今回は、テイラーの「職務はできる限り特化されるべき」という主張を踏まえて、分業の有効性とその限界を考察いたします。
仕事の効率を上げるには ―斜め読みする経営名著:F. W. テイラー(3)―
著者:インソースマネジメント研究チーム
テイラーは、この「職務はできる限り特化されるべき」という考え方を、組織の上下(マネジメント)に対しても適用しようとした。
- ■戦略企画室の元祖
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テイラーによると、作業現場で働く人たちは、一切頭で考えることなく体を動かして作業だけに専念できるようにすべきであり、そのために組織は「計画部」という部署を作り、その計画部に一切の管理的業務を任せるべきだと主張しました。
計画部では、すべての作業員の作業に対して時間研究により課業を決定すること、生産上の計画立案のすべてを担当すること、作業には何が必要であるか分析し、現場では何が不足しているかの情報を常時把握すること、などの機能を果たさなければいけない、とテイラーは指摘しています。計画部は、現代企業でいうと戦略企画室に相当するような部署です。 - ■労働者は考えるべからず!?
- テイラーは、頭を使う人(=命令する人)と体を使う人(=命令に従って作業する人)とを明確に区分し、その人たちの間でもきっちり役割分担をしないといけない、と主張したのです。この点は、労働者から一切の「考える」作業を奪う考え方であり、後年になって大きく批判された点でもあります。
- ■マネジャーの仕事も専門化
- テイラーの基本的発想法は、作業員の職務の特化を最大限に推し進め、一切の余分な要素を排斥して必要な課業のみに専念させることでした。テイラーは、この考え方をマネジメントに対しても適用しようとしました。職能的職長制度と呼ばれる仕組みです。
- ■「万能型マネジャー」は非効率?
- テイラーによると、典型的な工場職長の仕事は、多数のさまざまな機能の複合で、それらは例えばコスト係、準備係、検査係、修理係、手順係、訓練係などの職能に分けることができるといいます。1人で大勢の部下の活動全てに関して指導監督する万能型の職長に代えて、これら各職能に応じ専門分化された職長を設けるべきだと主張したのです。
- ■小学校の教室か中学校・高校の教室か
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こうすると、作業員はひとりの職長の指揮下のみにあるのではなく、各職能の担当職長からそれぞれ指示を受けることになります。テイラー自身は、この方式の採用によって、マネジメントの能率も大きく改善できると考えたのです。
いわば、1人の担任教師が全ての科目を教える小学校のような教育システムと比べ、異なる科目ごとに専門の教師が教える中学校や高等学校の教育システムの方が効果は上がると考えたわけです。 - ■命令一元化の原則と矛盾
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ただ、この職能的職長制度は、いわゆる命令一元性の原則に反しています。それぞれ職能領域は異なるとはいえ、複数の職長から指示を受けなければならない作業員は、不統一で矛盾した指示を与えられた場合には、どちらの職長の支持を優先すべきか困ってしまうでしょう。
この結果、職場全体が混乱に陥ってしまう危惧もあります。実際、こうした混乱が発生しないように、指揮命令系統の統一は、洋の東西を問わず、企業における最重要な組織原則と考えられており、ほとんどの現代企業では職能的職長制度のような仕組みは採用されていません。
次回はこの背後にある、テイラーの基本哲学について触れることにしましょう。