「女性管理職をどうやって育成していけばよいか」は、実務に携わる方々にとって関心の高い問題です。今回は、上林憲雄教授(神戸大学大学院 経営学研究科)が整理した、女性管理職育成を考える上での前提についてご紹介します。
女性管理職育成へ向けての第一歩(1)
著者:インソースマネジメント研究チーム
1.男性・女性には、「生物学的性差」と「社会的性差」がある。
2.男女雇用機会均等法は、あくまで機会の均等を謳っているもので、男女間には全く差異がなく、能力も全く同じという意味ではない。
3.生物学的な性差を前提とした上で、本人の努力次第で何ともしがたい特性を理由として社会的に格差が設けられる点こそがあってはならない問題である。
- ■難しい問い
- 女性管理職をどうやって育成していけばよいか―実務に携わっておられる方々にはとても関心の高い問いです。我が国の企業で女性が管理職に占めている割合はわずか8.8%(2008年)に過ぎず、先進諸国では最低となっています。実務家の方々が悩まれるのは至極当然です。
- ■扱いにくい性差の問題
- ただ、学術の観点からこの問いにきっちり答えるのには、なかなか難しい側面があります。その背景の1つには、男性・女性という性差を表に出して議論することが、昨今の社会ではとりわけ難しくなってきている状況があり、そのため学界で正面切って研究がなされていないことにも依ります。一般に、「女性/男性という区別なく、すべて平等でなければならない」という考え方が主流で、それが社会的にも浸透しているためです。
- ■性別役割分業の意識
- では、そもそもなぜ、我が国では「女性管理職比率が低い」という現状になっているのでしょうか。諸説がありますが、最も有力でかつ妥当な説は「日本はそもそも儒教文化の根付いている国家で、そこでは"男性は外で仕事を、女性は家庭を守る"という発想法(「性別役割分業の意識」と呼ばれます)が強かったから」というものです。
- ■男女の機会平等
- この性別役割分業の意識は、継続的に下がってきています。女性の社会進出、またグローバリゼーションが進展するに伴い、男女を分けることは「古い」考え方として、若い世代の人々に受け入れられなくなってきているためです。
- 日本政府もそうした趨勢も受け、「男女雇用機会均等法」を1985年に成立させました。その後2度の改訂を経て、男女間で機会平等であるべし、という意識はかなり社会的に浸透するに至っています。
- ■生物学的な性差
- ここで見落としてはならない重要なポイントは、男女雇用機会均等法が、あくまで機会の均等を謳っているものだということです。男女間には全く差異がなく、能力も全く同じ、のような理解がされているケースをときどき見かけるのですが、実はそうではありません。
- 簡単な例を挙げると、子を産む能力は女性にしか備わっていない能力です。男性はどれだけ努力を積んでも、本来的に子供を産むことはできません。あるいは、スポーツ競技などの身体的能力についていえば、筋力が発達している男性の方が一般的には優れているため、男女別に記録が競われます。
- ■社会的な性差
- 男性・女性という性差は生物学的には当然に存在しているのであり、むしろそれは前提とした上で、そのような本人の努力次第で何ともしがたい特性を理由として社会的に格差が設けられるという点こそがあってはならない点で、問題となっているのです。
- こうした基本を押さえた上で、女性の管理職育成と能力活用について、次回もう少し具体的にみてみることにしましょう。