花壇が色鮮やかになり一見春も盛りだが、時に震える寒さが襲う。油断できない日々が続く街で、新生活の買い物に迷っている若者が初々しい。暖かで穏やかな日々のすぐ向こうには厳しい気候が控えているが、自分の暮らしを自分でつくり環境変化に耐える気力を養おう。
先輩の母上が髪の手入れを怠らないという話を聞いて、わが身を反省し間遠くなっていた美容院に行った。
「顔の周りに白髪が集中するのはなぜかしら」と美容院の担当者に聞くと「そういう人が多いです。シルバーバックなのかも知れないと僕は密かに思っているんですけどね」と言った。
シルバーバックとは、成熟したオスのゴリラの背中の体毛が銀白色になることをいう。ゴリラ社会では、性質が温和で冷静・子育ても上手・自分の群れを統率して外敵から守る理想のリーダーの象徴とされているらしい。猿のリーダーは腕力で選ばれるが、ゴリラのリーダーは柔和な愛嬌で選ばれるという。
「人間も動物だから、自分が年長であることを示す名残だとしてもおかしくないですよね」と彼は続けた。(あははは、そうですね)ふ~む面白い。ゴリラの遺伝子の約98%は人間と同じだというし、喜怒哀楽の表情があるのも親しみが湧く。私はゴリラと同じ血液型だし、なるほど白髪を隠さなくなって、電車で席を譲られることが多くなった気がする。(白髪だけではなく、足腰がヨタヨタしているのだろうが)
■近づくな!危険
ゴリラの表情は比較的分かりやすいが、野生動物の多くは表情を読めないことが多い。丸々した体形が可愛いと人気があるコアラやパンダは、よく見ると結構険悪な目をしている。ウナギより淡白なアナゴはよく見ると獰猛な顔立ちだし、ウツボは思ったより長閑な印象だ。第一印象だけで動物に近づくと危険な場合もある。
昔、鳥取砂丘に行った。観光客を乗せるためのラクダがいて、行列ができていた。私は次の仕事があったので乗れなかったが、優しい瞳・長いまつ毛のラクダが魅力的だったので、一緒に写真を撮ってもらった。「ラクダの後ろに立ってはいけない」という係員の注意に従って安全な位置でカメラに納まったのだが、私が離れる寸前にラクダが体の向きをかえ彼の後側になってしまった。と思うよりも早く「痛っ」、蹴られて転げてしまった。彼にすればホンの軽い蹴りだったのだろう、何事も無かったかのような穏やかで優しい表情だったが、私は信じていたのに裏切られて傷ついた。やっぱり、第一印象で判断してはいけないのだ。
■印象は不確実だが
人間も同じだ。知的で繊細そうな印象の悪人もいるし、乱暴そうに見える善人もいる。他人から労わられる弱い立場の人がいい人だとは限らない。他人を労わる立場の人が悪い人の場合も少なくない。人間の中身と外見は何の関係もないのか、あるのか。人相は生き方を表すのではないのか。そういえば10年ほど前、いつも笑顔を絶やさない華やかな知人を偶然街で見かけたが、声をかけるのが憚られるほど険悪な表情だったことがあった。
動物界脊椎動物門哺乳綱霊長目ヒト科ヒト属ヒトは分からないことだらけだ。生身だけではなく、そこに教育・環境、性格・能力・意志や健康・貧富・他者など多くの関わりが影響するのだろう。自分で統制できない偶然や必然によって人格も外見もつくられるなら、人間であることを享受しながらも、人間であることを恐ろしく感じる。いくら虚勢を張っても優劣を競っても、皆平等にVUCAな人間なのだ。
私たちの社会生活、特にビジネスでは第一印象は大きな課題だ。新人でも管理職でも感じがいいか悪いかで、その後の人間関係を大きく左右されることが多い。もちろん印象は良くも悪くも変わり得るのだが、ビジネスの初対面で嫌がられては話が進まない。もって生まれた性格や外見は簡単に変えられないが、せめて清潔で誠実な印象になるよう心掛けたい。小賢しいマウントをとるよりも、笑顔を少しの愛嬌として人と接したいと思う。
2024年3月4日 (月) 銀子