以前、人事労務管理から人的資源管理パラダイムへの展開をご紹介したが、皆様はどういった感想をもたれ、どのような点に気づかれただろうか。多くの皆様、特に実務家の方々にとっては、これらの展開のどこがいったい新しいのだろうか、と感じられたのではないだろうか。確かに人的資源管理パラダイムの特徴の多くは、旧来日本企業が行なってきた人事慣行と多くの部分で共通しているのだ。
日本的人事システムは先進的だった! ~経営・マネジメントのコツ
著者:インソースマネジメント研究チーム
1.人的資源管理パラダイムは、アメリカが日本的経営の成功から学んで取り入れた考え方だった!
2.日本は、アメリカの企業経営をならう形で人的資源管理パラダイムを逆輸入したのだと考えられる!
3.旧来の日本的人事システムは、実は先進的だった!
- ■求められるリーダー像
- 環境変化が激しい今日、求められるリーダー像は、調整型リーダーから、組織の方向性を示し組織を先導する変革型リーダーへと変わりつつある。それに伴い、自社に求められるリーダー像を明らかにし、中長期的な視野で計画的に育成していく人事制度を構築する必要性が高まってきた。代表的な例として、リーダー候補を早期に選び帝王学を学ばせる、早期選抜制度と呼ばれる人事制度があるが、今回、早期選抜制度を導入するにあたっての注意点を考察する。
- ■人的資源管理パラダイムは旧来の日本的経営と共通している
- 人的資源管理パラダイムの特徴の多くは、日本企業が高度成長期から「失われた10年」と言われる時代まで長らく行なってきた人事慣行と共通している。1960年代から80年代までの、いわゆる「日本的経営」論が華やかだった頃の日本企業で当たり前に行われてきた人事システムと「新パラダイム」とは大差がない。
- ■先進的な人事システムをもった日本企業
- 多くの日本企業では、企業と従業員との間の関係に、古くから、経済的契約関係を超越した、心理的契約の側面があった。職場学習も日常的に行なわれており、多くの伝統的な日本企業では、長期雇用を前提に、個々の従業員に莫大な教育訓練投資を投じていた。また、分業や個々人の責任範囲が明確な欧米の作業組織に比べ、日本企業では、分業関係が緩やかで、職務拡大や権限委譲などは、常軌的に行われていた。
- ■パラダイムは本当に「変化」したのか?
- とすれば、なぜ「人事労務管理から人的資源管理へ」というキャッチフレーズが、まるでパラダイム転換が生じたかのように叫ばれ、またそのようなパラダイム転換がなされつつあるという認識が定着しているのかだろうか。私は「人的資源管理パラダイムは、アメリカが日本的経営の成功から学び取ったものである」という仮説をもっている。
- ■経営学の"先進国"としてのアメリカ
- 日本企業の経営実践は、グローバル化の進展する中、経営の「先進国」であるアメリカにならう傾向が強くなっている。よって経営学の世界でも、大概のテーマはアメリカの方が最先端を行っており、日本は理論においても実践においてもその後追いである傾向が、少なからずあった。
- ■1980年代以前のアメリカ企業
- そして、この「人事労務管理から人的資源管理へ」というキャッチフレーズも、アメリカの企業経営を念頭に置いて作られたものである。従来、アメリカの経営は、社長が権力を掌握し、トップダウンで経営プロセスが進められていくケースがほとんどだった。業務の権限や賃金水準に関して格差が大きく、仕事においても権限が明確に定められ、与えられた職務の遂行に関しては徹底した個人責任が追及された。よって多くの従業員はやる気を喪失し、現場では作業員のミスが散見される状況が多々見られた。
- ■人的資源管理パラダイムは「新・日本的経営」!?
- 1980年頃までのアメリカ企業が概ねこのような状況であった際、こうした状況を解決しうる有効な経営システムとして注目したのが「日本的経営」なのだ。