いよいよ春も長けて、街に花や緑があふれてきた。石のベンチに腰掛ける気になるほど暖かい。ついこの間は、ビル街のイベント用の石の広場に子供が座り込んでいた。何かを訴えていたが、少しの間放っておけるほどの陽気のせいか、周囲も両親も笑って見ていた。
情報機器の進展で少なくなったようだが、街で主張やアピールのためのデモを見かけることがある。何かあると大使館や省庁などの施設の前に人が集まり、抗議や異議を訴えていることもある。混雑や騒音を多少煩わしく感じることもあるが、個人の考えが力によって排除・抹殺されずに、誰でも自分の意見を言える時代・環境は健全なことだと思う。
■垣根を越える
日本は縦社会といわれて久しいが、飛鳥時代「大化改新(645年)」の政策の一つ「鐘櫃の制(かねひつのせい:庶民が政府に対して要望などを投書できる制度)」はじめ、江戸時代徳川吉宗の「目安箱(1721年:めやすばこ)」などにより、庶民の声が上に全く届かなかったわけではない。が、あくまでもトップダウンの世の中で、民に意見を発する機会を与える温情的施策だった。
世の中がまだシンプルで、仕事が縱構造で運んでいた時代があった。(もちろんその方式で今も成長している組織もあるが)しかし現代では、市場・科学技術・グローバルビジネス・ダイバーシティなどの高速な進展により、多くの組織が縦方向の仕事だけでは成長が難しくなっている。規模の大小に関わらず縦横・内外の仕切りを超えた集団で、同じ目的のために期間限定で協働するプロジェクトが、継続的に新鮮さを保つ経営・運営に不可欠といってもいいのかもしれない。
■一つの目的に集中
プロジェクトは各部署の適任者または外部の協力者も加えたメンバーが、上下や優劣の縦の関係ではなく招集されプロジェクトチームができる。チームにはミッション全体を総合的に管理するプロジェクトマネージャー、ゴールまでに必要な各タスクの執行を管理するプロジェクトリーダーがいる。明確な目的のために期限を決めて複数の人材と協働することは刺激的でやりがいのある仕事だが、一方マネージャーやリーダーには相当量のストレスがかかる。
進捗管理だけでもプレッシャーがある。普段あまりつながりのないメンバーと円滑なコミュニケーションがとりにくい。プロジェクトの指針にズレが生じるとスケジュールに響きやすい。メンバー間に政治的な意図が絡み対立的になる。非協力的な部署またはメンバーがいてチームをまとめにくい。さまざまな不都合が重なれば、すぐにスケジュールはタイトになり協議・検討の質が低下して悪循環が始まる。
■手ごわい仕事
プロジェクトの失敗に直結するこれらのマイナス要因を改善して、チームの結束を高め、ヒト・モノ・コスト・タイムを管理して、リスクを最小限にするのがマネージャーの仕事になる。何事もコミュニケーションが基本、といっても実はそれが最も難しいようだ。
それぞれのキャリアの自負もプライドもあるメンバーを一つにまとめていくために、具体的な指示を発しながらも個々に任せ、それでもなお丁寧な説明と慎重な扱いに心掛けて心理的安全性を確保する必要がある。上下関係がないだけに権限による統制ではなく、納得による行動が求められるからだ。
チーム全体としては、メンバーの人選・役割のバランスを考え、プロジェクトの明確な目的・スケジュール・ゴール・ルールを周知共有してチームビルディング、各自の状況を把握し課題を見つけフィードバックから改善の進行など、仕事は山積する。なんとも手ごわい。
ガントチャートの作成からゴールまでマネージャーが負う責任が重い分だけ、今ここの踏ん張りを過ぎれば、成果を得た充実感・力を絞った達成感が待っている。多くのビジネスパーソンにとってプロジェクトマネージャーの任務は、多分、組織への貢献以上に自身の成長に大きな効果があるのだろう。
プロジェクトの運営というと課題はメンバーに集中しやすいが、本当はチームの成否を左右するマネージャーにこそ、アサーティブコミュニケーションやレジリエンスなどのキメ細かい訓練の必要があるのではないかと思う。階層の上下ではない有期限の役目とはいえ、矢面に立って頑張るマネージャーに、心から敬意と感謝を表したい。
2024年4月17日 (水) 銀子