納めの締切・越年の準備など、公私ともに何かと気忙しい時期になった。今年、私たちは成長を覚えただろうか。生き馬の眼を抜く油断ならない日々を、健康で仕事に向かえる事だけでも上々だが、願わくば次年は世の中も自身も、憂を減じて喜を増す成長ができますように。
成長は一律ではない。成長によって現状維持を果たすこともあるし、撤退の選択が転じて別の成長につながることもある。
私は大学在学中から広告の仕事を始め、そのままフリーランスになった。読み書きの仕事がしたかっただけでビジネスのこともよく知らなかったが、一番の不安は営業が苦手なことだった(営業の意味も正しく分かっていなかったのだが)。案の定、騙されたりバカにされたり嫌なこともあった。しかし仕事仲間の緩やかなネットワークがあって、幸運なことに人から人へ紹介が繋がり、まともな営業活動をしないで長い間通せた。当時は高度経済成長期の終盤、まだまだ好景気の名残が続いていて、広告業界も活気に満ちていたお陰で生き残れたのかも知れない。
ドラマではない営業パーソンの実像を間近に見たのは、後年当社に入社した時が初めてだった。彼らの仕事を見聞きしたり商材である「研修」を学ぶたびに、プロの営業力の成果や勉強量に新鮮な驚きを感じた。(ちょっと身贔屓またはバイアスが過ぎるかも知れないが)まるで別世界の人、これでは私が太刀打ちできよう筈もない。気が向いてビジネス書を読んでも、極北に住むイヌイットに冷蔵庫を売った伝説は知っていても、ビジネスの実態に無知な故に、多分怖いもの知らずに仕事を続けられたのだ。
■何が必要なのか
知識だけの傍観者と違って、自信に満ちて現場の仕事を進めているように見える営業パーソンは何を悩むのだろう。研修受講者の声からは、
- ・提案活動不足から成約数・面談数などの結果が出ない事へのプレッシャーが常にある
- ・商談が想定した問答から外れると即答できず、確認の持ち帰りが増える
- ・アドリブに弱く、思わぬ言い間違いがある
- ・顧客、社員、パートナーの名前や顔が瞬時に思い出せない
- ・Web上の会議や打ち合わせが増えると、コミュニケーションが円滑に運びにくい
- ・仕事量が多く、時間の効率的な使い方に悩む
今どう評価されているのかは知らないが、かつてピーター・ファーディナンド・ドラッガー(オーストリア人・経営学者)が著書『現代の経営』の中で、「経営において決定的に重要なものはインテグリティ(誠実)」とするのを読んで感銘を受けたことがあった。
経営者でなくてもビジネスパーソンでなくても営業職でなくても、一個の人間としても決定的に重要なことに思える。どんな立場の人でも相手に対して誠実なことはもちろん、自分に対しても、もし自分が相手の立場だったら「これでいいのか」と問い直す誠実さがあれば、仕事も生活も変わるかも知れない。まず人が喜べば、自分の憂慮も少し減るかも知れない。
2024年12月21日 (金) 銀子