◇上林 憲雄氏(Norio Kambayashi)◇
英国ウォーリック大学経営大学院ドクタープログラム修了後、 2005年神戸大学大学院経営学研究科教授、経営学博士。専攻は人的資源管理、経営組織。
■カリスマ型マネジメントの崩壊
前々回,このコーナーで述べたカリスマ型マネジメントが崩壊して出てくる1つのマネジメント類型が,前回述べた伝統型マネジメントでした。そしてもう1つ,カリスマ型マネジメントの崩壊とともに現れるマネジメントが,かの有名な官僚制マネジメントです。
官僚制マネジメントは,"法律"(ルール,規則)に基づいて物事への対応が進められるので,ウェーバーは合法的マネジメントとも名付けています。
■精密機械に似た官僚制マネジメント
現代社会のあらゆるところで見られるのが,この官僚制マネジメントです。ウェーバーによると,このシステムが合法的マネジメントと呼ばれるのは,ある特定の目標を達成することを明確に意識して,その達成のための手段が考え出されているからです。
官僚制マネジメントは,よく精密機械にたとえられます。精密機械のそれぞれのパーツには,何らかの果たすべき機能が与えられており,それらの全てのパーツが各々の機能を最大限に発揮することにより,全体の目標が達成されるのです。官僚制マネジメントも同じです。
■誰がやっても同じ結果が得られる
官僚制マネジメントは,正確性,処理スピードの速さ,明確性,連続性など,さまざまな特徴を持っていますが,なかでも最も重要なのは「誰がやっても同じ結果になる」という特性です。この特性は,作業を遂行する人間の個性が業務に反映されないという意味において「没人格性」と呼ばれます。
カリスマ型マネジメントでカリスマの人格そのものがマネジメントに反映されていたのと,まさに好対照です。官僚制マネジメントでは,影響力のある社長がたとえ亡くなったとしても,手続きに則って粛々と同じ対応がなされ,マネジメントが継続されていくわけです。
■行政系の仕事では
私は学外の仕事で,行政や地方自治体系の委員会で司会進行役を仰せつかる機会が結構ありますが,どこの自治体でも,進行に当たっては事務局が「会議シナリオ」を準備します。「何時何分頃に司会者がこういう発言をし,委員会メンバーに意見を言ってもらい,何時何分には次の議題に移り,最終,何時何分に,こういう発言をして会議を閉める」・・・例えばこういったことが記してある文書が司会者に事前に手渡されるのです。(注:当然ですが,委員の意見にシナリオはありません。)
自治体で働いている方々は文字通り「官僚」です。官僚制の没人格性がこういうところにも現れており,司会者が私以外の人になったとしても,同じ意見なら必ず同じ結果が得られるようになっているのです。民間企業では,こうした文書を予め頂くような会合はまずありません。
■没人格であることが公平性に繋がる
没人格性は,「公平性」というコンセプトとも関わっています。つまり,誰がサービスを受けても同じサービスが受けられるように工夫されているのです。例えば,役所の窓口サービスは,特に従来では「対応が悪い」という評価が一般的で,時に官僚制=無愛想で人間味のない対応,の代名詞になっていました。但し,この背後には「誰が窓口に行っても,同じ要請なら同じ結果が得られる」ということ(公平性)を最優先にするからこそ出てくる対応であることを忘れてはなりません。窓口に,偉い地位にある人が行っても,普通の市民が行っても,お金持ちが行っても,そうでない人が行っても、必ず同一のサービスが受けられるということこそ,公的サービスでは肝要なのです。
■状況に応じた判断を
逆に,民間企業では,意思決定や対応にもっと個性がある方が一般には望まれることが多いです。以前,このコーナーでも触れた「人的資源管理」(HRM)の発想法は,実は従業員各自が「個性」があり,その人のオリジナリティが競争優位の源泉となるべきであると考えられています。その意味では,官僚制マネジメントから脱皮すること(脱官僚制)と人的資源管理の考え方には共通項があります。
要するに,今日では,仕事のどういった局面で官僚制マネジメントを活かし効率を追求し,どういった局面では逆に脱官僚的に個性を追求すべきかを判断できる人材になることこそ,求められているといえるでしょう。
☆次回もお楽しみに!