今回は、人事マネジメントのパラダイムが「人材から人財へ」と転換していった話の続きです。人的資源管理モデルの下では、人事労務管理の時代から、様々な点で、人をみる視点が180度変わってきています。
人事マネジメント(人的資源管理への注目)~マネジメント・経営のコツ
著者:インソースマネジメント研究チーム
1.経営者、従業員間の契約は、心理的側面の意味を持ち始めた
2.従業員は企業の資産として捉えられるようになり、学習と、成長の機会が与えられるようになった
3.集団よりも、ひとりひとりのやる気を引き出すことが重要視されるようになった
- ■「法律上の契約」から「心の契約」へ
- 人事労務管理から、人的資源管理モデルへの変遷に伴い、経営者と従業員間の契約は、経済的な側面以上に心理的側面の重要性が強調されるようになりました。人事労務管理の時代には、従業員は定められた給与水準に応じて労働するという発想でしたが、人的資源管理の下では、契約を締結する当事者間の相互期待が高まることが前提とされ、組織全体としての一体感が高められることが目指されています。
- ■職場学習の重視
- また、人的資源管理の下では,従業員の職場学習が重視されています。人事労務管理の時代には、企業にとって従業員は、もっぱらコスト(人件費)要因として捉えられていました。しかし、人的資源管理の下では、従業員は、教育訓練投資をかけて学習させ成長させることを通じて、企業にとって富をもたらす存在、いわば「競争優位の源泉」であると認識されるようになってきたのです。
- ■集団よりも個々人の動機づけを考慮
- さらに、人的資源管理のモデルでは、組織成員を集団的に取り扱うのではなく、個々人の動機づけを考慮しながら組織目的の達成が目指されています。したがって、人事労務管理の時代にあっては重要であった労使関係的側面、集団的側面は影が薄くなっています。
- ■集団のやる気、個人のやる気
- 「やる気」を表す用語として、「モチベーション」という言葉がよく使われますが、このモチベーションという用語は、実は"個人"を前提とした場合の用語です。反対に、集団の「やる気」のことは「士気」と呼びます。この言葉は、軍隊のような集団が任務を遂行する際に重要となる、兵士の心理的積極性や根性を指して使われることが多かったのですが、今やほとんど聞かれなくなりました。集団単位ではなく個々人の動機付けの方が、人のマネジメントの世界でも重要視されるようになってきたのです。
- ■後追い的な業務から主体的な業務へ
- このことは、人的資源管理が、能動的・主体的な戦略的管理活動の中心にくるべきマネジメントとして位置づけられるようになったことを意味しています。人事労務管理の時代においては、従業員の給与計算等の定常業務や、労使紛争が発生した場合の紛争処理のような、何か問題が発生した際に対処するような受け身的な活動をする部署が人事部であると考えられていたのです。
- ■全社の牽引役としての人事部
- 人事部は、後追い的な火消し活動を超えて能動的・主体的に動かなければならないようになってきています。今日では、企業の経営戦略における人事関連のトピックスが占める比重が大きくなり、いわば人事部が会社を引っ張るようになってきたのです。