銀子の一筆

勝利の条件

晴雨寒暖が激変する日々も治まって、ようやくなだらかに季節が進んでいるようだ。気がつけば太陽の位置は低くなり日の暮れが早まり、テレワークの机廻りの日差しも変化した。掌に受ける水も冷たい。窓を開け放って秋気を満喫できる日々も長くはないかも知れない。

世の中がどんなに騒がしい時も、必ず朝夕昼夜を下さる天に感謝と畏敬を抱いている。が、酷暑や荒天の日に限って出かけなければならない用事ができると、我儘にも天を仰いでため息することもある。運も不運も何事も御縁と思って、心を平らにして従おう。

◆運の重さ

無欲の勝利・偶然の幸運ということもあるのではないかと思っていたが、日本の資本主義の父といわれる渋沢栄一も「無欲は怠惰の基(もと)である(訓言集)」と言っている。現状に対して何の課題ももたず、ただ受け入れているだけではだめだということだ。彼の欲とは、「開放的な経営」と(今でいうCSV:Creating Shared Value「共通価値の創造」に通じる)「倫理と利益の両立」を実現し、世の中を社会全体をより良くしたいという社会的欲求だった。まだ混沌としていた時代に、目標に向かって道を切り拓くことが面白かったのではないか。なるほど、確かに無欲で運だけを頼って勝てるほど開拓は甘くない。個人の出世や利益よりも向上したいという意欲が実力以上の成長を促し、成長すれば出世も利益も、つまり挑戦者としての勝利が得られるのだろう。そして意欲のあるところには、必ずサポートもチャンスも呼ばれるように集まってくるのだ。

◆ビジネスにも必要な心・技・体

時々、テレビで柔道を観戦する。自他共栄の精神を旨とする柔道は、互いを尊重して礼に始まり礼に終わる。勝ち負けの心情を超えて自分の心身の修行とする武道の一つで、心技体を鍛える厳しい稽古を積んで、勝敗という結果が自身の成果になる。
対峙している時などは一見静かに見えるが、互いが全身で相手の筋肉の動きを感じ、全霊で間合いを読んでいる激しい戦いだ。かけられた技を別の方向から切り返す・伏せて逃れる・押し引きのステップを惜しまない・まともに力を受けずに逃がして体を整える、ほんの一瞬の緩み・判断が勝敗を分ける張り詰めた競技だ。
ここ数年、私はビジネスのマインドやスキル向上の教育研修を提供する企業にいるせいか、何かにつけビジネスに置き換えて見る癖がついた。武道は現実社会とは懸け離れた世界のようだが、乱世を生き抜くビジネスに通じるところがあると思う。精神・スキル・健康を鍛えることが大事なのはもちろん、遊びも勉強も、まして仕事や人生は礼節・ルール・基本・休息、失敗から学んだ自分なりの工夫と改善努力・それらに向かう意欲がなければ、勝利に近づくことはできないのに違いない。

しかし、武道の精神をもって自分の仕事に活かすには、高齢の気力・能力・体力では心もとない。なんといっても、私は(叔父の調べでは)塚原卜伝に試合を挑んで負けた先祖の末裔なのだから、加齢のせいだけではなくきっとスキも多く眼力も乏しいのだ。これから世の中に貢献する若い意欲に、期待とともにエールを送りたい。

2022年10月26日 (水) 銀子

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