銀子の一筆

I have a dream.

灼けるような酷暑かと思えばひんやり激しい風雨、対応しにくい気候が続く。温暖化の進行によって昔から続く四季のありようが崩れているのは、私たち人間が自ら招いたことに違いない。改心しますから、どうか次代に残す地球にこれ以上の天罰は下されませんように。

あれがしたい・これもしたいと頭の中では、長期・短期の計画がある。が高温多湿のせいか・高齢ゆえか・または怠惰な本性か、どうも頭がモッサリして眠いような気分で実行できず、懸案が山積みになっていく。起きて見る夢がスッキリ進捗するように、氷菓で喝を入れよう。

■見果てぬ夢

いつかと思い描く夢と、あってほしい理想はよく似ている。どちらも叶いにくいという点で。
しかも夢や理想は時の流れに応じて変化する。しかし、奇跡とはあり得ない事が実際に起きることを言うように、夢も理想も実現することがない訳ではない。が、むしろ夢や理想に向かって力を尽くすこと自体が、大きな成果・志すべき規範なのかも知れない。

ところが夢や理想を目指すことは、恥ずかし気のないこと・青臭いこと、ダサいこと・普通じゃないこととして、揶揄や嘲笑の標的になることが多い。世の中の不正を正すために旅に出たドン・キホーテのように、見果てぬ夢を見る者は現実から外れた愚か者と扱われることがある。いつの時代も頑張らない者は、頑張る者を笑うのだ。小説ならぬ現実では正義の旅に思い込みで一人出かけては、周囲の迷惑や社会に対する犯罪になりかねない。正しい(と思う)ことを主張するには、正しい方法で行うことが正しい。
何もかも分かった風をして格好をつけ、理想を語る人を蔑視しても自身の価値は上がらず、得るものもない。かなわぬ夢・かけ離れた理想を目指すことから学問も技術も進展の路を拓いてきたのではないか。不可能に見えても、理想を確認する、夢を形にする努力を怠ってはならない。続けることで自分が更新され、ほんの一歩ずつでも現状が改善される。

■正論の意義

考えれば、教育は正論・理想を伝える仕事だと思う。世の中は正論や理想が通用するほど甘くはなく、夢や理想を実現するには困難が多過ぎる。だからこそ本当はどうあるべきか、本筋はどこにあるのかを学ぶ機会が必要なのだ。正論はロジハラ(ロジカル・ハラスメント:正論を振りかざして相手を追い詰める)のための武器ではなく、目指すべき社会の基本の正解だ。研修も同じ必然性から成り立っているのではないだろうか、と縁あって当社の主業務「研修」の本質について不案内なまま入社した私も、少しずつ勉強して理解を深めた。
かつて、広告の仕事をしていた頃、広告とは「既に充分あるにも関わらず、それでも足りていない部分を探す仕事」と教えられた。(知らないことはもちろん)知っていても分かっていないこと、分かっていても身に付いていないことを発見・復習・更新することが重要なのだと思う。学校教育が普遍的な長期視点からの正論なら、研修は今必要な正論なのかも知れない。時とともに変化する社会と「いま」の自分を確認することに研修の意義があると思える。

現代に起きる出来事で、昔から学べることは多い。にもかかわらず災害・疫病や事件・事故など、なぜ昔の事例から学んでいないのか、と問われることも多い。学んでいないのではなく、人間は今を偏重しやすく過去を忘れる恩知らずな生き物なのだ。時に過去の資料を読み直して、改めて正解に気づくことがある。情報だけでなく技術も理論も、過去から学んだ成果なのに。しかし大事なのは、過去の出来事が今日の進歩でどう変わり、それでも不足しているこれからの正論を模索することが社会の基本だともいえる。私たちが思うより人間の持つ力は柔軟で強い。が私たちが思うほど人間は賢くない。くり返し学んで知識をストックするだけでなく、今日の課題をプラスしてはじめて理想へ向けた進歩と言えるのかも知れない。

1963年、アメリカで催された「ワシントン大行進」で、マーティン・ルーサー・キング・Jr. 牧師(アメリカ:牧師、非暴力差別抵抗運動家)は、「I have a dream.」と社会に平等を呼びかける感動的なスピーチを行った。翌年ノーベル平和賞を受賞し、1968年に暗殺された。それから半世紀以上たったが、彼の夢は一歩でも実現に近づいているのだろうか。
私たちは数々の困難があっても、「それでもリンゴの木を植える」と言える夢をもち続けているだろうか。


2024年7月8日 (月) 銀子

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