【斜め読みする経営名著:F. W. テイラー】
斜め読みする経営名著:F. W. テイラー 【4】
◇上林 憲雄氏(Norio Kambayashi)◇
英国ウォーリック大学経営大学院ドクタープログラム修了後、 2005年神戸大学大学院経営学研究科教授、経営学博士。専攻は人的資源管理、経営組織。
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■テイラーの考えた基本原理
これまで3回にわたり,経営学の祖であるテイラーの科学的管理法について,そのいくつかの仕組みについて説明してきました。課業管理,時間動作研究,作業指図票,命令する人と従う人の分離,職能的職長制度などの仕組みについてです。
これらの仕組みは,闇雲にバラバラに考案された制度ではありません。実は,これら科学的管理法の基底には共通した1つの考え方,貫徹された発想法が潜んでいます。
それは,西洋の科学観ともいうべき,ものの見方の特徴です。では,それはどういった特徴なのでしょうか。
■課業管理の仕組みの基礎
課業管理の仕組みの基礎は,分業の原理でした。ボンヤリとした大きな仕事のかたまりを,要素ごとに分割すること―これが分業の原理です。ここには,全体を部分に「分ける」という考え方があります。
時間動作研究は,有能な1人の労働者の体の動きを,ストップウォッチで1つ1つの動作をするのに何秒かかるかを測定して,体の最適な動かし方を追求することでした。ここにも一連の動作を1つ1つの細切れの動作に「分ける」という発想法が潜んでいることが窺えます。そして,時間動作研究で明らかになった最適な動かし方を「標準」として定め,課業管理に活用するのです。
■標準が達成できたかどうかで分ける
標準を達成できた作業員を,標準にまで至らなかった作業員から分離し,両者の間で違った賃率を適用すべきだとする差率出来高賃金の考え方にも,「よく出来た人と出来ない人とを分ける」という考え方がみられます。よく出来た人には高賃率を,出来の悪い人には低賃率を適用するのです。
■命令する人と従う人に分ける
職場で仕事をする際に,命令する人(マネジャー)と,その命令に従う人(作業員)に徹底して分割し,作業員は決して自分で物事を考えてはならない(いわれた通りだけに作業をしていれば良い)というのが,いわゆる「構想と執行の分離」の考え方です。ここにも「分ける」という発想が顕著に見られます。
万能型マネジャーではなく,職能ごとに「分けた」マネジャーを設けるという職能的職長制度の基本哲学も,職長の役割を分けて,1つの役割に専念させることでした。
■「分ける」という哲学
こうして,課業管理や時間動作研究,作業指図票,構想と実行の分離,職能的職長制度などの仕組みに共通してみられる基本原理は何か考えてみると,これらの根底には,一緒にいろいろな要素が雑然と混じり合っている事象を,何らかの基準のもとに「分けること」が有効であるとする発想法が見受けられることに気づくはずです。
人間の動作を極限まで分けるのが時間動作研究ですし,また課業を達成できた人とできなかった人を分けて扱うのが差率出来高賃金制度でした。構想と執行の分離もまさに「考える人」と「体を動かす人」を分けようとする発想です。いずれにしても,全体を部分や要素に分割することこそテイラー流の科学的発想法の基礎をなしていることが窺えます。
■社会の成り立ちの基礎原理の違い
実は,こうした「分ける」という基本哲学をもとにして,西洋の社会システムの様々なところが設計されています。極言すると,部分最適の寄せ集めが全体最適となる,という考え方です。このような考え方は,一見ロジカルで,正しいように見えます。
しかし,日本をはじめ,東洋諸国には必ずしも「分けること」のみを良しとしない哲学がある点に留意しなければなりません。東洋諸国では,分けた各部分の部分最適の統合を介した全体最適化よりも,むしろ全体を感覚的に掴んで理解しようとする志向があります。ですから,例えば,一般に日本企業では分業の体制が緩く,"遊び"が多いのです。
こうして,洋の東西で,そもそも物事を組み立てる発想法や原理そのものが異なっていることに気づくと,海外旅行に出かける際にもいろいろと発見があって楽しいものです。
☆次回もお楽しみに!
「きみは営業に向いてない」
周りの人にさんざん言われていながら入社早々営業担当になってしまった中島が伝える、営業の頑張り方