雨ごとに緑が濃くなる公園や街路・民家の庭。どこの家も晴れ間には、窓を開け放ったり干し物に忙しい。とはいえ忍び寄る多湿に脳も心も負け気味な日が続く。梅雨時は温かい物を摂って胃腸を労わるのが良いらしいが、どうしても口が喜ぶ冷たいものに流れてしまう。
この時季、新人や異動新任者などが人間関係や環境変化に順応し切れず、ストレスによって心身に不調をきたすことを俗に「五月病」「六月病」などという。誰でも陥る憂鬱を重症化させずに乗り切るために、何か自身にできることがあるだろうか。個々の状況や性格によって異なるだろうが、治療に至る前に辛さを改善する自分なりの「おまじない」をもっていると少し安心できる気がする。
■笑顔の効用
高校生の頃、実家の近くに同窓同学年だが違うクラスの女の子が住んでいた。彼女は学校で、いつも口元を「への字」に結び、警戒と反抗に満ちた上目遣いのグループに属していた。仲がいい訳ではないが、会えば挨拶するようにしていた。「こんにちは」といっても「う」としか返ってこなかったが。ある時、彼女の家の前を通りかかると、ちょうど庭先に出ていた彼女に呼び止められた。珍しくニコニコして「私、笑うことにしたの。その方が楽しいって分かったから」と言った。(エッ?)私は驚いたが、こぼれるような笑顔の彼女は新鮮で素敵だった。何があったのか、その後どうなったのかは知らないが、彼女の笑顔は覚えている。
母は、私が眉を八の字に寄せたり口角を下げるのを嫌がった。「そんな嫌な顔しないで。まるで嫌なことが起きるのを待っているみたいよ。人間は日の当たる風通しの良い所で、笑って暮らしていれば大丈夫」と、根拠のないことをよく言っていた。 実は、演芸などで笑うことはもちろん、無理やりの作り笑顔でも病人の苦痛が減り、免疫力が高まることは科学的に証明されている。私も嘘でもいいから口角を上げて笑顔でいるように努力している。効果のほどに確証はないが、少なくとも「この悩みは何とかできる問題なのだ」と肩の力を抜いて考えられる。
■丸めて捨てる
許しがたい自分の失敗、取り返しのつかない判断、社会生活や仕事上では笑い話で済まないことが多い。それらを他人はどう受け止めるだろう、自分はどう思われるのだろうと追い詰められることもある。でもよく考えると、評価は自分ではない他人が考えること、当の自分にできることはきちんと反省して素直に改善することだけではないか。必要な睡眠・栄養・休養をしっかりとって、リセットする他はない。 ストレスの中で、最も解決しにくいのは多分人間関係だろう。こちらが受けているストレスは相手にとってもストレスになっているだろうし、上下左右の力関係・過去のいきさつや将来の都合・プライドもある。誰の悪気がなくても、個性の差異で人間関係はこじれやすい。
ストレスのもとになる怒りを鎮めるために有効だという方法が発表された(2024年4月:名古屋大学大学院研究グループ)。「怒りの原因になったできごとを客観的に、感じたことをそのまま感情的に(馬鹿にされた、ムカつく!など、整っていない文章や汚い言葉でも構わずに)紙に書きなぐり、丸めてゴミ箱に捨てる」と、気持ちが鎮まるというもので、科学的に証明されたらしい。「丸めて」「ゴミ箱に捨てる」行為が大事で、紙を保存したりシュレッダーでは効果が半減するそうだ。確かに、書き終われば幾分気持ちが鎮まるのだろう。これなら事実以上に怒りを育てないで済みそうだ。が、翌日職場に戻って再ストレスを受けた場合はどうなるのだろう。訓練によって嫌なことに負けない免疫力が高まるのかも知れない。
いずれにせよ自分の大事な時間を、嫌な人との嫌なことを考えて過ごすのはもったいない。空は青い。自分の時間は自分のために使おう。 ♪何をくよくよ川端柳~(東雲節しののめぶし:明治後期、1900年頃の流行り歌)と口ずさんで、「今だけが世界じゃない。いろんなことがあって、いろんな人がいていい。何のこれしきに捉われ続ける自分ではない」とおまじないを唱えて、切り替えよう。
2024年6月24日 (月) 銀子