■楽しみとしての仕事
「仕事が楽しみなら、人生は極楽だ! 仕事が義務なら、人生は地獄だ!」
これはゴーリキイの『どん底』 (中村白葉訳 岩波文庫 1936年)でのサーチンの台詞です。
モチベーションに影響を与える要因は様々ありますが、そのうちの一つに「仕事の捉え方」があります。サーチンの言葉を借りると、仕事を楽しみと捉えるか、あるいは義務と捉えるかでモチベーションには「天国と地獄」ほどの差があります。
では、「楽しみとしての仕事」とはどのようなものでしょうか。唯一解はないとしても、二人の石切り職人という寓話が考えるためのヒントになります。
「教会の建設現場に2人の石切り職人が働いていた。旅人が1人の石切り職人に、あなたは何をやっているのか、と聞いたところ、『俺はこのいまいましい石を切るために悪戦苦闘しているのだ』という答えが返ってきた。もう1人の石切り職人に同じことを聞くと、その男は目を輝かせて『私は人々の心の安らぎの場となる素晴らしい教会を作っているのです』と言った。」
いまいましい石と悪戦苦闘している職人と目を輝かせている職人とでは、どちらが仕事を楽しんでいるかは明らかでしょう。
■二人の石切り職人という寓話からわかること
この寓話から3つのことがわかります。
(1)仕事の作業内容そのものではなく、仕事の目的(何のためにこの仕事をしているか)から考えてみる
(2)仕事の目的は、仕事の先にある他の人々や社会との関わりから捉えてみる
(3)仕事の目的と自分の価値観(信念、信条、趣味など)が一致していれば、仕事を楽しめる
(3)について補足すると、二人目の職人は神への信仰があるからこそ、神への祈りの場である教会づくりの一工程である石切という仕事に価値を見出し、仕事が楽しみになっていると考えられます。このように仕事の目的と自分の価値観の一致こそ、仕事が自分にとって喜びや満足につながるかどうかという点に欠かせないのです。社会との関わりから仕事の目的を捉え、それが自分にとって価値あるものだった時、仕事は楽しみになるといえます。
■部下にモチベーションを上げるにはコミュニケーションが大事
さて皆さんの部下がモチベーションが上がらず悩んでいるときに、皆さんはどう対処しますか? 「仕事とはそういうものだから、泣き言を言わずに頑張れ」、「どんな仕事にも楽しみはあるはずだから、それを見つけなさい」と本人に投げ返していませんか。
部下の価値観を介して、部下の仕事と社会とのつながりを見つける手助けをする。これが部下のモチベーション向上におけるリーダーの役割です。そのためには、部下と深いレベルでコミュニケーションをすることが必要です。
深いレベルでのコミュニケーションには面と向かった話し合い、いわゆるフェース・トゥー・フェースでのコミュニケーションが有効です。メールの普及によって、職場におけるフェース・トゥー・フェースでコミュニケーションをする機会が減少してはいませんか。今では死語になった感もある「飲ミュニケーション」も、たとえそれを目的としたものではなかったにしろ、結果的にリーダーが部下の価値観を知るいい機会になっていたといえます。「飲ミュニケーションを復権せよ!」とまでは言いませんが、部下とじっくりとコミュニケーションをする機会を是非、持っていただきたいと思います。
とはいうものの、部下の価値観にいきなり立ち入ることが難しい場合は、これまでに仕事で夢中になったことはあるか、それはどんな時であったか? なぜ夢中になれたのか? という話から始めるのがいいでしょう。(残念なことに)仕事で夢中になったことがないという場合は、プライベートでそのような状態になったことがなかったかを聞いてみるといいでしょう。
まずは「***しているとき」と場面を特定し、次になぜそのような気持ちになったかを考えさせるのです。このような会話を進めることで、部下はどのような価値観を持っているか、が少しずつわかってくるものです。
☆次回もお楽しみに!