短期で成果を求められるサッカークラブのマネジメントスキルは、ビジネス現場でのリーダーシップの参考になることがよくあります。
第7回 サッカーチームに学ぶリーダーシップ
著者:インソースマネジメント研究チーム
1.サッカーでは、ネットセントリック軍団としての連携の強さが、個々のプレーヤーの高い能力に勝ることは珍しくない。
2.リーダーシップ・スタイルは「組織の目的」と「場の特徴」に応じて変化させることも重要。
- ■ネットセントリックなチームビルディング
- 意思決定や活動の「中心」が特定の一点ではなくネットワークそのものにある、つまり「分散構造が中心そのもの」だとする、という一見矛盾した考え方をネットセントリックと呼びます。プレーヤーというノード(結節点、ネットワークに関わる個々人を指す)の間を、パスを有効につないでゴールに結びつけるサッカーチームは「ネットセントリック軍団」と言えます。サッカーでは「ネットセントリック軍団」としての連係が悪いと、個々のプレーヤーの能力が高くとも、個人技では劣るものの全体として良くまとまっているチームに敗れることが珍しくありません。
- ■ネットセントリックが機能するには
- チーム全体では絶対劣位にあり、試合時間の大部分を守りに徹することになっても、一瞬のカウンター攻撃のチャンスを逃さず個々の比較優位を引き出せば、勝機を見出すことも不可能ではありません。個人的にもこのような名試合を幾度も目撃していますが、比較優位の理論を徹底することでジャイアント・キリングも可能となる、それがサッカーの醍醐味です。一般的には監督の指導力やマネジメント力、キャプテンの求心力などに注目が集まりますが、それぞれのプレーヤーが自律的にリーダーシップを発揮する場合も珍しくはありません。
- ■サッカーは自律分散型スポーツ
- 1990年代の不振に苦しんでいたイングランド代表チームを再生させたスウェーデン人のエリクソン監督は、代表史上初の外国人監督でした。ドイツの管理型や英米の権限移譲型とも異なるスウェーデンの放任型マネジメントをチームに持ち込んだ結果、あのベッカムをキャプテンとしたイングランド代表は2000年代に入って再生を遂げます。ちなみに、短期で成果を求められるサッカークラブのマネジメントスキルに、ビジネス現場への示唆を求めた著書は過去にもたくさんあり、このような著書の中には、リーダーシップの参考となるものもあります。
- ■リーダーシップ・スタイルにも柔軟な変化が重要
- プレーヤーとしての実績はない一方で、優勝請負人のカリスマ的リーダーとして称賛されるモウリーニョ監督(現レアル・マドリード)と、FCバルセロナで超一流のプレーヤーとして、更に現役時代から指揮官のように振る舞っていたグアルディオラ監督(現バイエルン・ミュンヘン)。対照的とされる2人に共通する、リーダーとしての10の資質を『モウリーニョvsグアルディオラ』で挙げていますが、カリスマ性などは含まれていません。FCバルセロナでは、クライフやライカールトといった歴代の名監督時代からリーダーシップ・スタイルは固定的なものではなく、チームの特性に合わせ、監督がリーダーシップ・スタイルを変化させてきたとのことです。究極の自律性を発揮する世界最高峰クラブチームを率いるということは、こういうことなのかもしれません。
- ■リーダーシップはチームに従う
- A・チャンドラーが唱えた有名な命題である「組織は戦略に従う」のアンチテーゼとして、I・アンゾフは「戦略は組織に従う」と主張しましたが、サッカーの場合は「リーダーシップはチームに従う」といって良いでしょう。さまざまな型が指摘されるリーダーシップは学問として扱いにくく、絶対的な真理などないとされます。それゆえに「組織の目的」と「場の特徴」に依存して、リーダーシップ・スタイルを変化させることが重要なのかもしれません。こう考えると、リーダーシップは学ぶべき技術であり、人格とはあまり連動させるべきものではないのかも知れません。