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人的資本開示
人的資本開示とは、人材を利益や価値を生み出す資産として捉え、その資産をダイバーシティや組織の保有スキル、ウェルビーイングなど様々な指標で数値化し、開示することです。これまでの人的資源(Human Resource)は、人件費や教育費用を会計単年度の経費(コスト)とみなし、できるだけ効率的に管理される対象でしたが、人的資本はコストではなく、企業が成長する投資の対象として捉える点で大きな違いがあります。
■投資家からの開示要求の高まり
2006年に国連責任投資原則(PRI)が出され、機関投資家に対し、環境・社会・ガバナンス(ESG)において責任ある投資行動を行い、投資先の企業の成長とともに社会貢献を図ることが求められました。その後、2008年のリーマンショックで、財務諸表のみで企業価値を評価することに警鐘が鳴らされ、ESG活動を含む企業の非財務情報への関心が高まりました。このような動きを受けて、人的資本開示のルールや仕組つくりが始まりました。
※2020年の企業価値に占める無形資産割合の調査では、アメリカが企業価値に占める無形資産の割合が90%を占めるのに対し、日本では32%に留まっています。これを踏まえ「知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドラインVer1.0」(2022年)では、日本での知財と合わせた無形資産への投資を増やし、企業価値を向上させようという取り組みの検討が行われています。
■人的資本開示の義務化
非財務情報(無形資産)については、2018年12月に人的資本の情報開示の指標などが定められたISO30414が制定されました。既に、ヨーロッパでは2017年度から従業員500人以上の上場企業に対し、人的資本情報の開示が義務化されており、米国でも、2020年度に上場企業に対して義務化されました。日本でも、2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンスコードに、「人的資本や知的財産への投資等について、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである」ことが示され、早ければ2023年3月期の有価証券報告書から、企業に人的資本情報の開示を義務付ける方針が検討されています。
■人事部門の役割の変化~経営戦略から人材戦略を打ち出す
今後人事部は、経営陣とともに、経営戦略と連動した人材戦略を定め、推進することが求められています。「組織に必要な人材」を考え抜き、その人材を外部から確保するのか、新人・若手を採用して育成するのかなど、組織の人的資本の状態を把握し、今後の経営戦略と合わせて、これまで以上に多様な人材戦略を打っていく必要があります。
■人的資本を社内外に開示して、企業価値を最大化する
ISO30414が示す人的資本の領域は、①ワークフォース可用性、②ダイバーシティ、③リーダーシップ、④後継者計画、⑤採用・異動・離職、⑥スキル・ケイパビリティ、⑦コスト、⑧生産性、⑨組織文化、⑩組織のウェルビーイング ⑪コンプライアンスの11の項目がありますが、今後、これらの非財務情報を社内外に開示することが義務化されます。人材戦略とともに、人的資本の情報を社外に示すことで、自組織が保有するケイパビリティ(組織力・強み)を外部にアピールします。また、社内に開示することで、自組織の人材戦略や、人的資本の在り方、育成課題などが共有され、個人として今後どのようにスキルを高めたり、キャリアを歩んでいく必要があるかが明確になります。
■人的資本管理システムの導入
人的資本の開示にあたって、データ管理を取得することは大変な作業です。組織で多様なシステムを活用している場合、情報を統合管理したり、組織独自の人的資本の項目を設定したりすることも必要となってきます。そうしたデータの設定・分析・評価の運用にはシステム導入が有効です。また、人的資本開示によって顕在化した課題に対する教育にも、LMS(Learning Management System、学習管理システム)と呼ばれるシステムで、学習教材の管理や受講者の成績管理、育成課題の解決に向けての進捗管理などを行うと、人材戦略と連携した運用が可能となります。