やっと気温が上がったと思えば、雲の低い日が続く。が、日脚が伸びれば帰路の買い物も苦にならない。新社会人たちは、組織のルール・仕事の手順から生活や健康の管理など、様々な緊張に囲まれていることだろう。急がずたゆまずに、自分の夢の実現に一歩ずつ進もう。
以前、将来の夢を聞かれた子供が好物の「スイカになりたい」と答えていたが、先日は「牡蠣になりたい」と言う子がいた(素敵!なれるといいわね)。現実的ではなくても、大好きなものになりたい気持ちが素晴らしいと思う。好きな気持ちに疑いをもたないことに敬意を表したい。大人が「バカなことを。まだ何にも分かっていないんだね」と笑うのは簡単だが、自身は何かになる夢を育て続けているだろうか。スイカが権力者に、牡蠣が富豪に、と現実的な対象に代わっても、夢に向かって努力しているだろうか。と時々自身に置き換えて振り返ってみる。成し遂げることができても夢破れても、夢は無いよりあった方が楽しい。
■夢見る頃
夢とは、幼子の場合は変身願望とでも言うべきだろうが、個人的には後悔しない生き方ではないかと思う。ビジネスパーソンも、大きな失敗なく誠実に組織を支える礎になることを選ぶ人もいるし、偶発的な縁に従い畑違いの世界に踏み入って転身を果たす人もいる。功成り名を遂げるだけが人の夢ではない。どんな形にせよ自分の選択に後悔がなければ、人生の目的の大半が成されたと思ってもいいのではないか。それもなかなか難しいが。
しかし世の中は進歩による変化も急で、心情は変わっていなくてもかつての正攻法が非効率で通用しなくなることもある。変化の時期には取り残された感からモチベーションも低下しがちだが、過去に固執せずにフレキシブルに自身の更新を受け入れることも、後悔しない生き方につながるかも知れない。
技術革新や人手不足を背景に政府はリスキリング制度を支援しているが、導入に意欲的な企業は2024年時点でまだ全体の約1/4だという。取り組みたくても人手不足で余裕がない、というのが普及の遅れにつながっているらしい。幸運にも自社にリスキリング制度があれば、組織の存続成長と自身を重ねて、新たなスキルを学び直すことも可能だ。
■膨らむ夢
もちろん、組織とは別のところに自身の目的を置く場合もある。私の知人はかつて外資系IT企業で秘書も個室ももつ重役だったが、現場で働く実感が欲しくて中小企業診断士の資格を取った。がその後、母親の介護のために若い人とともに学んで資格を取り、訪問介護の会社を立ち上げた。若くない彼は苦労が多いと言うが、重役だった頃に比べてずっと生き生きして見えた。「現場にいたい」という願いをもつ人を、待遇や給与だけで引き留めることはきっと難しいのだ。
働き方改革が進められて多様な働き方が制度的には浸透してきたが、まだ個人が目指す本音の夢とのギャップは大きい。組織としてはまずは国の政策に従い、社会通念の認知を得た範囲内での改革・個人の夢に沿った支援となるのが順当な運びだろうが、働く人の多くは遅々とした歩みを待っていられない。
ホスピタリティの概念が無かったころ、地方のショッピングセンターの事業計画プロジェクトに呼ばれ、企画で参加したことがあった。フロア動線やエスカレーターの活用など順調に進んで当時まだ新しかったアメニティゾーンの提案をすると、「このスペースでどのくらい儲かるのか」と聞かれた。「時代に先駆ける企業の姿勢に対して、顧客から信頼・満足・期待・共感など、お金で買えない利益が得られます」と答えOKを得た。が、しばらく経って訪れてみると、夢を詰め込んだはずだったゾーンの植栽は除かれ自動販売機が並んでいて、ビジネスの現実を思い知らされた。
あれから数十年、人間が減り優しさが求められている。眼には見えないが確かにある、一律では管理できない個人個人の夢や生き方を集結して力に変えていく組織が、遠くない将来必ず出てくると、私は陰ながら信じている。
2025年4月2日 (水) 銀子