◇上林 憲雄氏(Norio Kambayashi)◇
英国ウォーリック大学経営大学院ドクタープログラム修了後、 2005年神戸大学大学院経営学研究科教授、経営学博士。専攻は人的資源管理、経営組織。
■理論と歴史:対照的な説明法
前回は,理論アプローチと歴史アプローチの2つは対極にある方法であると一般に理解されていると述べました。理論アプローチは,細部を捨象し,できる限りそのエッセンスを大まかにまとめ,「AならばB」の因果連鎖の形で表すことが基本です。
逆に歴史アプローチでは,「神は細部に宿る」と言いますが,できる限り細部にこだわり,安直に因果関係として定式化しないことこそ肝要です。わかりやすく言うなら,学校の授業科目で数学や物理学が理論,日本史や世界史などの科目が歴史と考えればいいでしょう。
■歴史の授業はつまらない?
ところで,学校で学習する歴史の授業は,暗記しないといけない事項が多く試験前が大変で,面白くないと感じた方は居ないでしょうか。・・・実は,わたし自身がそうでした。
わたしの場合,歴史のストーリーとして聞けばそれはそれで楽しいのだけれど,試験や単位のことを考えると,どうしても年号や固有名詞を暗記しないといけないことが多すぎ,勉強のモチベーションが上がりませんでした。逆に数学のような理論は,そうした暗記の必要がない分,(決して得意ではありませんでしたが)楽でした。
■歴史を理論的に捉える
わたし自身の勉強の仕方がまずかったのかも知れません。しかし,最近になって,わたしは歴史科目の指導の仕方や(広い意味での)歴史教育のあり方にも問題があるのではないかと感じるようになりました。歴史=暗記科目という広く流布した印象,理論と歴史を対置させるとらえ方ではなく,理論アプローチの発想法を,歴史教育にも少し取り込むことによって,格段に歴史の勉強が楽しくなるのでは,と考えたのです。
では,具体的にどうすればいいのでしょうか。
■テーマを決めて歴史を学ぶ
現代の歴史の教え方は,当たり前ですが,時代を順に追っかけ,日本史であれば縄文時代,弥生時代と順にそれぞれの人々の生活や政治経済の動きにフォーカスを当てて,その方式で現代まで下っていきます。
でも,時には,例えば「戦争が起きるときは,どういった時なのか?」とか「人々の生活水準が低く,貧しくなるのは,どういった時なのか」といったテーマを掲げ,そのテーマ毎に(時代を追ってではなく)要約・通時代的に理解させるやり方も取り入れてはどうでしょうか。
■歴史を"規則"的に理解する
実は,この方法は,理論的アプローチと同じで,「AならばB」の規則性を追求する教え方です。もちろん,社会現象なので自然科学と同じようには定式化できません。外交上の揉め事が契機となって戦争が起こることもあるでしょうし,国内的な事情が他国との戦争に発展してしまうケースもあり得ます。
しかし,ひとまず,曖昧だけれども,こうした「AならばB」の因果を考え,まとめることにより,随分とすっきりと理解できるのではと思うのです。
■歴史は1ケースの理論
歴史は,多くのサンプル数を集める統計学とは違って,たったの1ケースに過ぎません。でも,たとえ1ケースであっても「こうなれば,こういう現象が起こりうるんだ」ということは示すことができ,その意味で大きな価値があります。統計学のような「こうなれば,こうなりやすい」という確からしさ(といいます)は言えませんが,「こうなることもあり得る」ということを示すだけでも意味はあるのです。歴史はいわば1ケースの理論なのです。
■社史からの将来展望
こうして,サンプル数が1しかない歴史学ですが,強引であっても多少の規則性,因果関係の形で学習する勉強法を取り入れることによって,無味乾燥で暗記中心の勉強方法を面白くできると思うのですが,いかがでしょうか。
皆さんの働く現場でも,こうした自社の歴史や発展プロセスを,規則や法則の観点から眺め直し,まとめてみて下さい。法則性がわかれば,御社の将来も自分なりに予測できるようになるはずです。