前回に続き、ネッツトヨタ南国株式会社社長の横田英毅氏が執筆した『会社の目的は利益じゃない』より、人間の欲求充足に対する新しいアプローチをご紹介します。
成功する人材育成へ向けて(2)
著者:インソースマネジメント研究チーム
1.マズローの欲求5段階説を社員満足度調査のアンケート項目に読み替えて実施したところ、生理的欲求や安全欲求といった低次欲求については、経営者に対して要求をしなければ実現できないのに対し、高次欲求である社会的欲求や自我欲求、自己実現欲求の多くは、社員たち自らが努力することによって改善・達成できることがわかった。
- ■人間としての成長と欲求
- ネッツトヨタ南国の横田英毅社長は、社員が仕事をすることで、人間として成長していくためにはどうすればよいかという観点を特に重視した人材育成を心がけておられます。横田社長は従業員の欲求に関するアンケート調査において、心理学者マズロー(A. H. Maslow)の、いわゆる「欲求5段階説」の考え方を援用しようとしました。
- ■人間は多様な欲求をもつ
- マズローの欲求5段階説は、人間の欲求を、「生理的欲求」、「安全欲求」、「社会的欲求」、「自我欲求」(又は「承認欲求」)、「自己実現欲求」の概ね5つに分類した心理学の有名な理論です。
- マズロー以前は、人間の欲求は十把一絡げに扱われてきました。しかし、マズローは、実にさまざまな欲求を人間は持っていることに着目しました。そして、それら多様な欲求は、人間が生物として有している生理的欲求や身の安全を希 求する安全欲求といった「低次元欲求」から、他者との関わり合いや、自己の理想を実現しようとする「高次元欲求」にまで、階層的に分類できることを、初めて示したのです。
- ■成長とともに進化する欲求
- 換言すると、人間は、その成長とともにその欲求が、低次元欲求から高次元欲求へ向けて、この順に「進化」していくことを主張した理論です。このマズローの欲求5段階説を利用したネッツトヨタ南国の社員満足度に関するアンケート調査は、具体的にどのようなもので、そこから何が読み取れたのでしょうか。
- ■欲求5段階説
- そのアンケート調査は、マズローの欲求5段階説におけるそれぞれの欲求段階が、会社の状況や社員生活に当てはめられ、読み替えられているというユニークなものでした。
- 例えば、最も低次の欲求である生理的欲求は「休みが十分にとれている」、第2段階の安全欲求については「清潔で快適な職場である」と読み替えられて います。
- ■高次欲求の読み替え
- 高次欲求についてはどのように読み替えられているでしょうか。
- 「社会的欲求」は「チームワークがよく、助け合う職場である」、「自我欲求」は「結果を明確に評価される」、そして「自己実現欲求」は「自分の仕事を通して、自身の成長を感じることができる」などです。
- これらの各段階の欲求を踏まえたアンケート調査結果から何がわかったのでしょうか。
- ■欲求充足への異なるアプローチ
- 横田社長がこれらの結果をまとめた一覧表をチャートに示し、社員らと話し合おうとしたところ、社員らはあることに気づいたといいます。
- それは、低次欲求である生理的欲求や安全欲求については、経営者に対して要求をしなければ実現できない項目であるのに対し、高次欲求である社会的欲求や自我欲求、自己実現欲求のうち多くの項目については、社員たち自らが努力することによって状況を改善できたり、達成できたりする項目であるということでした。
- 社員たちのこの気づきには、実務に携わっておられる方々ならではの、大変ユニークな側面が含まれています。(続く)