華やかなイルミネーションが街を彩り、都心の寒さも身に染みるようになった。
今年も世の中は吉凶のニュースで溢れ、暮れようとしている。
自分に成長はあったか、持ち越す心懸かりはないか、来るべき将来への準備はどうか、など老若を問わず己をかえりみる時だ。

雑踏の中、様々な人とすれ違いながら、時々思う。
外では寛容で献身的な人が、家では気難しく高慢な暴君であることがある。また、外では狡猾な泥棒でも、家に帰れば子煩悩な優しい父の場合もあるだろう。
様々な人生が交錯する世の中で、実際にその生き方に触れる機会はそう多くない。
私は3/4世紀近く生きてきて、ご縁があって知り合った人の中に、その生き方に感銘を受け尊敬している人がいる。

その人は、あるプロダクションの創業メンバーのデザイナーだった。
私より一回り以上年長だろうか。そのプロダクションとは長く取引関係にあったので、度々彼と一緒に仕事をした。そのうちに気心が知れ、私は彼の正確な仕事ぶりにも実直な人柄にも信頼を寄せるようになった。

40年前、彼は緻密で斬新な手仕事で顧客からも経営者からも、高い評価を受けていた。諍いはもちろん、弁解も言い訳も聞いたことがない、穏やかで静かな人だった。世渡りには疎く、功名には興味がないようだった。
断続的に一緒に仕事をしていたが、時代はPCのデザインが主流となり、いつの間にか彼のデザインは「古い」といわれるようになった。
私から見ても確かに今風ではなかったが、それは彼にしかできない個性でもあった。
質の高さを競う大きなデザインは「彼に」という顧客も少なくなかったが、バブルが崩壊すると、そういう高レベルの仕事自体がどんどん減っていった。
彼もPCをある程度は使いこなしていたが、PCデザインの専門学校を出た若い後輩から、軽んじられているのを何回も見聞きした。

ある時、私が「あまりに失礼じゃない」と腹を立てていると、彼はケロリと

「怒ってくれなくていいよ。僕は、全くかまわないの。自分と違うことを馬鹿にする人間はどこにでもいるし、いちいち目くじらを立てるのが嫌なの。腹が立たないわけではないけれど、そういうところで生きたくないの。僕は自分にできることをするだけ」と言った。

......そうか、いつも彼の気の良い要領の悪さが、他人ごとながら歯がゆかったが、彼はもっと高みで暮らしているんだと気づいて感銘を受けた。
見ていた私の方が卑小だと自覚した。
彼はそのまま定年まで勤め、今は地方都市で妻と菜園を作って暮らしながら、地域行政のデザインをしている。時々上京して一緒に飲むときの彼はとても幸福そうだ。

私もそうありたいと願った。他人がどう思うかではなく、自分がどう思うかを生きたい。が、器の小さい私は、未だに簡単に腹立ち、簡単に傷付く生活を送っている。
仏教で「忍辱（にんにく）」は重要な修行、「侮辱や苦悩に耐え、怒らず動揺しない」ことだが、なかなか常人には難しい。彼のように自然にそう考える人が近くにいたことが、私にとって追いつけない素敵なお手本、幸運だった。

誰も不幸であってはならないが、みんな自分に合った方法で勝手に幸せになる義務がある、と私は考えている。
誰かに幸せにしてもらうんじゃなく、自分で幸せにならないとね。
いちいち過敏に他人の言葉に反応していると、自分らしさがどんどん無くなる不幸に見舞われる。
私の周りには、収入面の反対や年齢の心配を押し切って、自分流の幸せを掴んだ老若の友人が多くいる。文字通り、幸せは千差万別、十人十色なのだ。

私はどうかといえば、1か月後も100年後も同じ自分の将来と考え（無論、劣化は進むのだが）読み書きの仕事を続けられるように謙虚に勉強しようと思う。
私にとって今日すべきこと、勉強すべき課題があることは、幸せのプレゼントと同じ喜びだ。

Happy Holidays ！

２０１９年 １２月 ２５日 （水）　銀子