※バックナンバー
【第1話】「営業~お客さんと一緒に仕事を面白がる」┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
◇今回のビジネスパーソン◇
平野 茂実(Shigemi Hirano)
大手電機会社や大手メーカーで、経理・営業職や新規企画の
仕事に携わる。豊富な経験に基づき、現場ですぐに役立つ
知識やノウハウを温和な話し口で語る。
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◇営業の話に限定しませんが、お仕事をされた中で一番心に残っていることは何ですか?
◆一番印象に残っているのは、上司とともに、外国の某大企業のメーカーさんとOEMのネゴシエーションをしたことですね。
◇OEMというのは?
◆「OEM」とは「Original Equipment Manufacturing」のことで、要は、自分のところで作ったものを、相手先の会社のブランドをつけて売るというものです。例えば、日本のAというメーカーが作ったものを、アメリカのBという大企業が自分の会社のブランド力で売るという形です。
◆そのOEMのネゴの時は、私は一介の課長で、英語がペラペラの海外経験豊富な部長と同席していたんですけども、その部長のネゴシエーション能力はすごかったですね。
◆とにかく、6時間でも7時間でも平気でしゃべって、要求の仕方もすごいんですよ。押したり引いたり、体力もあるし、頭もいいし、しまいにはアメリカ人が涙を流してしまいました。
部長のタフ・ネゴシエーション能力についてはすごく印象に残ってますね。僕はまねできないなと思いました。非凡な人がいるな。やっぱり世間は広いなと。
◇具体的には、実際にどのようなやりとりがあったのですか?
◆アメリカとの交渉だったので、契約ベースの話です。いろいろな契約の条件というのが事細かにありまして、特にアメリカは、法務的な縛りが非常に多い書類を作って、それを一つ一つチェックします。量にしたら、英語の文章でびっしり書いてあるものが60ページぐらいありました。それを端から端まで、これはこうだこれはこうだってやっていくと、果てしなく時間がかかりました。
◇やはり契約時に、一つ一つちゃんと確認していかないと、後で大問題になるんですか?
◆ひとつひとつやります。一字一句読みます。気が遠くなるような交渉ですね。
◇結構ムリなことがさっと書いてあったりするんですね。
◆あります。
◇でも、それは見逃したらこっちが悪くなるんですか?
◆そういうことです。例えば、日本のAというメーカーが、アメリカの大企業B社へOEM供給したとします。B社がお客さんに納めてトラブったら、B社は「その責任は被らないよ」「全部製造したA社の方の責任だ」ということを言います。
◆確かに、故障したり、商品が火を噴いたりしたら仕方がないですけど、お客さんの使用ミスでも、訴えたりされる場合がアメリカではあります。実際にあった無茶苦茶な話として、「飼ってたペットの猫を、体が濡れたから電子レンジでチンしたら死んじゃった。ひどいじゃないか。『猫入れるな』って、説明書に書いてないだろ」といって訴える人がいるぐらいの社会ですから。
◆そうやって難癖つけて訴えてくるわけですが、アメリカの大企業B社に「うちは関係ないから」と言ってこられた日にはたまらないわけです。
◇どういう問題が起きるんですか?
◆実際あった例として、プリンタを使って出した図面で、お客さんがビルを作ったら、しくじっちゃった。「これは、設計ミスじゃなくてプリンタが悪いんだ」とか、もう無茶苦茶なことを言ってきます。そういう無茶な
訴訟でアメリカのB社が訴えられた時、「いやこれは違う。プリンタを作った日本のメーカー(A社)の責任だ」と言ってこられた日には、細かい難癖の訴訟まで全部日本のA社が引き受けることになってしまいます。
◆だから、製造物そのものに関する責任と、市場での難癖的なトラブル対応は、明確に分けましょうと。当たり前の話ですが。