相手と冷静な話ができる段階に入ってからは、クレーム対応の中心は「交渉」へと移ります。「交渉」とは、与えられた条件の下で双方の妥協点を見つける「合理性の高い」作業であると同時に、相手の心情を読み取りながら対応方法を考えるような「心理的攻防」の場でもあります。
■相手のメリットを軸に交渉する~功利的説得
「お客さまにとって、××というメリットがございますので、○○されることをお勧めいたします。」
相手側の立場に立ってそのメリットを明示する方法。相手自身が納得した上で合意に至りやすく、クレーム交渉に限らず、あらゆる交渉の王道ともいえる手法です。
<ポイント>
・勧めるだけで強制しない(押しつけると反発を買い、説得できなくなる)
・双方にメリットのある結論に至りやすく、また幅広く使えるので、まず最初に検討すべき
・論点が明確になるので、合意後のアクションもスムーズになる
(1)「価値」
相手が、こちらの提供する製品やサービスに対して高い期待を持っている場合には、その「価値」が損なわれないこと、場合によっては向上させられることを前面に押し出して伝えます。
(例)「リリースは3カ月先に伸びてしまいますが、このプログラム修正を施すことによって、当初の仕様のものよりも飛躍的に操作性が高まります。長く使うことを考えますと、むしろ問題が見つかって良かったと言えるかもしれません」
(2)「コストダウン」
ビジネスにおいて、コストが下がることを好まないお客さまはいません。ただし、コスト面でのメリットだけを強調することは、クレーム交渉の場では逆に信頼を損なう恐れもあります。必ず、「品質や効果を維持しつつ」という前提で、コストメリットを伝えます。
(3)「安心」
「安心感」や「品質の確かさ」を重視する相手にとって、クレームが起きたことそのものがすでに大きなデメリットとなっています。そこから信頼を回復するためには、抜本的な対策を講じることで理解を求め、再び同じ問題を起こした場合には損害を補償するくらいの覚悟で臨まなければ難しいでしょう。
■ルールの遵守を軸に交渉する ~規範的説得
(1)ルールに照らし合わせて説得する
「契約書の細則に従えば、今回のケースでは当社が責任を負うことは困難でございます。」
契約書のように、両者で合意した"従うべきもの"が存在するのであれば、それに照らし合わせて合意点を導き出すことができます。また、法律や、社会通念、社会常識といった、第三者的な視点から見て「守るべきもの」と判断されるものを基準にするのも有効です。
(2)功利的説得と組み合わせが効果的
たとえ、問題に対する責任が自社にない旨を契約書に明記されていたとしても、クレームをあげてきた相手が自社に不満を覚えていることは事実です。ルール上の責任の所在は双方で確認しつつ、お客さまにとってどのような解決策が望ましいのかを一緒に考えることが重要です。
(例)今回問題となった機能の実装については、契約に照らして判断すればスコープ外の作業となります。ただ、必要な機能であることは間違いありません。別の業者が一からつくり上げるよりも、弊社が一緒につくったほうが効率も良いはずです。結果的にご迷惑をおかけすることになったお詫びも含め、格安でその機能の追加作業を承らせていただければと思います。
☆次回もお楽しみに!