今回は企業理念と利益の最大化の関係と、成果主義の弊害について考察します。
成功する人材育成へ向けて(1)
著者:インソースマネジメント研究チーム
1.これまで企業の目的は利益の最大化だと語られてきたが、社会が便利で豊かになる事業を存続するために利益が必要であり、利益に先立つ理念こそが重要である。
2.成果主義を安直に取り入れると、組織が1つの数値のみを上げようとする組織になってしまう問題が発生し、弊害が多すぎるという落とし穴がある。
- ■企業目的=利益の最大化か?
- 企業で最終的に重要なのは利益です。民間企業であれば、どの企業においても、利益をいかにして出すかという一点に、いかなる問題も帰着することになります。18世紀以来ずっと、企業の目的は「利益の最大化」であり、この目的達成へ向け、企業はさまざまな努力を重ねるのだという命題が、至極当然のように語られてきました。そして、誰もこのことに対し大きな疑いを挟もうとはしませんでした。しかし、本当にこの「企業の目的は利益最大化」は、全く疑う余地もないほどの鉄壁で確実な命題なのでしょうか。
- ■利益に先立つ理念こそが肝要
- 企業はそもそも「何らかの事業を行う」ために存在するはずです。我々の住んでいる社会が便利で豊かになるための事業を世の中に提供し、この事業が存続し続けるために利益が必要なわけであって、そもそも利益の追求が第一義的に重要で、目的であるとする前提は本末転倒です。企業経営者の社会に対する“思い”、理念が重要であるとされるゆえんです。
- ■ネッツトヨタ南国
- 理念の重要性について真剣に考えるきっかけを提供してくれるビジネス書が、最近、発刊されました。ネッツトヨタ南国株式会社社長の横田英毅氏が執筆した『会社の目的は利益じゃない』です。ネッツトヨタ南国は、以前はトヨタビスタ高知という社名で知られ、日本経営品質賞を受賞するなど、よく知られた会社です。この横田社長が著した書物には、読みやすいですが、実に奥深く哲学的で重要な論点が満載です。
- ■成果主義の陥穽
- 横田社長は、いわゆる成果主義的発想法を安直に取り入れることの弊害を、明確に述べておられます。成果主義というのは、簡単にいってしまえば、「社員を1つの数値によって競わせること」です。社員同士を競わせることそれ自体は、特段、悪いことであるとは考えておられません。1つの指標でもって競わせるような仕組みを導入すると、その集団は、その指標の数値のみを上げようとする集団となってしまうことに問題があるのです。また、そのことを通じて、チームワー クは確実に悪化します。
- ■指標以外のことが見えなくなってしまう
- 例えば、同書の中で横田社長は次のように説明しています。「・・・一人で一ヶ月10台以上も販売する敏腕セールススタッフがいたとしても、トータルで見たときにプラスになるか、というとそれは疑問なのです。一人で十数台も販売するとそれだけで仕事が終わってしまい、アフターフォローなど、お客様の満足に繋がるサービスができません。社内的な業務も滞 ってしまうことでしょう。つまり、社員同士で販売台数を競わせると、自分が直接担当しているお客様以外への対応がないがしろになってしまう恐れがあるのです」。
- つまり、トータルでよりよいビジネスの仕組みを考えようとすると、販売成績のみで社員を競わせるのは弊害が多すぎるということです。単純な成果主義の、見落としがちな落とし穴といえるでしょう。