経営理念が組織に与える影響について考察します。
経営理念の重要性(2)
著者:インソースマネジメント研究チーム
1.数値的利益という単一指標で測定できないNPOの経営は、民間企業よりも複雑で、まずは理念や目的の慎重な吟味から始めなければならない。
2.民間企業は、その利益指標に加え、企業の理念や目的がしっかりしていて、それが成員に共有されていると、利益の意味も明確になり、より強い組織にすることができる。
- ■そもそもの理念が重要
- 利益という明確な数値的目標がない広義の非営利組織(NPO)では,何をおいても理念が重要です。この組織ではいったい何を目的として,あるいは何を成果と規定して,成員が一致団結して協働しているのか・・・こうしたそもそもの理念や目的に立ち返って考えることが肝要です。
- ■大学もNPOで理念が重要
- 大学も広義のNPOです。大学の目的は営利の追求ではなく,学生の教育と,研究による社会貢献,ひいては人類の発展に長期的に寄与することです。 したがって,大学でもその理念や目的が重要になってきます。教育の理念は,大学生に知識や思考の仕方を身につけさせ,一個の社会人として育成することが目的となっていることは,多くの成員に共有されていてまだ明確です。問題は研究の方です。
- ■研究の定義
- 大学での「研究」の理念・目的は必ずしも全成員に共有されていません。ある研究者は,目に見える業績をこつこつ上げることが目的だと考え,しかも業績は査読雑誌(レフェリー・ジャーナル),それも国際的に名高いジャーナルに,いかに多数の論文を掲載するかであるかと考え,そうしたジャーナルへの投稿・掲載こそが目的であると捉えます。
- 逆に,特に経営学のような社会とのコミュニケーションが相対的に高い領域においては,アカデミックな査読雑誌よりも企業での実態をいかに如実に捉え,それをわかりやすく(例えばビジネス書のような形で)伝えるかの方が重要だと考える研究者も,一部には居ます。
- ■多様な成果指標
- 研究の方法も,古典的な学説研究や歴史研究,会社社長や役員へのインタビュー調査,アンケート調査に基づく統計学的アプローチなど,種々様々です。・・・要するに,何をどのようにやれば「研究した」といえるかの定義が曖昧で,単一の成果指標が存在しないのです。
- ですから,筆者の勤務大学に社会人教員として企業から赴任されてきた先生の中には,「企業と違って,大学という組織は何が目的で,自分に何が期待されているのかがよくわからないから困る」とこぼしておられる先生も居られました。数値的利益という単一指標で測定できないNPOの経営は,民間企業よりも複雑で,まずは理念や目的の慎重な吟味から始めないといけないのです。
- ■民間企業での理念の意味
- しかし,この点を裏返して別の視点から見てみることもできます。利益という明確な指標がある民間企業ですが,その利益指標に加え,企業の理念や目的がしっかりしていて,それが成員に共有されていると,利益の意味も明確になり,より強い組織にすることができるのです。
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経営戦略の策定に際し,本来であれば,当社の経営理念にさかのぼってそこから戦略を導出するようにするのが筋ですが,昨今ではなかなかそこまで本質に立ち返って議論している企業は少なくなってきています。
企業不祥事の多発が問題視され,ガバナンス改革やCSRの重要性が叫ばれ始めて久しいですが,不祥事を起こしている多くの企業は,経営理念がないか,あっても形骸化してしまっている企業が大半です。 - ■企業目的は利益それ自体にあらず!
- 伝統的な経済学や経営学の常識では,企業目的は利益追求であるとされ,そこには何ら疑う余地はないかのように議論されています。しかし,そもそも,その企業は何を事業とし,何のために存在する組織であるのかを見つめ直すところから再検討が必要になっているように,筆者は感じています。 「企業の目的=利益の追求」という大命題にも異論を差し挟む余地が残されているということです。