コロナ禍による危機的状況は、困難を乗り越えるために組織を力強く牽引するリーダーの存在が不可欠であることを改めて私たちに認識させました。そして緊急対応を要する期間が終了したとしても、一変した世界でのサバイバルはこれからも続きます。本ページでは、アフターコロナ時代においてリーダーに求められる資質・能力を整理し、「強いリーダー」を育むための教育方法をお伝えいたします。
本内容は、インソースENERGY FORUM 2021「アフターコロナに活躍する強いリーダーとは」の内容を書き起こしたものです。ENERGY FORUM 2021にご参加いただけなかった方や、もう一度じっくり振り返りたい方はぜひ、本記事をご活用ください。
コロナ禍で活躍したリーダーの特徴とは
(1)なぜ女性リーダーが非常時に活躍したのか
この度の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対処において、その手腕が高く評価された国の多くが、女性をリーダーにいただく国であったことが様々なメディアで話題となりました。例えば、ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相、台湾の蔡英文総統、ドイツのアンゲラ・メルケル首相です。それぞれが取ってきた政策には違いがある一方で、彼女たちに共通してみられた"特徴的な行動"というものがあったように思われます。
①「迷いのない優先順位」にもとづく早い決断
危機に際しては、リーダーによる速やかな決断と実行がことのほか重要だと言われます。しかし、一方を守るための判断が、他方に少なからぬ不利益を与える場合など、その判断を躊躇なく行うことは決して容易ではありません。特に、起こるか起こらないかがまだ不確実な段階において、原理原則に基づいて安全優先で先手を打ち、大胆に決断を下すことは、どうも多くのリーダーには不得手に見受けられます。
片や、上記の女性リーダーたちは、様々な不利益があることを承知の上で、今やるべきことの優先順位に揺るぎのない自信を持って決断を下し、それを迷いなく実行に移した結果、感染の拡大を早期に抑え込むことができたといえるでしょう。
②頼るべきことには頼る「懐の深さ」と決定の責任を負う「潔さ」
自国のリーダーが公衆衛生の専門家であるケースなど滅多にないことから、当然ながらどの国のリーダーも専門家の力を借りてコロナ禍に対処していく必要があります。しかし、この専門家に対する姿勢においても、女性リーダーたちには特徴的な共通点があったように思います。それは、真摯に専門家の意見に耳を傾け、その専門的な見解を根拠として提示しつつ、対策を自身の責任のもとで行っていく、というものです。
これは、都合のいいことだけに専門家の見解を利用したり、対策が機能しなかった場合の批判をかわすために、予防線を張って「専門家の意見に従って」と口にしたりすることとは全く性質の異なるものです。
③共感性をもって語りかけるコミュニケーション力
危機を乗り切るためには、不自由やつらい思いを伴う施策を国民に甘んじて受け入れてもらう必要があります。そのためには、なぜそれが必要なのかをきちんと理詰めで説明することはもちろん重要ですが、その語り掛ける際の姿勢も同様に大事です。このとき、多くのリーダーは「できるだけ批判を受けないように」話す傾向が強いように思います。
そのため、慎重になりすぎて言葉足らずになったり、言い訳じみた発言に終始したりしがちです。一方、これらの女性リーダーたちの話す姿には、国民との共感性に重きを置き、一緒に痛みを分かち合おうとする姿勢が強く印象に残ります。時には一生活者としてのプライベートな姿も垣間見せることにより、対峙する関係ではなく、一緒に乗り切ろうとする仲間としての立ち位置を示しています。
(2)何かに拘泥することが非常時には命取りになる
原理原則に則り、優先すべき事項を優先して判断し、行動することは、ある意味で最もシンプルな意思決定の方法です。このシンプルな意思決定を難しくしているのは、こだわるべきでないことにこだわってしまう、やや後ろめたさを伴った囚われごとが、意思決定者の脳裏に巣食っているからではないでしょうか。
「平時」と「非常時」とでは、とるべき行動が異なる
(1)「非常時」に求められる判断と行動
ここで、「平時」と「非常時」の違いについて、少し整理をしてみたいと思います。平時というのは文字通り、平常の環境下にあるときのことであり、ある程度予測された状況を前提に、計画的に物事を進めていくことができます。
一方、非常時とは、常ならぬときのことであり、刻々と変わる予測しがたい状況下で、瞬時にものごとを判断し、実行していくことが求められます。平時とくらべて非常時の打ち手には「不発」のものが増えるのは当然であり、上手くいかないと分かったら速やかに別の施策に切り替えるスピーディさが重要になります。また、平時には有効な「合議制」や「前例踏襲」も、非常時には足を引っ張る要素となりがちです。むしろ、リーダーの責任のもと、即断即決で物事を進めていける体制が良いでしょう。
(2)非常時に強い戦闘機型組織
では、こうした非常時における意思決定が機能しやすい組織とは具体的にどのようなものでしょうか。理想を言えば、トップが危機の状況をいち早くつかんだ上で適切な判断を下し、号令一下、全員を等しく正しい方向に向かって動かしていくことがベストでしょう。しかし、ここまで見てきたように、非常時の状況変化は予測不可能であり、瞬時に方針を変えて行動することが求められる中で、トップまで情報を上げ、またその判断を末端までに降ろすというやり方では時間がかかりすぎてしまいます。
そこで、現場リーダーにある程度の裁量権を与え、現場で判断し行動する体制にすることで、速やかな対応が実現できるようになります。もちろん、全ての現場リーダーが間違いのない判断と実行ができるわけではありませんが、意思決定が遅れることによって組織全体が全滅してしまうよりはリスクが軽減できます。いうならば、深い階層で構成された「戦艦型組織体制」よりも、フラットな「戦闘機型組織体制」の方が、機動的な動きができるのと似ているといえるでしょう。
3段階に分けられる「危機対応」
危機対応というと、今まさに危機に晒されている緊急時の対応に目が行きがちですが、本当に危機が収束して平時が訪れるまでには、何段階かの危機対応期間を経る必要があります。この段階を、「危機の最中」、「危機の直後」、「危機後の新たな未来」の大きく3つに区切って考えてみたいと思います。
(1)「危機の最中」に最優先で行うべきこと ~止血
「危機の最中」とは、今、まさに危機が発生し、一刻も早く危険な状態を回避しなければならないという状況を指します。病院でいえば、けが人が傷口から血を流している状態で運び込まれてきた状況であり、このときに何よりも先に行わなければならない処置は「止血」です。一刻も早く血を止めなければ命が危ないというときに、「来ている服が汚れないように」とか、「あまり強く縛ると患者が痛がるといけないから」といった、的外れなことに気を取られていては、救える命も救えません。
この段階における重要なポイントは、事態の優先度を考え、何かを冷静に判断することです。また、周りに注意喚起を行うにあたっては、状況を冷静に捉えたうえで必要な措置を毅然とした態度で求めることが大事です。同じ注意喚起を行う場合でも、状況に圧倒されて冷静さを失い、必要以上に騒ぎ立ててしまうようでは、状況をより悪くしてしまうことになりかねません。
(2)「危機の直後」に求められる立て直し ~治療
「危機の最中」における行動というのは、いわばアドレナリンが噴出した状態で行っているようなものですから、一旦、危機的状況が終息を見たら、次の段階に向けて意識的にクールダウンする必要があります。次にやって来る「危機の直後」の段階においては、壊れた日常を再び取り取り戻すことがテーマとなります。このときに必要なのは、冷徹な視点で現実を捉え、立て直しまでの最短経路を描いたうえで、それを淡々と進めていくことです。病院で施される「治療」も、必要なステップを踏んで進めていくことが、快復というゴールに至るためには不可欠であり、焦ってことを急ぐと再び危険な状態に陥りかねず、かといってもたもたしていると、快復する前に体力が弱っていってしまいます。
また、もう一つ大事なのは、回復後に前と同じ水準に戻るだろうとは思わないことです。大きなけがや病気をした後は、快復してもそれ以前と全く同じ状態になることが難しいように、事業においても「戻って8割」の前提での復興計画を立てる必要があります。特に人員の再投入にあたっては、もともと携わっていた人を全て戻してしまうと過剰になる可能性があります。8割の規模にしか戻らなくても、収益が確保できるような計算で人員計画を立てる必要があります。
(3)「危機後の新たな未来」に向けたゼロベースでの発想 ~体質改善
しかし、既存事業が8割にしか戻らないのであれば、このまま事業規模を縮小していくしかないのでしょうか。大怪我や大病の後は、いきなり以前と全く同じ生活に戻すことは難しいかもしれません。しかし、そこから「体質改善」をはかることによって、中長期的にこの先の生活をより良いものにしていくことは可能です。事業においても、既存の事業は8割まで回復すれば良しとして、残りは新たな事業によって穴埋めをしていくことを考えるのが現実的でしょう。
この段階は「危機後の新たな未来」として位置付けられますが、実はこの時期は、新規事業を起こす上では二つの意味でチャンスともいえるのです。まず、危機を経た後の世界は事業環境が一変しており、様々な新たなビジネスが生まれやすい状態にあると言えます。また、すでに成熟していた市場においても、苦境に陥って退出する企業もいるため、新規参入者が入り込みやすい状況も生まれます。このように、見方によっては危機の直後というのは、新たな事業を始めるまたとないチャンスとも言えるのです。
そしてもう一つの理由は、既存事業を8割の回復と見込んで省力化した結果生まれた余剰人材を活用できるということです。本来であれば、新規事業開発には新たな人材の調達が必要となるところを、既存の社内人材だけでスタートすることもできるのです。
危機対応に求められる3つのリーダーシップ
前章のように、危機対応を3つの段階に区切って捉えてみると、それぞれの段階で求められるリーダーのあるべき姿というものは、異なるものであることが分かります。そして、それぞれの段階において求められるリーダーのタイプを具体的に要件化することで、実際にどの段階の危機対応を誰に任せるべきかの判断に役立てることができます。
(1)「危機の最中」におけるリーダーシップ
刻々と状況が変わる「危機の最中」においてリーダーには、情報に対する「高い感度」と、その情報からリスクを「イメージする力」が求められます。そして、そこから必要な「判断を導き出す力」と、それを「実行に移す力」も必要となります。また、これらを遂行するにあたっては、批判的な意見を持つ人も含めて、相手を説得する「コミュニケーション力」が欠かせません。そして、何よりも大切なのが、危機と恐怖を切り分けて捉えることで、冷静な判断を下すための「精神的なタフさ」なのです。
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(2)「危機の直後」におけるリーダーシップ
では、「危機の直後」における、事業の立て直し期においてリーダーに求められる力とはどのようなものでしょうか。まず、危機の後の混乱した状況下において、現状を「事実ベースで正しく捉える力」が重要となります。そして、そこから立て直しに向けて有効な策を「理詰めで組み立てていく力」が再建計画の策定には欠かせません。
こうした力は、じつは通常期における計画策定やその遂行において求められるマネジメントスキルと基本的には同じです。ただし、「危機の直後」という状況下では、誰もが状況を過大に捉えて動揺しやすく、ややもすると拙速な判断をしかねません。この段階におけるリーダーには、通常期以上に「冷徹にものごとを見極める力」が必要になると言えるでしょう。
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また、前述のとおり、危機後に事業活動を戻す際は、以前よりも「少ないリソースで再開すること(8割)」、すべてを一度に戻そうとせず「優先順位をつけて取り組むこと」が重要です。戻す過程の中で、全体の仕事を見つめ直し、ムダを排除していく機会とします。
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(3)「危機後の新たな未来」におけるリーダーシップ
「危機の最中」や「危機の直後」と比べると、「危機後の新たな未来」におけるリーダーのあり方は、やや異質といえるかもしれません。前者の2つの段階が、いわば「守り」にベクトルを向けたものが中心なのに対し、この段階においては、「攻め」あるいは「拡張」にベクトルを向けたものとなるからです。
ここでリーダーに求められるのは、変化した世界を「大局的に捉える力」と、そこから未来の新しい世界を「イメージする力」です。また、それを実現するためには、自分自身の思いを主観的に語ることで「感化していく力」が欠かせません。そして、それを実行するにあたっては、実際に動いてもらうための「周りを巻き込む力」が求められます。
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この度の新型コロナウイルスの流行や自然災害のような大規模な危機だけに限らず、企業活動を続けている中では、大なり小なりの危機はこれからも必ず訪れます。そうした危機に直面した際に、適切な対処ができるリーダーを育成することは、企業存続のためには必要不可欠であり、また、「危機後の新たな未来」において、事業の再構築に力を発揮できるリーダーは、企業が成長する上で貴重な人材となることは間違いありません。この機会をチャンスと捉え、あらためて強いリーダーの育成計画を考えてみませんか。
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