日本的経営というと、いわゆる「三種の神器」(終身雇用、年功序列、企業別労働組合)が注目される嫌いがありますが、実はアメリカ企業は、こうした雇用管理の側面のみならず、現場オペレーションのレベルでの日本人従業員の有能性に着眼していました。分業をすればするほど、個々人が作業に慣れ,本来であれば作業効率が高くなっていくはずのところが、分業体制の曖昧な日本企業の方が効率は高く、しかも従業員のモチベーションも高い、これは神秘だ、とアメリカ企業の経営者は感じたのです。
日本的人事システムの先進性(2)
著者:インソースマネジメント研究チーム
1.日本企業は古くから「人的資源管理」的な側面を有していた
2.アメリカ企業の人的資源管理システムは日本企業が弱い「戦略」の側面と人のマネジメント・システムとを融合させている
3.経営学においては、日本とアメリカのマネジメントの制度的枠組みは、将来的には収斂されていくと予想されている
- ■「三種の神器」が日本的経営の神髄ではない!
- アメリカ企業は、日本的経営に関して、「三種の神器」(終身雇用、年功序列、企業別労働組合)といわれる雇用管理の側面のみならず、現場オペレーションの有能性に着眼しました。分業体制の曖昧な日本企業の方が作業効率がよく、従業員のモチベーションも高いと感じたのです。そこで現場組織を精査したところ、個々の動機づけを考え、教育訓練に投資した結果、従業員が経済的契約分以上に働いてくれる状況であることがわかったのです。
- ■移り気なアメリカ企業
- アメリカ企業は、バブルが崩壊し日本企業の業績が下降したとたん、日本的経営という用語を使わなくなったため、「日本的経営ブーム」も一時的な流行に終わった感が強いようです。しかし、90年代に入って新たに出現してきた「人的資源管理パラダイム」には、日本企業が培ってきた、人のマネジメントに関する叡智が織り込まれています。つまり、80年代の日本的経営の成功を、「日本的経営」という用語を使わずに表現したのが、「人的資源管理」パラダイムなのです。
- ■「パラダイム・シフト」論は偽物!?
- つまり、人事労務管理から人的資源管理へという「パラダイム・シフト」はアメリカの視点であって、日本企業はもとから「人的資源管理」的な側面を有していた、アメリカで人的資源管理パラダイムが勃興してきた背後には日本企業への関心があったとみる方が自然なのです。もっとも、アメリカ企業の人的資源管理システムは日本的経営をうまく「アメリカナイズ」しています。日本企業が弱い「戦略」の側面と人のマネジメント・システムとをうまく融合させているのです。
- ■経営の仕組みは1つに収斂するか?
- 経営学の他の領域、例えばカネのマネジメントである財務管理や会計学、モノのマネジメントである生産管理やマーケティング・流通、情報のマネジメントを扱う情報管理などの領域においては、日本とアメリカのマネジメントの制度的枠組みは、将来的には収斂されていくだろうと予想されています。実際、これらの領域では、アメリカ発の理論の何が「ベスト・ソリューション」であり、どうすれば日本企業はアメリカの「合理的な経営」に追いつけるかが探求されてきました。では人事システムではどうなのでしょうか。他の領域と同様、1つのパターンへと収斂していくのでしょうか。次回はそこについて考察します。