英国ウォーリック大学経営大学院ドクタープログラム修了後、2005年神戸大学大学院経営学研究科教授、経営学博士。専攻は人的資源管理、経営組織。
◇インタビュアー=インソース舟橋
今やっている研究は、人的資源管理についてです。具体的には、新しい日本型人事システムが、どんな方向へ動くのか。そういったことを、技術の変化、機会の変化、市場の変化、この三つの観点から研究しています。また、ワークライフバランスやダイバーシティ、技能継承など、人事に関連するホットなトピックスも絡めて研究しています。
もしかしたら、馴染みのない言葉かもしれませんが、「人的資源管理」とは、実は数年前まで労務管理論や経営労務論、人事労務管理論と呼ばれていたものなんですね。それらの名前が「人的資源管理」と新しく変わったわけです。「人=コスト」と見る考え方が「人=戦略的に重要な資源」という考え方に変わってきたのが理由です。
日本企業では、人事施策と言えば、いわゆる日本的経営の中で、これまでは年功序列や終身雇用などを中心に行ってきたので、人事戦略というレベルで検討されてきませんでした。しかし、人を、「資源」と考えれば、他の経営資源同様、企業として、効率化や、高い生産性を出す必要性に迫られ、戦略的な人員配置や教育・訓練をしていくようになったわけです。人的資源管理にも「S(=Strategy(戦略)」をつけて、呼ぶようになりました。「戦略的人的資源管理」(SHRM,シャーム)と呼ぶこともあります。
もちろん、企業間の競争で優位な源泉にしていくために、「人=資産」といった考えに変わってきたという背景もあります。
こうした、教育や研修を企業業績の向上につなげていこうという考え方は、1980年アメリカで始まり、90年代ごろアメリカから日本に入ってきました。私が少し、思っているのは、(アメリカ人は、しゃくだからあまりいわないのですが)、この「戦略的人的資源管理」という考え方のベースには、日本型経営の影響があるということなのです。
アメリカの企業は、1980年代に成功していた日本的経営から学んで、自分たちの人事施策を変えたんですね。ただ、日本の人事施策には、戦略的という考え方が抜けていたので、その部分をつけくわえて、グレードアップしてきたのです。
私が思うのは、「教養のある人」はすごく仕事ができるということですね。「教養的な要素」を馬鹿にしていて、専門分野ばかり勉強している人は自分が思っているより、勉強も仕事も出来ない様に感じています。
仕事をする上で、分析というか物事を分けて考えるというのはとても大切ですよね。でも、それよりももっと重要なことは、「分けたものを統合する力」です。
経営学でも何にしてもそうですが、物事をつきつめていこうとしたら、幅広い総合的な知識が必要になってきます。たとえば、経営学でいえば、人文科学のようなことも知らなければならないし、理系的なところも知らなければならない。専門ばかり勉強している人は、一つの特化した知識しかないから、物事の本質が見えてこないため、どうしても物事と物事のリンクの仕方とか、イノベーティブな発想が不得意です。
多様な事象を解決するためのロジックは、実はそう多くないものだと思います。しかし、統合する力の弱い人は、多数のロジックが存在し、それぞれ別々の事として考えてしまう。そうした「ロジック」を理解し、認識する力は、やはり教養というか、本当の意味での一般教養がないとつかないですね。
私は大学の教師をして、もう大分たちますけど、最近やっとわかってきたことがあって、それは「完全には,生徒のやりたいようにやらせない」ということです。「任せるようでいて,実は任せっぱなしにはしない」と言い換えることもできます。実はこれは企業経営の要諦でもあるわけですが。
自主性や独創性ももちろん大切だとは思うけれど、そうした個性の前提には「いわれたとおりにできる」というのが大前提にあると思うんですね。つまり、頭のいい人は、「こうすればこうなる」とか「なぜこういう考え方をするのだろう」を考えているわけですが、その基本は「どれだけ他人から、見て、学べるのか」にあると思うんです。私は、教育の基礎は最低限、自分以外の他の世界や他の人々から学ぶことだと思っています。日本語の「学ぶ」の語源は「まねぶ(=真似をする)」なんですよ。