昨今、部下・後輩のモチベーションに関するお悩みのご相談を受ける機会が増加しています。
- 「部下・後輩の仕事に対するモチベーションが下がっているようだ」
- 「部下・後輩のやる気を引き出したいが、どうすればよいかわからない」
本記事では、これまで数多くの組織でモチベーション向上研修を行い、さまざまなお悩み・ご要望にお応えしてきたインソースの経験から導き出された、部下・後輩のモチベーションを効果的に上げる方法についてお伝えします。ビジネスの現場における具体的なモチベーションアップ方法を掲載しておりますので、ご一読いただければ幸いです。
2種類のモチベーションの特徴・作用
そもそも、モチベーション(動機付け)という言葉は、「モチベート(motivate)」という他動詞が意味するとおり、他の人を動機付ける、つまり、「誰かがこのような気持ちになるように仕向ける」という意味です。
(1)2種類のモチベーション
モチベーションには「外発的動機付け」「内発的動機付け」の2種類があります。
①外発的動機付け
物質的な賞罰や叱責といった外的な要素を用いて動機を誘引することです。たとえば、業績に応じて報酬を上げる、昇格・昇給といったインセンティブ・評価制度が代表的なものです。これとは逆に、報酬を下げる、降格といったペナルティを設けることで動機付けを行うケースもあります。
外発的動機付けは高い効果をもたらす一方で、一時的な効力であることが多く、長期的にはモチベーションを維持できない点が指摘されています。
②内発的動機付け
金銭を得る、誰かに褒められる等外から与えられる報酬のための手段としてではなく、ある活動をすること自体を自己目的的に求める欲求のことです。知的好奇心はその代表的なものです。内発的動機付けは、自分が"やりたいからやる"という気持ちが原動力となっているため、持続性を保つことができます。
一方で、内発的動機付けは、意図的に持つことができません。また、関心や興味を持っていたにも関わらず、外的な要因に影響され、失われてしまうこともあります。
(2)部下・後輩のモチベーションを上げるには内発的動機付けを高めることが有効
意欲や動機付けは、仕事のパフォーマンスに大きな影響を与える要素です。
いわゆる「やる気がある状態」は、例えば「給与が上がった」といった外的要因によって意欲が向上している状態と、自らの内発的動機付けによって意欲が高い状態であることの2種類があります。
外的要因は自らがコントロールできない上に、長続きすることが難しいものです。
意欲向上を継続的に実現していくためには、部下・後輩の内発的動機付けをいかにして行うか、また継続していくか、ということが重要になります。
①部下・後輩の「やりがい」「好きな瞬間」を把握する
部下・後輩の日頃の仕事ぶりを観察し、どうすることが楽しいか、どのようにしたいと思っているのかを把握することが大事です。「お客さまをよろこばせたい」「納得のいくものを作りたい」など、「やりがい」「好きな瞬間」は人によってさまざまです。
それを把握し、なるべくその状態に部下・後輩を導くようにします。
これは好き勝手にさせたり、ただ楽しいことがよいという意味ではありません。仕事などある程度決まった条件がある中においても、できるだけ楽しみつつ生産性を意識して働き、周囲にも貢献ができるような接点を見つけだし、行動してもらうことが大切です。
②ビジョンを描き、目標を持ってもらう
部下・後輩の気持ちが折れてしまいそうになった時、思い出せる目標があるかどうかで持ち直すスピードも大きく異なってきます。「何のために?どうなるために?」の部分を明確に持つことは、モチベーション維持には有効です。
明確なビジョンがある人ほど、そのビジョン達成のために主体的に行動をとることができます。そのためにも、たとえば、1 on 1といった面談で、将来のビジョンや具体的な目標を語ってもらい、双方で共有すると効果的です。
日々の「フィードバック」で部下・後輩のやる気を引き出す
(1)日々フィードバックする
上司は、部下・後輩の仕事全般(態度、取り組む姿勢、進め方、成果等)に対して日々フィードバックする必要があります。
上手にフィードバックするために必要な要素として、以下の4つが挙げられます。
①【Can】できたこと
部下・後輩のこれまでの業務を振り返り、業務の中でよくできたこと、優れている点を振り返っていきます。新人や異動したばかりの人に関しては、新たにできるようになったことについて触れるのもよいでしょう。できている部分に意識を向けることで、「自分はできている」と自信を持つことができます。また、なぜよくできたのかをしっかりと振り返ることで、経験が学びとして蓄積され、今後に活かしやすくなります。
真面目な人ほど、できないことにばかり気を取られ、自分を責めてしまう傾向があります。その場合は、「できたこと」に言及し、「あなたはできる人間だ」と気づかせて、自信を取り戻させてあげるとモチベーションが高まり、仕事に対する意欲も高まっていきます。
ポイント
- よくできた点は何か
- なぜよくできたのか
②【Keep】維持すること
部下・後輩のパフォーマンスをさらに高めるために、これまでの部下・後輩の成果・取り組む姿勢等の中から、これからも続けた方がよいことを考え、明確化していきます。
ポイント
- 今後も続けた方がよい点は何か
③【Change】変えること
フィードバックというと、できていない点を指摘し、ダメ出しするだけに留めてしまうケースも見受けられます。しかし、それでは適切な指導とは言えません。できていない部分を指摘され続けることで、部下・後輩はできていないことに意識が集中してしまい、自信喪失してさらにミスを連発してしまうなど、悪循環が生じてしまいます。
大切なことは、できなかった点を踏まえ、今後どのように変えていくかを一緒に考えていく必要があります。
ポイント
- 今後改善した方がよい点は何か
- 今後やめた方がよい点は何か
④【Try】挑戦すること
①~③を踏まえ、今後部下・後輩がより成長していくためにどのような業務に挑戦していくのかを話し合っていきます。挑戦することに対して、さらに具体的にどのような行動を起こすかを明確にすると、部下・後輩はより主体的に取り組めるようになります。
ポイント
- 今後挑戦すべき点は何か
(2)フィードバックする時の注意点 ~自分の成功体験や価値観を押し付けない
①あなたの成功体験はそのまま通用することはないと心得よ
多くの人は仕事上の成功体験を持っています。それが仕事をやり遂げる自信の源にもなっているため、「自分ができたのだから、部下・後輩もできるはずだ」といった発想に陥りがちです。
しかし、あなたの成功体験は当時のあなた自身を取り巻く様々な環境要因の中で成立したものです。その中で得た知識や経験が、現在の部下を取り巻く環境でそのまま通用するとは限りません。そのため、成功体験を語る際には、十分な注意が必要と言えるでしょう。
②部下・後輩の価値観を尊重するのが大原則
自分の成功体験・価値観を押しつけず、部下1人ひとりの価値観を受け入れましょう。そのためには、まず自分の思い込みを排除し、あらゆる可能性を考慮することです。そして、その上で部下1人ひとりの価値観に優劣をつけず、自分とは異なる価値観を尊重する必要があります。
③わからないことに対して無理矢理答えを出さない
~自分がわからないこと難しいことは部下・後輩と一緒に考える
部下・後輩からの話や質問に対し、実はよくわからないのに、わかったふりをして、無理矢理回答を出すことは慎みましょう。わからないことはわからないと正直に話し、「では、どうすれば解決するか」を部下・後輩と一緒に考える必要があります。
④わからないからといって放置しない
自分がわからないからといって、部下・後輩の話や質問をそのまま放置することは止めましょう。改善・解決に向けて、時間を作って話し合い、一緒に考えること大切です。
⑤人を紹介する
わからない場合は必要な情報を収集することから始めます。そのためにその分野に詳しい社内(あるいは外部)の人を部下に紹介します。その人は上司や部下かもしれませんし、他部署の部下かもしれません。
誰がどういう業務に携わっているか、詳しいかについて日頃からよく観察し、把握するように心がけていきましょう。
「ほめる」ことを通して部下・後輩の意欲を高める
(1)ほめる ~ほめ言葉が人を動かす
ほめる(認める)ことで、部下の仕事に対する意欲は驚くほど向上します。部下のほめるべき点を積極的に見つけてほめるように心がけましょう。そのためには、部下のほめるべき点を普段の行動から意識して見つけ、事実を整理しておきます。
そして、ほめるべき事実を見つけたら、言葉にして伝えましょう。言葉にせずに、部下に察してもらおうという考えは改めましょう。具体的な状況に気づき、言葉にして伝えてあげることで、相手は自分に関心を持ってくれていることを実感します。上手にほめるポイントは、ほめ言葉のボキャブラリーを増やすことです。これが不足したまま、常套句になっているようなほめ言葉だけを部下・後輩に伝えても、心がこもっていないお世辞に聞こえ、結局は逆効果になってしまいます。
ほめ言葉のボキャブラリーを増やすために、例えば自分で思いついた言葉、自分が言われて嬉しかった言葉、新聞や本、映画の中の気の利いたほめ言葉を、ノートに記録し、蓄積していくのがおすすめです。
(2)内発的動機付けのためのほめ方 ~ほめる順序
ほめるボキャブラリーを増やすことができるようになったら「ほめる順番を考えて効果的にほめる」という次のステップがあります。
「ほめる順番を考えて効果的にほめる」時に、「ニューロロジカルレベル」のフレームワークで考えるのが有効です。
人をほめる時はまず「行動をほめる」、その行動が継続して続くのであれば「能力をほめる」という順番で部下・後輩をほめていきましょう。
①ニューロロジカルレベルとは
「ニューロロジカルレベル」とは、人の意識レベルを以下の5段階に分けて概念化したものです。
-
①環境
その人を取り巻く周りの環境
-
②行動
その人の行動、振る舞いなど
-
③能力
その人が持っている才能、能力など
-
④信念・価値観
信念や価値観、信じていること、思い込みなど
-
⑤自己認識
②まずは行動からほめる
部下との関係がまだ築けていないうちは、部下の普段の行動を観察しながら、その行動ぶりをほめていきます。
行動のほめ方については、部下の行動を具体的に、
- 「〇〇のヒアリングの仕方はよかったよ」
- 「メールの文章がわかりやすくて上手だね」
- 「先日のお客さまに対する心遣いは素晴らしかったよ」
など、自分が見て確認した状況や事実を、臨場感がでるようになるべく具体的にほめます。
③行動が定着してきたら、能力をほめる
部下の良い行動が続く場合は、能力として定着しているということです。相手の能力そのものをほめてあげてください。
ニューロロジカルレベルの図のように、行動よりも能力の方が自分の「自己」に近い部分で(深い部分で)ほめられることになりますので、部下の心により響きます。
例文
- 「ヒアリングが上手いね。質問力やコミュニケーションスキルが高いね」
- 「メール文はいつも読み易くて要点もわかりやすいね。文才があるね」
- 「いつもお客さまに対する心遣いはすばらしいね。CS意識や接客力が非常に高いね」
ほめる順序を意識することにより、部下の自己効力感(できるという自分への期待・自信)が高まり、部下のやる気も高まります。
注意すべきは、あまり上司と部下との関係性ができていない段階やそれほど相手のことをみていないのに、「能力」などニューロロジカルレベルの図の上位階層の部分を急にほめるとわざとらしく聞こえ、逆効果となるので注意が必要です。
また、「環境」をほめても、部下は自分以外の外側のものが評価されていると感じるため、部下には響きません。自分自身が評価されていると感じる「行動」からほめていきましょう。
「質問」を通して部下・後輩を動機付ける
(1)部下・後輩を動機付けるための質問 ~肯定質問
部下・後輩の成長を思うあまり、つい相手を責め立てるような否定質問をしてしまうことがあります。そのような質問をすれば、部下・後輩は萎縮してしまい、意見も言えなくなってしまいます。
部下・後輩の主体性を引き出し、前向きな方向で思考するように導くためには、相手の立場に立ち、相手がどうすればよいかを一緒に考えてゆく姿勢で質問する必要があります。そのために有効な質問話法が、「肯定質問」です。
例文
否定質問
- 「どうして同じミスを繰り返すんだ」
肯定質問
- 「次はどうしたらミスを防げるかな?」
- 「前に注意されてからどの部分を改善したのかな?」
(2)その他質問話法① ~オープン・クローズド質問
質問の基本は「オープン質問」と「クローズド質問」です。
2つの質問を交互に実践することで、部下・後輩の思考を整理し、様々な話を引き出すことができます。
①オープン質問とは ~部下・後輩の考える範囲を広げる
一言、もしくは短い言葉で答えられない質問のこと。「なぜ~なのですか」「どのように~ますか」のように、回答の内容に自由度があり、思考を広げる効果があります。
例文
- 「具体的には、どのような点に課題があると感じているの?」
- 「どのようにもっと成長したいと思っているの?」
②クローズド質問とは ~部下・後輩の考えを確かめる
YESかNOなど、一言、もしくは短い言葉で答えることができる質問。思考の対象を明確にする際や立てた仮説が見当外れのものでないかどうかを確かめる上で有効です。
例文
- 「課題と感じてるのは、行動量、それとも提案力?」
- 「今後挑戦してみたいことは、新規開拓ということ?」
(3)その他質問話法② ~未来質問・過去質問
「オープン・クローズド質問」以外にも、以下の「未来・過去質問」が有効です。
①過去質問とは ~ニーズの背景を引き出す
過去形の言葉を含む質問。過去の事実に焦点を当てます。過去の事実をベースに話すため、それが発生した理由や本人の想いの背景や経緯を引き出すきっかけになります。
例文
- 「前の部署で、今までどのような成果を上げてきたの?」
- 「どうしてその業務に挑戦したいと思ったの?」
※行き過ぎた過去質問をすると、部下・後輩は原因・責任追及を受けた様な気分になってしまうので、注意が必要です。
②未来質問とは ~部下・後輩の想いを引き出す
未来形の言葉を含む質問。部下・後輩の未来・これからの可能性に焦点を当てます。未来の事柄を話すため、前向きな気持ちになる傾向があります。
例文
- 「これからどのような仕事をしていきたいの?」
- 「これからどのような部分を特に成長させていきたい?」
※過去質問に比べると、未来への前向きな気持ちがない時には、回答しにくい質問です。
部下・後輩がやりがいを持って快適に働ける環境を整える
部下・後輩のモチベーションを高めるためには、十分なコミュニケーション量の確保や業務状況の管理など、職場環境の整備を行うことも肝要です。
(1)部下・後輩とのコミュニケーション量の確保
人間関係の良好さはコミュニケーション量に比例します。日頃、部下・後輩と話ができていないと感じている場合は、積極的に面談の場を設ける等、コミュニケーション量を意識的に増やすようにしましょう。より良いコミュニケーションを取るためには、普段から部下・後輩を「観察」し、行動を理解することが重要です。十分なコミュニケーションを通じて、部下・後輩との相互理解を図り、良好な人間関係を構築しましょう。
(2)仕事の裁量の度合いを高める
担当する仕事において、自らの考えや思い、アイデアを反映でき、かつ自分の裁量で進められることは、自己効力感に繋がり、満足度に大きく影響します。また、組織は本来、部下・後輩それぞれの強みを活かしながら、共通の目標を達成していくことに意義があります。こうしたことを実現するために、一人ひとりの個性を把握し、できるだけ強みを発揮できるような業務を割り当てることが重要です。
(3)仕事の社会的意義を伝える
仕事は社会にとって意義のあるものです。会社の仕事の意義、会社の理念やビジョンを部下に積極的に伝えていきましょう。そうすることで、部下・後輩は、自分や会社の仕事の社会的意義付けを行うことができ、仕事に対するやりがいを実感しながら仕事ができるようになるでしょう。
(4)仕事の負荷の度合いを調整する
仕事の負荷には、業務の物理的な量の負担に加え、難易度、困難度という質的な負荷もあります。部下や後輩の勤務実態をどこまで把握できているか、担当業務の中で、いまどんなことに取り組み、何がうまくいっていて、何が滞っているのかなどの状況を、しっかり見て、把握しましょう。最近の部下・後輩の様子を見て気になる場合は、面談等を通して部下の話を聞き、対策を考えるようにしましょう。
<最後に>
部下・後輩のモチベーションアップのためには、「フィードバック」「ほめる」「質問」などの方法を活用して、積極的なコミュニケーションをとることが効果的です。日頃から部下・後輩を観察し、業務状況を把握して調整するといった継続的な職場環境の整備も忘れてはいけません。
仕事に向き合うモチベーションを向上させること、十分なやりがいを持って業務に取り組んでもらうことは、ひいては離職防止にもつながります。部下・後輩と共に意欲高く目標に臨む、理想の職場をつくりあげましょう。