3月17日に春の彼岸入り。古くから「暑さ寒さも彼岸まで」とはよくいったもので、この頃にはどんな年も大体気温が落ちついてくる。
温暖化の影響か、夏が長くなっている近年、桜咲く心地よい春は儚くすぐに過ぎる。デジタル時代ともいうべき現代では、ことさら時の流れが速く過ぎるようだ。
私が使った最初の原稿書きの機器といえば、学生時代の英文タイプライターだった。
仕事を始めたころは、あえて手書きにこだわっていたが、程なくしてワードプロセッサを導入した。正直、手書きの方が早いし、変換は低能力だと感じた。
もどかしい機器に付き合って長く過ごしたが、世の中は次第にPC時代になってきた。
取引先の要望で、渋々、マックやウィンドウズなどPCに移行した。デスクトップは机を一つ占領するほど大きく、重かった時代だ。
始めは、PCなんて不慣れなうえに面倒で、なんだか信用できなかった。
ある時、コンピュータ技術に関する専門的なライターが必要になり、アルバイトとして情報工学専攻の大学院生に来てもらった。
大きな身体で寡黙でシャイ、気弱そうな彼は最初頼りなく見えた。
だが仕事になると、キーボードに覆いかぶさるようにして、1本指打法で最新マニュアルを目にもとまらぬ超高速で書き起こしていくスーパーライターだった。
私はタッチタイピング習得を試みたことがあるが身につかず、コンプレックスになっていた。 彼はそれを「PCはただの道具ですから、オペレータになるんじゃなければ、自分がやりやすい方法でいいんじゃないですか」と軽く言った。
(そうか~ただの道具かぁ)
私はなんだかホッとして、「面倒くさいに決まっている」と思い込んでいたPCに気楽に向き合えるようになった。
確かにビジネスシーンでは、タッチタイピングができたほうがいいのかもしれない。しかし無理やり矯正するより、自分の方法で自由に慣れ親しむ方が大事に思えた。
そしてスーパーライター君は、やっと親しくなったころ、技術系の専門職を得て渡米してしまった。
私は、比較的早めにPCを始めたが、読み書きの仕事に必要なことにしか使っていない。同世代の中では少しはPCのできる人だが、世の中ではPC初級程度。
70歳で求職した面接でも、身の縮む思いで正直に自分のPCスキルが乏しいことを申告し、これで落ちたら仕方ないと覚悟していた。
世の中にPCが深く浸透していることは私にも分かっていた。
が、驚いたことに返ってきた言葉は 「いいんです。辛い思いをして苦手を克服してもらうのは、お互いストレスになります。それより得意分野で貢献してください」だけだった。 新しい考え方に驚嘆するとともに感謝している。
私のPCスキルはいまだに貧しいゆえに、内心今でも気を許せない。
しかし、自転車でも飛行機でもPCでも「最初はだれでも初めて」の経験。
周りに教えてもらいつつ、恐る恐るながら始めてしまえば、いつの間にかPCはすっかり必需品になってしまう。
最近、新社会人のPCスキルが低いことが問題になっていると聞いて、少し考えさせられた。 ゲームやスマホなど電子機器には十分慣れているはずの若い世代がなぜ? もしかしたら慣れているからこそ、全くの初めての気持ちでPCに向き合いにくいのかも知れない。人(PC)見知り?
しかしビジネスではPC主流の時代がまだまだ続きそうだ。
PCスキルは、ビジネスパーソンにとっては必須。
先入観で好きとか嫌いとかいう前に、初めての気持ちで自分の仕事仲間であるPCに向かえば、面白いかもしれない。
思っていたよりも意外に気が合うかもしれない。
そんな頼りになる相棒を頼みの綱に、今この原稿も首尾よく仕上がったのだ。
2020年 3月 18日 (水) 銀子