸」まで必要となるのです。

(3)判断力は身につけることが可能

判断力は一定の経験を経て身につくものです。ただ、単に経験を重ねるだけでなく、判断の指針とする具体的な判断軸を意識的に自分の中に持つことが必要です。そうすることで、より早く判断力を身につけられます。

(4)適切な判断をゆがめる心理的要素

適切な判断を行うにあたっては、人の判断をゆがめる心理的要素があることを認識しなければなりません。要素は、極力排除すべきです。代表的なものを以下に挙げます。

①二分割思考
 白黒をはっきりつけ、どちらかに決めつけてしまう。
 例:そんなのムリに決まっている

②完全主義思考
 100点でなければ、0点と同じという考えのため、落としどころを見つけられない。
 例:この値段でないと購入できない

③自動思考
 自分勝手な思い込みで悪循環を引き起こす。
 例:あの人はクレーマーに違いないとの思い込みが態度に表れ、実際にクレームを
   発生させる

④スキーマ
 決まった思考パターンで、思考のショートカットを行う。
 例:○○は他でもやっているので特に注意をする必要はない

⑤属人主義
 誰が発言したかという情報が判断に影響を与える。
 例:○○課長がこう言っているから間違いない

4.さまざまな判断軸

前述のように判断軸は1つとは限らず、複数の判断軸から多面的に判断する必要があり、その複数の判断軸は、背反の関係となる場合も少なくありません。 判断軸にはどんなものがあるのか、見ていきましょう。

(1)「お客さまの納得度」に基づく判断軸の例

クレームは、こちらが提供するモノやサービス・対応に不満があった際に発生します。そこで、その不満をどのレベルまで改善させるかという判断軸で対応策を考えます。

 段階1:とりあえず不満が収まるレベル
 段階2:また利用しても良いと思ってもらえるレベル
 段階3:転じてファンになってもらえるレベル

民間企業の場合、「得意客であるほど満足度の高いレベルで対応する」という判断には、一定の合理性があります。一方、行政機関等では、公平性の観点からお客さまによって対応を変えることは適切ではない場合があります。

(2)「コストとリスク」に基づく判断軸の例

クレームを解決するためなら何でもできるというわけではありません。クレームの解決策の多くは何らかのコストが伴い、場合によってはリスクが発生することもあります。自組織として、どこまでの負担を甘受するのかを想定したうえで、判断を下すことも重要です。

 段階1:商品交換に応じる
 段階2:返金に応じる
 段階3:慰謝料を払う

自組織のコスト・リスクのみを意識して提示する代替案や解決策は、当然お客さまから見ると「誠意のない対応」と映ります。この判断軸は、お客さまの納得度の判断軸と併せて使うことが大切です。

(3)「客観性の高い基準」に基づく判断軸の例

法律や一般常識といった客観性の高いものさしを基準にすることで、双方の間に生じる認識のズレを無くすことができます。ただし、客観性の高い基準にもレベルがあり、どのレベルで対応するかの判断がさらに必要となります。

 段階1:法律・条例をぎりぎりクリアしている
 段階2:世間一般の常識をクリアしている
 段階3:業界で一番高い水準をクリアしている

法令を前面に押し出して判断を下すことは、相手も受け入れざるを得ないのです。しかし、それだけに相手には感情的なしこりが残りやすいというデメリットもあります。

(4)組織理念・方針に基づき、判断のバラツキをなくす

クレーム対応には、その組織のお客さまに対する姿勢が如実に現れます。どのような判断軸を重視して対応するのかは、その組織が掲げる理念や方針とも関連しています。同じ組織内の人によって、対応にばらつきが生じないように統一を図る取り組みも欠かせません。

5.いかに感情的な昂ぶりを沈静化するか

多くのクレーム対応を困難にしているのは、相手の「感情的な昂ぶり」です。その感情的な昂ぶりをいかに早く沈静化するかがポイントです。

(1)激情型のお客さまの場合

大声を上げて怒鳴る、血相を変えて文句を言い立てる等、ストレートに怒りをぶつけてくるパターンです。このようなお客さまに対しては、まず、相手の怒りの心情を受けとめることが大切です。 対峙するのではなく、お客さま側に立って話を聴くことで、徐々に冷静さを取り戻していただきます。冷静になると、意外なほど物分かりが良くなられるお客さまであることも少なくありません。

(2)プレッシャー型のお客さまの場合

お客さまから決して声を荒げることはありませんが、「おたくの上司にお伝えすることもできるんですよ」 「私のサイトは影響力があるんですから」などとこちらの弱点をじわじわと突いて、プレッシャーをかけてくる方です。 そんな言葉にうかつに反応してしまうと弱みにつけ込まれることになりかねません。 逆にこちらがうかつに開き直ってしまうと、相手の怒りにさらに火をつけてしまうことがあります。

このようなお客さまの揺さぶりに過度に反応せずに、一貫性のある誠実な応対に徹することが大事です。

(3)ねちねち型のお客さまの場合

お客さまから同じことを何度も繰り返して責め立てるパターンです。こちらが早々に解決策を提示して収束させようとすると、さらにお客さまの態度を硬化させる恐れがあります。 このタイプのお客さまの場合、ある程度相手の気が済むまでお話をうかがうことが必要です。また、クレームが長期化するのもこのタイプで、概して損得よりも自分の納得が最優先だからです。

従って、根気よく相手の主張に耳を傾け、「お客さまのおっしゃることはもっともだ」という相手への理解をこちらから示すことが効果的なのです。

(4)感情的な昂ぶりを静めるには、3つの「変える」を活用する

①人を変える

初期段階で感情的に対峙して熱くなってしまった応対者とは、急に冷静な話をすることにバツの悪さを感じるお客さまもいらっしゃいます。ある程度お客さまが言いたいこと を言い切ったタイミングで応対を上司と交代することで、お客さまに「理性的な自分」に戻るきっかけを提供します。それと同時に「格上の者に対応させたから満足だ、今回は許してやろう」という気持ちになっていただくのです。

②場所を変える
他のお客さまがいるところで大きな声を上げられると、まわりのお客さまにも迷惑がかかり、自組織の体面上もよくありません。何より、クレームを言うご本人を後々不要に 追い詰める状況にしてしまいかねません。まずはお客さまを別室等にご案内し、少し落ち着きを取り戻していただきます。そうしたところで、再びゆっくりお話をうかがうと それが双方にとっても得策になるというわけです。

③時を変える
クレーム対応の基本は迅速な行動にあります。しかし、感情的になっている場面、性急に結論を出すことはよくない結果を生む可能性もあります。原因調査等の名目で少しご猶予をいただき、日をあらためて話し合いを持つのです。すると今度は建設的な方向に話し合いが進むことも多いものです。

6.相手のねらいが「合理的な解決」でない場合はどうするか

クレームがスムーズに解決へと進まない原因のもう一つに、「相手が合理的な決着を望んでいないこと」すなわち悪質なクレームであることが考えられます。ただし、早計に悪質クレームと判断して対応してしまうと、深刻なこじれを引き起こす恐れがあることを心に留めましょう。 よくある例を以下に示します。

(1)憂さ晴らし型のお客さまの場合

解決に向けた提案をしようとすると、お客さまが頭からその解決案を否定したり、別の新たな不満を投げかけたりしてきます。このようなことが延々と繰り返され、最後は何を要求するでもなく、急に捨て台詞を吐いて消えることもよくあります。

このパターンのお客さまは、不満をぶつけること自体が目的であって、解決を求めているわけではありません。ひとしきり言いたいことを言ってこちらが精神的なダメージを受けていることを見届けられれば満足し、去っていきます。

(2)愉快犯型のお客さまの場合

わざとこちらが忙しい時間帯をねらう、特定の従業員がいる時にだけクレームを言い立てる、人が大勢いる中で声高に文句を言うなどがその行動の特徴です。
先述の憂さ晴らし型のパターンよりも「こちらを困らせよう」という意図が明確であり、やっかいです。この場合は、お客さまとしての対応から愉快犯的な迷惑行為者としての対応にこちらが意識を切り替えることを検討すべきです。

(3)金品要求型のお客さまの場合

怒鳴り散らす・恐喝まがいの責め立て方をするといった手段で、こちらに精神的なショックを与えようとし、こちらが冷静さを失っているところへ取引話を突然切り出してくるようなタイプの方です。 金品を要求する・相手に不利な条件をのませるなどねらいが明確で、戦略的にクレームの展開を組み上げて臨んでくる熟練者が多いです。

こんな悪質な相手となれば、かなり手ごわいと覚悟しなければなりません。こういった悪質クレームに備えて、何が法に触れることなのか、自組織としてどこまでの妥協ができるのか、どの一線を越えれば警察や弁護士に委ねることにするのといったガイドラインを事前にしっかり設定しておくことが重要です。

7.クレーム対応における「交渉力」

相手と冷静な話ができる段階に入ってからは、クレーム対応の中心は「交渉」へと移ります。交渉とは、与えられた条件の下で双方の妥協点を見つける合理性の高さが求められる行為です。 同時に、相手の心情を読み取りながら対応方法を変える心理的攻防の場でもあります。

(1)相手のメリットを軸に交渉する「功利的説得」

「お客さまにとって、××というメリットがございますので、○○されることをお勧めいたします」などのように、相手側の立場に立ってそのメリットを明示する方法を功利的説得といいます。 この説得は相手に納得感を与えることができるために合意に至りやすいので、クレーム交渉に限らず、あらゆる交渉の王道ともいえる手法です。活用にあたっては次のポイントをおさえましょう。

 ・押しつけると反発を買い、説得できなくなる可能性を鑑み、勧めるだけで強制はしない
 ・双方にメリットのある結論に至りやすく幅広く使えるので、最初に検討すべし

相手との間のメリットの軸には、価値・コストダウン・安心の3種類があります。

①価値
相手がこちらの提供する製品やサービスに対して高い期待を持っている場合には、その価値が損なわれないことや場合によっては向上させられることを前面に押し出して伝えます。
例:「リリースは3カ月先に伸びてしまいますが、このプログラム修正を施すことにより
   当初の仕様のものよりも飛躍的に操作性が高まります」
  「長く使うことを考えますとむしろ問題が見つかって良かったかもしれません」

②コストダウン
ビジネスにおいて、コストが下がることを好まないお客さまはいません。ただし、コスト面でのメリットだけを強調することは、クレーム交渉の場では逆に信頼を損なう恐れもあります。必ず品質や効果を維持することを前提としてコストメリットを伝えます。

③安心
安心感や品質の確かさを重視する相手にとって、クレームが起きたことそのものがすでに大きなデメリットとなっています。そこから信頼を回復するためには、抜本的な対策を講じることで理解を求め、再び同じ問題を起こした場合には損害を補償するくらいの 覚悟で臨まなければなりません。

(2)ルールの遵守を軸に交渉する「規範的説得」

①ルールに照らし合わせて説得する
「契約書の細則に従えば今回のケースでは当社が責任を負うことは困難でございます」といった、相手側との間のルールを明示する方法を「規範的説得」といいます。契約書のように、両者で合意した従うべきものが存在するのであれば、それに照らし合わせて合意点を導き出すことができます。法律社会通念・社会常識をはじめとした第三者的な視点から見て守るべきものと判断されるものを基準にするのも有効です。

②功利的説得と規範的説得の組み合わせが効果的
たとえ問題に対する責任が自社にない旨を契約書に明記されていたとしても、クレームをあげてきた相手が自社に不満を覚えていることは事実です。ルール上の責任の所在は 双方で確認しつつ、お客さまにとってどのような解決策が望ましいのかを、相手のメリットも含めて一緒に考えることが大切です。

例:「今回問題となった機能の実装については、契約に照らして判断すればスコープ外の
  の作業となります。ただ、必要な機能であることは間違いありませんし、別の業者が
  一からつくり上げるよりも弊社が一緒につくったほうが効率も良いはずです。結果的
  にご迷惑をおかけすることになったお詫びも含め、格安でその機能の追加作業を承り
  ますが、いかがでしょうか」

8.伝えにくいことを伝えるポイント

(1)互いの意見の同異を整理する

伝えにくいことを伝える場面で特に重要なのが、互いの意見の同異を整理することです。 同じ意見に関しては、しっかりと肯定の意思を伝えます。異なる意見に関しては、自分の意見とどのように違うのか、理由も含めてはっきりと相手に伝えることが大切です。

次のような伝え方ができれば、反発を生みにくくなります。
 例:○「お客さまのおっしゃる方法もいいと思うのですが、法律上の問題がございます」
   ×「お客さまのおっしゃる方法は法律上無理です」

相手の態度が意見を受け取りやすいように変わり、こちらの意見も伝わりやすくなりますし、議論の焦点が明確になるため、活用をおすすめします。

(2)「伝えにくいこと」を伝えるステップ

①相手との同異を整理する
相手の話をきき、自分の意見との違いを考えます。

②自分の意思を伝える、問題を明確にする
相手の意見を認めたうえで、同じ意見を持つことを述べつつ、異なる意見に対して自分の意見を述べます。このとき、全てを否定しているわけではないということを明確にします。

③相手の意思を認めて、一度全てを受け入れる
相手の話を再度きき、異なる意見もしっかりと認めます。たとえ、どちらかの意見に間違ったところがあったとしても、すべての意見を伝え合ったあとに、議論の上で修正すればいいのです。

④互いの譲歩を引き出す
双方の意見を全て活かすことが困難な場合、互いに妥協点、もしくは新しい案を探すことが必要になります。ここで重要なのが、それぞれどの点が譲れないのか確認することです。 その中でどこまでなら譲れるかを探り、できるだけ互いの意見を活かせるよう議論します。

9.相手の感情に気を配りながら交渉する

クレームというデリケートな問題を扱う交渉では、相手の感情に気を配りながら進めることが求められます。以下の5つに留意しましょう。

(1)相手を主語にして話す

相手にとって何が困るのか、相手から見てどうなれば嬉しいのかというように相手を主語にして話を進めます。相手の問題解決のために交渉しているという姿勢を示すことが大事です。

(2)守りの姿勢を前面に出さない

問題が起きたことに対する言い訳がましい釈明をする、自分に負担がかかるような提案について反射的に拒絶するなど自分を守るような振る舞いが相手の目についてしまうと、不誠実な態度と取られたり、あるいは問題を解決する力のない人と見なされたりすることを肝に銘じましょう。

(3)話しすぎない

話しすぎは交渉においては弱点を露呈する可能性を高めます。また、問題の捉え方が軽いという印象も与えがちですから控えましょう。

(4)2人以上で交渉し、適切に連携する

絶対に成立させなければならないような重要な交渉は、2人以上で交渉します。連携プレーで交渉を優位に進めることができます。ただし、誰かを急に交渉の場に同行させてはその効果を生みません。事前の事実確認や役割分担をして、十分に準備します。

(5)論点を整理するためのツール

双方にとって建設的な合意を目指すうえで、論点の整理が基本となることは、他の交渉と変わりありません。論点を整理する際に、「交渉準備シート」を活用するのも一つの方法です。

◇交渉準備シートの項目

 

1.争点(論点・焦点)は何か
2.お互いの要望を把握する
 ・相手の要望
 ・こちらの要望
3.交渉のメリット・デメリットを把握する
 ・交渉相手のメリット・デメリット
 ・こちらのメリット・デメリット
4.ボトムラインを把握する
 ・交渉相手のボトムライン
 ・こちらのボトムライン
5.双方の共通点と相違点を把握する
 ・共通点
 ・相違点

交渉準備シートの項目を埋めておけば、連携プレーで交渉する際にもスムーズに対応できます。

10.組織でクレームに対応する

(1)クレームが起こる組織・起こらない組織

クレームを防ぐための大原則は、「組織対応」ということです。組織で対応しないならば、クレームがなくなることは絶対にありません。もしあなたの部下がクレームに悩んでいるとしたら、それは上司であるあなたの責任です。クレームは、問題を共有したり、お互いに練習したりすることによって、大きく減らすことのできる性質のものなのです。

一番まずい状況とは、クレーム対応をしている人を遠巻きに見ていることです。「あいつは運が悪いな」など我関せずの風潮が職場にあってはなりません。 一つのクレームが全員で共有されない状態であれば、すなわち職場全員が平等にクレームを受ける可能性があります。ですからクレームが起こったら、絶対に全員で共有しなければなりません。

そのためにも、事前に対応の手順を全員で考えておくことが必要です。クレームが起きたら、まずそれを共有し、解析し、ベストの対応方法を決めます。その対応方法を全員で共有できれば、余裕を持ってクレームに対応することができます。

(2)クレーム対応を楽にするツール

クレーム対応に役立つツールに「トラブル・リスク管理表」があります。ある事象が起きたらどうするかということを事前に決めておくのです。自分の周りに起きそうなトラブル事象を10例挙げて、その対応策も考えて書き入れます。そうすると、クレームが発生した時に落ち着いて対応でき、安心して処理を進められます。

(3)記録の重要性

クレーム対応で大事なことは、クレーム対応でうまくいったり、だめだったりした結果を残しておくことです。記録をきちんと取っておいて、その記録を組織全体で共有することにより、クレームの発生を削減することができます。この記録が10件や20件と増えていくと、それは驚くほどの価値を持つものになります。新しく職場に加わったメンバーにそういった情報をあらかじめ知らせておくことにより、かなり高いレベルでの対応を期待することができるようになります。

記録をつけるときには、日付・起こった結果・内容・対応した結果や対応手順、そのときの反省点や課題などを明確に書きとめます。できればデータとして保存するのが好ましいです。クレームを社内の別の部署でも共有できれば、組織全体のクレーム対応力も高まり、結果としてクレームの劇的な減少につながります。

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