クレーム対応の基本と発生原因
はじめに
なぜクレーム対応が上手にできないのか
皆さまは、日々の仕事の中でさまざまなクレームに直面していると思います。弊社の研修は、組織で実際に発生したクレーム事例をベースに「ケーススタディ」を作成し、ロールプレイング形式によりクレーム対応を肌で感じ、身につけていただけることが特長です。開業以来、官公庁、建設、外食、コールセンター、医療系などあらゆる業界で、実に多くの方々に向けて、クレーム対応研修を実施して参りました。
そのような中で、クレーム対応が上手に「できない」方に関しては、「3点」の共通ポイントがある事が判明しました。これからご紹介するシリーズの中で、皆さまの今後のクレーム対応に少しでもお役に立つ点があれば幸いです。
クレーム対応が上手にできない3つの理由
まず第1に「困っている事実に対して、お詫びできない」第2に「顧客のクレームを我慢できず、話してしまう」第3にクレームが発生している「事実の確認ができない」ということです。以下の事例について少し考えてみます。こんな事ってよくありませんか?
- 客:「どうしてビール1杯出すのにこんなに待たせるんだ!」
- 店員:「お客さまが多いもので・・・」
- 住民:「夜間工事の音がうるさくて眠れない。なんとかしろ!」
- 工事会社:「工事をする事は前々からお知らせしていた筈ですが・・・」
お客さまが困っている事実に対して、お詫びできない
上記の2つのケース共に、お客さまのクレームに対して、正面から受けて反応できていません。
人として、「困っている」人がいたら、同情する事はごく普通の事です。ましてや、自社の商品・サービスを使っていたり、自分の仕事のせいでお客さまがお困りであれば、なおさらです。ただ、現実には、言い訳が先行したり、ひどい時には黙りこくったり、お客さまを無視したり、ふて腐れている様に見えたり(必死に耐えているのか、無関心なのかは分かりませんが・・・)、本人に悪気がなくても、その状況によって、お客さまの怒りは最初より何倍もヒートアップしますよね。そんな状況に陥っている方を大勢見かけます。
では、どうすればいいのでしょうか?
そのような状況であれば、まず、「お困りの事実に対して、お詫びをする」ことです。「お詫び」をすることは、自社の非を全面的に認めることとは違います。「お詫び」をすることは、お客さまの「お困りの点」に同情することなのです。
一般的には、この点があまり理解されていません。この「お詫び」ができるかどうかで、クレーム対応上達の第一歩を踏み出せるかどうかが決まるのです。
クレーム解決のための3つの要素
クレームを解決するスキル(1)「仕事力」
「クレーム」解決に向けては3つのスキルが必要です。
まず、1つ目は「仕事力」です。
自分の仕事を良く知っていることが、クレームを起こさない(解決する)最大のポイントです。例えば、鮮魚の売り場で「どの魚が鍋にして美味しいか?」とベテラン店員に聞けば、「この季節はたらが美味しいです」などと答えてくれますが、仕事に慣れていない店員は、魚に関する知識が少ないため、十分な答えができません。しかし、お客さまにとっては、店の中にいれば、ベテランや新人に関係なく「魚屋さん」で、何か魚のことを尋ねれば、有益なことを教えてくれるという期待を持っています。このお客さまの「事前期待」を十分に満足させることができなければ、クレームが発生してしまいます。
クレームを解決するスキル(2)「応対力」
2つ目は、クレームを仰るお客さまが目の前にいて、実際に解決に向けて動く「応対力」です。
例えば、役所の窓口で「健康保険料を既に支払っているのに再度請求があった。どういうことだ!」と怒鳴っている男性に対して、現場で即座にどう対応するかということです。どこに座っていただき、どんな顔をしてお話を聞き、どんな手順でご納得いただくかというスキルです。
クレームを解決するスキル(3)「冷静な判断力」
3つ目としては、「冷静な判断力」が挙げられます。
難易度の高いクレーム対応には、このスキルが特に求められます。 例えば、「従業員が自動車事故を起こし、その被害者から商品の購入を強要されている」というような事情が複雑に絡み合っているクレームです。このような場合は、単なる「応対力」では解決できません。冷静にお客さまのご要望に応えられるかどうかを判断し、最も適切な解答を準備し、お客さまと交渉していくスキルが必要になります。
クレームは大変難しいもののように思いますが、冷静に考え対応すれば、それほど怖いものではありません(最も重要な点ですが、「怖くなくなる」のは難しいことです)。 冷静な対応ができるようになるためには、「あわて」「おびえ」などをなくす必要があります。 その力をつけるためには、やはり現場の実例に近いケーススタディを数多く行なうことが一番です。
弊社の研修では、受講されるお客さまの社内でも高頻度で発生し、かつ難易度が高いクレームにターゲットを絞り、皆さんにその解決策を考えてもらっており、すばらしい成果が出ています。
クレームの種類を知る
「クレーム」とは、「不満表現」のことですが、広く「お問合せ、要望・提案」までの意味を含むこともあります。
これまで、企業・官公庁向けに多数の研修を行ってきた経験を踏まえると、クレームは、「日常的なクレーム」「特殊なクレーム」「お門違いなクレーム」の3つに分類できるのではないかと考えています。
「日常的なクレーム」
- 「説明書を読んでも、パソコンの使い方がわからない」
- 「オペレータの対応が要領を得ず、やって欲しいことをしてくれない」
など、お客さまが商品・サービスに不満を持ったり、期待を下回った場合に現れるものです。
また、「道路の夜間工事がうるさい」など、常識的に考えて正当な不満要求もこの中に含まれます。
「特殊なクレーム」
- 「商品の欠陥を公にされたくなければ、誠意を見せろ(金を払え)」
- 「要求通りにしなければ、騒ぎ立てるぞ」
- 「株で損をしたから、金を返せ」
など、過度に「金銭要求」などの不法行為を強要したり、「業務妨害」を行う、悪意を持った故意のクレームです。
「お門違いなクレーム」
- 「お前の店の前で転んだ。治療費を出せ」
- 「消費税を払いたくない」
など、憂さ晴らし・八つ当たり・個人的な感情や不満・ストレスなどを押しつけてくる自分勝手な常識外れのクレームです。
近年、「お門違いなクレーム」が特に増えている
上記の3つのクレームのうち、近年、特に「お門違いなクレーム」が増えています。
このクレームは「お客さまとの見解の相違」や「勘違い」、「法律等で決まっていてどうしようもできない」というものが多く、現場の方々を悩ませ続けています。
しかし、どのようなクレームも基本・原則を守り、手順通りに行なえば、ほとんどのものが解決できるようになります。
クレームは必ず発生してしまう
「お客さま自身の期待水準」を大きく下回った時にクレームが発生する
一般的に、クレームは、商品やサービスに対するお客さまの「一定の期待水準」を大きく下回った時に発生します。
例えば、あるお客さまAさんが居酒屋に入ってビールを注文したと想定してみましょう。
ビールは調理する必要がなく、ただ、グラスに注いで持ってくればいいわけですから、Aさんは最低でも「5分以内には持ってくるはず」という「期待水準」を持っています。
しかし、「10分」が経ち、さらに「15分」待ってもビールを持ってこない場合、「どうなっているのか!」ということで、Aさんは怒ってしまうでしょう。
つまり、「お客さま自身の期待水準」を「下回る」と、「不満」が生まれ、その不満が積み重なり、お客さまの「期待」が完全に裏切られ、我慢が限界に達したその瞬間、「クレーム」が生まれるのです。
「クレームは必ず発生する」という前提に立て
米国のある調査結果によると、どんな商品・サービスに対しても、購入された直後に40%のお客さまが不満を抱き、そのうちの4%のお客さまがその不満をクレームとして表面化させると言われています(全体の1.6%。1万人から必ず160人分のクレームが出る計算)。
自社の商品・サービスに自信を持つのは良いことですが、お客さまには様々な方がおり、多種多様な「期待水準」を持っているので、それをすべて満足させることは不可能です。
また、サービスや商品にどれだけ注意していても、「お門違いなクレーム」のように、その発生を防ぐ事ができないものも増えてきました。
よって、商品・サービスを充実させてクレームを完全に無くすという考えよりは「クレームは必ず発生する」という前提に立ち、起こったクレームをしっかり調査・記録して対応策を検討し、その結果をマニュアル化して、あらゆるタイプのクレームに対応できるよう備えるのが現実的です。
重要なのは「二度と同じクレームを起こさない」ことです。
クレーム対応の基本は「お客さまの気持ちを知ること」
クレーム応対の基本は、まず「お客さまの気持ちを理解する」こと
クレームは、企業・組織にとって「嫌なもの」ですが、お客さまの側も同じように商品やサービスで「嫌な思い」をしたからこそ、クレームを仰っていることを忘れてはいけません。クレームを発するお客さまは、それぞれの「理由」を抱えています。
たとえ、「特殊なクレーム」や「お門違いなクレーム」であっても、そのクレームを言わせる背景に、経済的な事情であったり、家庭、会社や身の回りの事情からの、孤独感・ストレス・不安などがあるかもしれません。
クレームに応対する時には、そのようなお客さまの気持ちや、クレームを言う背景などを推しはかりながら応対をすることができれば、お客さまの心情(クレームを発した理由)を汲みとることができ、自然と応対に「心がこもり」、クレーム応対がスムーズに運ぶ可能性が高くなります。
また、クレームが起こった際には、迅速にお客さまの元にかけつけると、こちら側の誠意を感じ取っていただけます。正確な情報収集の意味でも「現場へ走ること」は重要です。
クレームを起こさせる4つの心情パターン
お客さまがクレームを仰る時の気持ちは人それぞれですが、「困っている」「損をしたくない」「イライラしている」「(商品・サービスを)良くしてあげたい」という4つの気持ちが、クレームが発生する心情パターンの代表的なものです。
具体的には次の項目でみますが、クレームを解決する際には、「原因となった事柄」に対処することと合わせて、お客さまの「気持ち」を知り、それに応えることも必要となってきます。
また後日、クレーム解決の手順の所でも解説いたしますが、クレームは、原因に対処することよりも、 お客さまの気持ちに応えることさえできれば、たいていのものは軟化ないしは解決します。 相手の気持ちに応えることは、コミュニケーションをする上での基本です。
クレームを出すお客さまの4つの心情パターン
パターン1:「本当に困っている」
「クレーム」をつけるのは、「時間」や「勇気」が必要な事です。ですから、それでも敢えて、お客さまがクレームを言うのは、望んでいる通りにならず「困っている」からです。
電化製品やパソコン、パソコンソフトを購入して説明書どおり操作したが動かないので、やむなく、サポートセンターに電話したところ、なかなか電話がつながらなかった。
いろいろな電話番号を探したあげく、20回目にやっと電話がつながったと思ったら、オペレータに開口一番、「説明書に書いてあるとおり操作されましたか?」と冷たく言われ、「カチン」と来た、という経験は、皆さんも一度ならずあるのではないかと思います。
オペレータは、電話を受けるのが「日常」ですから、事務的な「冷たい」対応をしてしまいがちですが、お客さまは、その時、本当に困っているのです。このような両者の「気持ちの温度差」により、新たなクレームが生まれることがあります。
お客さまが電話してきた不満が「一次クレーム」とするなら、このクレームは応対の最中に起こった「二次クレーム」です。このクレームの連鎖を「二重クレーム」といいますが、これは避けられるものであり、絶対に起こしてはならないクレームです。しかし、残念ながら、このような応対のまずさでクレームに発展するケースは少なくありません。
パターン2:「損をしたくない!」 「不当な扱いを受けたくない」
当然ながら、お客さまは「損をしたくない」のです。「特別」とは言わないまでも、「他の人と同じサービス」を受けたいと考えています。
例えば、「先着順販売のお節料理を並んで買おうとしたところ、整理券が必要である事を知らなかったため、さんざん並ばされたあげく購入できなかった」というようなクレームがあります。
店側にとってはそれほど重大なこととは感じないかもしれませんが、せっかくのお得意さまを、連絡(告知)不足などの不注意で失うことにもなりかねませんので、公平なサービスを心掛け、クレームを起こさないようにしましょう。
パターン3:「(この商品・サービスを)良くしてあげたい!」
実はクレームを言う人の大半がこの様な気持ちを抱いています。クレームの現場では、「元社員」「元職員」「元役員」「同業者」など自分たちの組織に近い人たちからのクレームが実に多いのはご存じの通りです。
これは、母親が子供に「○○くんの将来を思って『勉強しなさい』と言っているのよ」と心情的には同じ、「愛のムチ」です。冷静に考えれば極めてありがたいことです。
企業、組織はお客さまを失ってからでないと「クレーム」の有難みは分からないのかもしれません。
ただ、お客さまの怒った顔やクレームの背景などはなかなか分からないものです。応対する側は、お客さまが嫌がらせでクレームを言うのではなく、自分達のことを考えて言葉を言ってくれているという気持ちの余裕を持ちたいものです。
パターン4:「(時間がなさそうで)イライラしている」「機嫌が悪い」
これが一番やっかいなお客さまの心情です。例えば、同じ「パソコンが故障した」というクレームでも、平常心で事実を述べてくれる方もいれば、時間がなさそうでイライラしていたり、機嫌が悪い状態で電話を掛けてくる方もいます。
つまり、電話をしてくるその日のお客さまの「時間環境」や「気分次第」で、クレームになる場合とそうではない場合があるのです。しかし、これは、発生を防ぐことが可能な事柄です。「機嫌の悪い」お客さまには、無愛想な表情や言葉尻などを捉えられて、より怒らせないよう、特に話し方や言葉に注意します。
「時間がなさそう」だと感じた場合は、最初から、「5分ほど大丈夫でしょうか」と必要な時間を告げたり、「お時間は大丈夫でしょうか」と確認しておけば、それ以上、お客さまを不機嫌にしたり、怒らせることはないはずです。二重クレームを起こすのは絶対に避けましょう。