朝夕は凌ぎやすくなったが、早や10月も近づくのにまだ半袖・アイスクリームが活躍中だ。台風の多発・米の高騰・施策の迷走も続き、台所の季節感がなかなか落ち着かない。産物の量も走りも旬も狂い、Rの付く月は牡蠣がおいしいというのも伝説になるのかも知れない。
季節を読むのも難しいが、日本語を読むのも難しい。最近の人気漫画の主人公が虎杖(いたどり)という姓をもつナイスガイだったことから、思い出した。若い頃、私は長いこと虎杖浜(こじょうはま:北海道白老町 たらこの産地)を「とらつえはま」と読んでいた。山菜として、または漢方薬としても使われる野草になると虎杖は「いたどり」と読む。虎模様の茎が軽くて丈夫なので杖にされたというのが名の由来だ。昔はひらがなカタカナが主体だったが、今どきの漫画は難しい。
■知るチャンス
かつて月刊誌の仕事をしていた頃、元請け会社が編集アシスタントを付けてくれた。大学出の小説家志望のフリーターで、ある伝説的なロックバンドについて散文を原稿にして持ち込んできた。作品の出来は別として、過去のバンドに興味をもつなんて面白いと、スタッフと相談して入ってもらった。ある時、彼が「門司(福岡県北九州市)」に「もんじ」とフリガナを付けたので、「不正確だし、不要」とすると「僕には読めない」と猛烈な抗議をしてきた。場合によるが、原則義務教育で習うことには不要というと、義務教育で習わなかったと言い張る。結局フリガナは外したが、本当に義務教育で習わないのか習うのか、私には今も確信がない。多くの人が読めない言葉なんだろうか、と自問する。それでも、門司(もじ)は知っていてほしかった。読めないことを責めているのではなく、読み書きの仕事をするなら文字や言葉へのアンテナを少し伸ばして、知らないことを知ろうとしてほしかった。
■停滞もチャンス
自分で選んだ仕事でも動機や価値観の差異はもちろん、仕事に対する熱量や感性は個人個人で異なる。まして階層や年齢・立場が違えば、常識・普通・当たり前の基準も変わってくる。職場では多くの中堅社員が自身のキャリアアップのための勉強を進めながら、上層からは組織の中核戦力として、また後輩からは次世代リーダーとして期待されている。仕事の幅が上下左右に広がる中、同時にフォロアーシップ・リーダーシップ・周囲を巻き込む力・コミュニケーション力など、自身の力量に不安・不足を感じて自信を無くす人もいる。例えば、
ある程度分かっているだろうと説明を簡潔にし過ぎて認識にズレが生じた・ルーチンワークの改善案を受け入れてもらえない・なかなか後輩のモチベーションが上がらないなど、誰でも経験したことがあるだろう。こうしたことが続くと馬鹿らしくなり、なるべく余計なことはしないで、自分が頑張ればいいのだ、と気力が削がれて疲れてしまう。
ビジネスパーソンとしては、最も働き甲斐のある時期なのに、もったいないことだ。組織にとっても、中堅の力を活かせなければ閉塞感が生じてしまう。残念なことだ。
この時期を凹まず力まず急がず怠けずに、滞りは常にあること改善策は必ずあると銘じることが、明日を切り拓くことになるのではないだろうか。
■伸びるチャンス
まだ大きな功績もなく経験値も十二分ではないが、真摯に励む中堅を手厚く育てよう。彼らの意見に耳を傾け、修行・教育の機会を与えよう。成長を抑えず急かさないで、のびのび動いてもらおう。そうした組織の親心が、次代を担う成長を実現させるのかも知れない。
中堅社員は、力んで声を嗄らす必要はない。自分ができること・気づいたこと・共に試みたいことを誰かに話して、意見を聞こう。他人からの鼓舞激励には感謝しても、自分のペースは合理的に計画して守ろう。不明・不足なことは自ら教育を望もう。そうした熱意が自身の成長、組織への貢献につながるのかも知れない。
なんて、偉そうなことを言える立場ではないのだが、中堅層の働きぶりは若い人にとっては道標になるだろうし、年長者にも目に見える良い刺激になると思う。中堅の健在は、むしろ周囲の人間の栄養になっているのかも知れない。ありがとうございます。応援しています。
2024年9月30日 (月) 銀子