【斜め読みする経営名著:F. W. テイラー】
斜め読みする経営名著:F. W. テイラー 【1】
◇上林 憲雄氏(Norio Kambayashi)◇
英国ウォーリック大学経営大学院ドクタープログラム修了後、2005年神戸大学大学院経営学研究科教授、経営学博士。専攻は人的資源管理、経営組織。
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■歴史の浅い経営学
「経営学」は学問の中では比較的歴史の浅い学問領域です。まだ発祥してから100年少ししか経っていません。経営学と最も関係が深いといわれる隣接の「経済学」は,アダム・スミスの『国富論』以来300年以上の歴史と伝統をもっていますから,経営学はまだまだ新興の若い学問であるといえます。
■経営学で最も重要な人物
そのように歴史の浅い経営学ですが,その100有余年の歴史の中で最も重要な人物を1人上げよと言われれば,私ならそれはF. W. Taylor(テイラー)であると答えます。テイラーは,もともと実務家です(作業現場で技師をしていました)が,同時に経営学という学問の産みの親で,経営学の歴史はテイラーとともに始まったといわれています。
■マネジメントに"科学"を導入
経営学説史上,テイラーが果たした役割は,「科学的管理」というマネジメント手法を編み出したことであるといわれています。テイラーが現れるまでは,作業現場でのマネジメントは,経営者の経験や勘,コツといった極めて主観的な手法に委ねられていたのですが,そこに「科学的」なものの見方を導入し,マネジメントをより客観的・相対化しようとしたのがテイラーだったのです。
少し角度を変えていうなら,Aという対応をすれば,必ず(誰がやっても)Bという同じ結果が得られる(即ち,予測可能になる)ように,条件と結果の対応関係を明確化しようと,テイラーは試みたのです。
■効率的な体の動きの研究
テイラーがまず取り組んだのは,作業員の作業効率を上げるために,体の効率的な動かし方について調査することでした。このための調査方法がユニークです。テイラーは,作業現場でいちばん優秀な労働者を1人選びだし,その有能な労働者がどのように体を動かしているか,つぶさに観察しようとしました。
例えば,「手を動かして金槌で釘を打つ」という作業を考えてみましょう。釘をどのように持ち,金槌はどの辺りを握り,どの程度の力で,どこまで振り上げて下ろしているか,しかも1つ1つの動作に,最も有能な労働者が何秒かかっているか,ストップウォッチで実際に計測しようとしたのです。釘を持つまでに何秒,金槌を振りかざすのに何秒,一回打ちつけるのに何秒で,それを何回
繰り返せばよいか,という按配にです。
このように,テイラーは,一流作業員の一連の作業での動きを,1つ1つの個々の動作(要素作業)へと分解し,それぞれを緻密に計測することで,作業を最短の時間で無駄なく効率的に仕上げるにはどうすればよいかを探究しようとしたのでした。テイラーによるこうした調査は,「時間-動作研究」(time-motion study)と呼ばれます。
■現代の人事管理でも考え方は通用
こうしたテイラーの時間-動作研究は,100年以上も前に編み出された手法ですが,実は現代企業においても,人事管理上,極めて似通った考え方があることに気づかされるでしょう。それは,「いちばん優秀な作業員を選び出して,その人の動きをつぶさに観察する」という点において,です。
実はこの時間-動作研究は,現代の人事管理上,評価ツールとして一部企業に導入されている「コンピテンシー評価」と通底する考え方です。コンピテンシー評価は,皆さんご存じの通り,職場で最高の業績を上げている従業員の行動特性を分析し,その行動特性をきっちりとモデル化(客観化)して評価基準を作成して職場全体に拡げようとするものですから,その基本的発想法はテイラーの時間-動作研究と非常に似通っています。
異なる点は,科学的管理では現場作業員が対象で,作業時間が短いほどよいと考えられていたのに対し,コンピテンシー評価は主としてホワイトカラーにおける人事評価ツールであるということくらいです。
■名著の斜め読み
コンピテンシー評価という手法を編み出す際には,テイラーの科学的管理などまったく参照されていなかったはずですが,こうして両者を見比べてみると,その発想法の底には非常に共通する考え方が見られるのです。
これからの数回は,このように「古典から学ぶ」こと,名著を斜め読み(常識とは違った読み方をすること)について,例を挙げながら述べてみたいと思います。
☆次回もお楽しみに!
「きみは営業に向いてない」
周りの人にさんざん言われていながら入社早々営業担当になってしまった中島が伝える、営業の頑張り方